木崎さんと浅見くん
三学期を迎えても、あさみんはまだしょんぼりしていた。
学園祭が終わってすぐにエンジくんと桃子ちゃんが、東京に戻ることになった。そのときはあさみんも笑って見送ってたけど、そのあとからずっと元気ない。
ぼんやーり、どっか見ていて、つまらないなぁと思う。それでも、試験結果はそこそこのだったから、抜け目ないなって思う。
今日もぼんやーりと1日を過ごして、 あさみんは帰ろうとしている。
あたしは自転車置き場に先回りして、あさみんを待ち伏せた。
今日こそ、告白をしようと思って。
学園祭のときにしようと思ってたのに、バタバタしてそれどころじゃなかったし、そこから先はあさみん腑抜けだし。
あさみんはあたしに気付かずに、自転車に跨がってそのまま帰ろうとしている。
あたしは強引に後ろの荷台に乗っかると、あさみんに抱きついた。
「え? え? 木崎さん?」
「気付かないとかにぶちん! 出発進行!」
ノロノロとあさみん号が進む。
あたし、そんな重くないですけど?
この恋の始まりは中学三年生まで遡る。
あさみんがあたしのいた中学に転校してきたことだった。
他にも鬼藤くんと鏡花ちゃんと一緒で……みんな鬼以外の人間に偏見を持ってた。
同じ学年に人間がいなかったのもあるかもね。
そんな中に放り込まれたから、あさみんは好奇の目で見られていた。
特に鬼藤くんは昔から人間嫌いだったから、あさみんのことを良く見てなかった。
あたしはその頃鬼藤くんの言うことは絶対だ、と思ってた。有力者のお家だし、うちのパパは鬼藤くんのお父さんの会社で働いてるし。触らぬ神に祟りなしって感じ。
だから、教室の端で大人しくしてればいいやーって日和見していた。
ある日、鬼藤くんがあさみんのことでキレたことがあった。
……原因はなんだっけ。誰かの陰口言ったとか言ってないとかだったっけ。
とにかく、ぶちギレた鬼藤くんは鏡花ちゃんにも止められなくて、あさみんは襟を掴まれてやんややんや言われてた。
そのとき、あさみんは何も言い返さなくて、最後の最後に「ごめんね、人間で」って言った。
鬼藤くんの顔は青ざめていた。
きっと、陰口がどうこうなんて取っ掛かりに過ぎなくて、あさみんは鬼藤くんの怒りの根源に気付いていたのだろう。
それから、鬼藤くんはあさみんに一目置くようになった。突っかかったり、変に距離を置いたりすることもなかった。
あさみんが鬼藤くんに「ごめんね、人間で」って言ったあの瞬間、あたしはとてもドキドキした。
あさみんが言葉で傷付けたり、暴力や誰かに頼ることもなく、鬼藤くんの怒りを一瞬で鎮めてしまったことに感動したんだ。
人間だとか、鬼だとかどうでもいいくらいに、かっこいいと思ったんだ。
男子の中でも細い方の背中におでこを当てる。そのままぐりぐりと擦り付けると、あさみんの自転車はぐらぐらと揺れた。
「ちょっと! くすぐったい!」
「ねーぇ、あたしじゃダメ? エンジくんみたいにゲームは出来ないけど、あさみんの側にずっと居てあげるよ?」
「……は?」
自転車が金切り声をあげて止まった。
振り向いたあさみんの三白眼。イケメンじゃないって本人は気にしてるけど、あたしはこの顔が好き。
「もう三年も好きなんだよ。きっとこの先もあさみんのことずっと好きなんだと思う。
あさみんが転校しちゃっても、遠距離恋愛になってもずーっと好き。
だから、責任とって付き合って」
結婚して、はさすがにあたしからは言えなかった。あさみんに言ってほしいんだもん。
あさみんは顔を真っ赤にして狼狽えている。可愛いなぁ。
それってもう、答えだよね?
あたしは背伸びをしてキスをした。
おわり。
Peach!! 美澄 そら @sora_msm
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