Save the Earth Ⅰ
日下奈緒
第1話 パイロットになる為に①
2100年。
大船団を連れた、綾瀬源一郎の一行は、月に降り立つと、「ルナ」という、月独自の国を作り上げた。
資源の乏しい月において、まず確保しなければならないのは、空気・水・光、そして、それらを生成するのに必要な、《電力》だった。
一方、地球には既に、太陽光エネルギーに寄る、電力化が進み、21世紀に北アフリカと呼ばれた、エリア2には、莫大な数の、太陽光パネルが設置されていた。
これに目を付けた「ルナ」は、隙を見てパネルを奪い取った。
半分近くの、パネルを奪われた地球の電力は、極端に弱くなり、特に医療分野への影響が、大きいものとなった。
かくして、地球対月の争いは、日増しに激化を増すのであった。
2105年、地球。
軍の、基地の中にある養成所。
ここでは、15歳から30歳までの若い男女が、地球の新型ロボットCIT2105、通称「ヤマト」に乗り込むパイロットになるべく、訓練を受けていた。
そして今日は、その訓練の卒業式。
半年に及ぶ、厳しい訓練をくぐり抜けた20名の中から、本日、そのパイロットが発表になるのだった。
15歳の
軍に入って、初めての訓練がこれだった。
「いよいよだな、大地。」
「ああ。」
一緒に訓練を受けてきた、川井風真(カワイ フウマ)は中学からの親友だ。
「どっちが選ばれても、恨みっこなしだぞ。風真。」
「分かってるよ、大地。」
共に、最年少で選ばれた二人は、発表を今か今かと、待ち望んでいた。
式場に座った訓練生の前に、教官が立った。
「諸君、静粛に。」
シーンと、静まり返る式場。
「これより、CIT2105、通称ヤマトのエースパイロットを発表する。」
20名の訓練生、全員が息を飲んだ。
「ここにいる者皆、厳しい訓練に、よく耐えてくれた。私は誰が選ばれても、おかしくはないと思っている。選らばれた人間は、ヤマトのエースパイロットとして、相応しい戦い方をしてほしい。では、名前を読み上げる。」
教官は、手元にある書類を、めくり上げた。
しばらくの静寂の間、読み上げられた名前は……
「新型ロボットCIT2105、通称ヤマトのエースパイロットに選ばれたのは…」
大地と風真は、体が知らない間に、前に来ていた。
「アースシップ中佐、
「はい!」
一際大きく返事をした洋人とは別に、周りの人間は、大きなため息をついた。
特に大地は、がっくりと肩を落とした。
「大地。住良木さんじゃあ、仕方ないよ。住良木さんは、訓練生の中でも、成績はトップだったんだから。」
風真が、大地の肩に手を置いた。
「そう…だな。」
それでも大地には、諦めきれない理由があった。
5年前、西暦2100年。
突如、大戦艦を連れて、月へと旅立った、一行があった。
両親が事故で死に、9歳離れた姉と、二人で暮らしていた大地。
朝起きると、いつもいるはずの、姉の姿がない。
「姉さん?」
何気なく姉の部屋を開けてみると、荒らされたかのように、物が無くなっている。
「え?…」
まさか……
大地は急いで、服に着替えると、外へと出た。
「おい!聞いたか?月へ移住する話。」
「ああ!中には学生とか、研究者もいるんだろ?」
そう言って、出航する港に向かって、人々が走って行く。
学生? 研究者?
― 大地、私ね……
綾瀬教授みたいに、月の研究者になりたいの ―
姉はよく、そう言っていた。
「そんな…姉さんが僕を置いて、月なんかに行くわけがない!」
大地は、不安を抱えながら、出航する港へと向かった。
港に着いて、大地は姉を探し回った。
「姉さん、姉さん!!」
たくさんの人の中を、大地はくぐり抜けた。
「そこの僕?」
大地に、声を掛けた人がいた。
「お姉さんと、はぐれたのかい?」
「はい…」
大地は、小さく返事をした。
「どんな人なのかな?」
「ええっと…」
大地は、姉と一緒に撮った、写真を見せた。
だが、それを見た相手は、途端に顔を曇らせた。
「知ってるんですか?」
大地が、詰め寄ると相手は、写真を返してきた。
「ああ…知ってるよ。美しい人だったからね。」
「どこにいるのか、教えて下さい!!」
相手の人は、一番前にある大きな船を、指差した。
「え?」
「あの船に乗っていた…」
大地が慌てて、振り向いた瞬間だった。
その一番前にある大きな船は、はるか38万キロ先にある“月“に向かって旅立った。
「姉さん…」
両親が死んで、自分を育ててくれた姉。
あんなに優しかった姉さんが、自分一人を置いて、行ってしまうなど、あり得ない!!
「連れ去られたんだ!!」
「えっ!!」
「僕の姉さんは、あいつらに、連れ去られたんだ!」
大地には、そうとしか思えなかった。
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