第5話 初めての感触 ①

大地は急いで、一階へと降りた。

ロボットを収納しておく、格納庫がある。

そこは先ほど、大地も来た場所だ。

ヤマトのエースパイロット、住良木洋人が運び込まれた場所。

大地の脳裏に、血まみれの包帯を巻いた、洋人の姿が浮かんできた。


「大地。」

思わず、体がビクッとなる。

「操縦方法は、頭に入ってるな。」

「はい。」

雷人は、パイロット服を、大地に渡した。

「乗る時は、必ずこれを着ろ。」

「はい。」

「ヤマトはこっちだ。」

急に歩きだした雷人に、大地はついていくのが、やっとだ。

「ここがコックピットだ。」

「ここが…」

スマートなボディの中に、広いスペース。

何もかもが、新鮮だった。


雷人が電源を入れると、周りがパーっと、明るくなった。

大地はその中に入り、ストンと操縦席に座った。

「大地、無線だけは絶対に切るな。センターからの指示には、必ず従え。」

「はい!」

「…無茶だけは、するなよ。」

「はい!」

大地はふと、雷人の方へ、振り向いた。

雷人は小さくうなづくと、コックピットの扉を閉めた。


『ヤマト、ヤマト。聞こえますか?』

「は、はい!」

センターからの無線だ。

『ヤマトとの交信を担当する、神林明里(カンバヤシ アカリ)です。よろしく。』

「天海大地です。よろしくお願いします。」

『早速で悪いんだけど、発進準備をお願いします。』

「はい。その前に、一つだけいいですか?」

『ええ…どうぞ?』

「明里さんは、キャプテンの妹さんですか?」

『そうだけど?よく、分かったのね。』

「はい。声の感じが似てました。」


明里は、思わず微笑んでしまった。

急きょ、新型ロボットのパイロットに選ばれた彼。

ガチガチに緊張しているのかと、思っていたら……

『慣れているのね。その感じだと、飛び出すのも無意識?』

「まさか。飛ぶのは、今日が初めてです。」

明里は、小さく声を漏らした。

『そう…でも、大丈夫よ。私がついているわ。』

「はい。頑張ります!」


今、ヤマトに乗っているパイロっトが、研修を終えたばかりの、15歳の少年だと言う事を。

明里はまだ、知らなかった。

雷人はセンターに戻ると、ヤマトとの交信を担当している、妹の明里の元へ行った。

「どうだ?新しいヤマトのパイロットは。」

「…とても、度胸がある方なんですね。」

クスッと笑った雷人は、明里の背中をポンと、軽く叩いた。

「頼むぞ。出発だ。」

「はい。」


明里は、ヤマトに無線を入れた。

「大地君、発進準備をお願いします。」

『発進準備?』

「もう少し前に行くと、発進する時に使う、スターティングが置いてあるから、そこへ足を乗せて。」

『はい。』

大地が、ロボットのアクセルを踏むと、ヤマトは右足を動かした。

「動いた…」

自分は、本当にヤマトに乗っているんだ。

大地は夢と現実を、同時に味わっていた。

「これか。」


スターティングの上に、大地はヤマトの足を乗せた。

『明里さん、足を乗せました。』

「了解。ヤマト、発進準備完了しました。」

「よし!発進だ!」

雷人の号令がかかる。

「ヤマト、発進します!」


明里のその掛け声で、ヤマトを乗せているスターティングが、徐々にスピードを増しながら、前へ進んで行く。

「うわっ!」

飛ぶタイミングを見失うと、態勢が崩れて危ない。

「発進する時は、ものすごく重力がかかるって聞いたけど……こんなにも、すごいなんて…」

経験した事もないような重力に耐えながら、大地はタイミングを見計らう。

「今だ!」

スターティングが、一番前に来た時に、同時に上へと飛んだ。

「やった…」

初めてにしてみれば、上出来なものだ。


一方、センターでは。

「キャプテン、本当によかったんですか?」

「何がだ?」

「15歳の少年を、ヤマトに乗せるなんて。」

監視員が、雷人へ質問する。

それを聞いた明里は、驚いた。


「15歳!?」

明里は、兄の雷人を見た。

「ああ…」

年下だとは感じていたが、まさかそんな子供だったなんて。

「大丈夫だ、明里。大地はまだ若くても、ヤマトの訓練生に、選ばれてたらしいからな。」

「若いというよりも、まだ、子供なのでは……」

「だが今は、その少年に賭けるしかない。」


明里は、ゴクンと息を飲んだ。

そうだ。

この少年しか、ヤマトに乗れるパイロットはいないのだ。

明里の肩に、何か重いものが、のしかかった。

『明里さん!』

外にいる大地からだ。

「はい!」

『敵の位置は、分かりますか?』

「あ…」

『明里さん?』

「大丈夫よ。今、教えるわね。」


年令は関係ない。

今、最前線に立っているのは、彼なのだ。


「敵の場所は!」

「8時方向です!神林中佐。」

「大地君、敵は8時方向よ!」

『左後ろか!』

大地は上に昇り、後ろを見た。


敵が2、3機、固まって見える。

大地は、銃を構えた。

『大地君、無理よ。撃つならもっと、近づいて!』

ヤマトの行動は、全てセンターのモニターに映し出されていた。

「はい。」

自分の行動が筒抜けになっているのは、正直嫌だが、今はそんな事も、言っていられない。

大地は、敵に向かって進んだ。


「明里さん、どのくらい近づけばいいですか?」

『ヤマトに装備されている銃の有効射程距離は、1万1千キロ。それまで近づけば…』

「1万1千キロ……確か照準器には、射程距離を測るスイッチがあるはずだ。どこだ?」

大地は、照準器の横にあるスイッチを、手当たりしだいに触った。

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