誰かを好きにならねば退学になってしまう――だが人を好きになるとは?

規則のパラドックスとは後期ヴィトゲンシュタインの『哲学探究』に登場する議論で、のちにソール・クリプキによって整理された。
簡単に述べると「規則に私的に従うことはできない」ということ。

この構図は、主人公・品近社が、「誰かを好きにならなければならない」という校則の学校に入学してしまったのに、シスコンなのでそのルールにそのまま従えないという形で表現されている。
しかしこれは必ずしもシスコンでなかったなら問題にならないわけではなく、それこそ付き合っていることと実際に両思い(もしくは片思い)であることは決定的に違うのであって――

しかし本当はどう違うのだろうか? 
この花園学園では自分のパートナーの名前を誓約書に記載することが求められる。
自分が好きになる対象がいなければ記入できないのだが、逆に自分が記名を求められたら?
それは学園に残るための単なる方便でしかないのか? 
そもそも人から好かれてしまうとは? 

そんなコミュニケーションの機微を、哲学の意匠とともに味読していける意欲作である。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=村上裕一)

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