規則のパラドックスとは後期ヴィトゲンシュタインの『哲学探究』に登場する議論で、のちにソール・クリプキによって整理された。
簡単に述べると「規則に私的に従うことはできない」ということ。
この構図は、主人公・品近社が、「誰かを好きにならなければならない」という校則の学校に入学してしまったのに、シスコンなのでそのルールにそのまま従えないという形で表現されている。
しかしこれは必ずしもシスコンでなかったなら問題にならないわけではなく、それこそ付き合っていることと実際に両思い(もしくは片思い)であることは決定的に違うのであって――
しかし本当はどう違うのだろうか?
この花園学園では自分のパートナーの名前を誓約書に記載することが求められる。
自分が好きになる対象がいなければ記入できないのだが、逆に自分が記名を求められたら?
それは学園に残るための単なる方便でしかないのか?
そもそも人から好かれてしまうとは?
そんなコミュニケーションの機微を、哲学の意匠とともに味読していける意欲作である。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=村上裕一)
これは単なる学園ラブコメではありません。
人気者のラクロス部員に対する嫌がらせ事件を解決していく中で、風変わりな校則「恋愛エクリチュール」の存在意義に疑問を持ち、自然な恋愛とは、人を好きになることとは——という人間の心理に迫る前半パート。
そして、校則改定に乗り出す一方、失踪した姉の行方を追って驚くべき真相に辿り着く後半パート。
個性豊かな女生徒たちに翻弄されるラブコメであると共に、学園に蔓延る事件や謎を追うミステリの要素も持ち合わせた、まさに一粒で二度美味しい作品です。
ちらりちらりと見え隠れする、学園全体を巻き込んだ恐ろしい陰謀。彼らの選んだ行動が周囲の人間関係を丸ごと動かしていくクライマックスは圧巻で、なおかつラブコメらしいラストには思わずニヤリとしてしまいました。
私の推しは素子ちゃん。
「そもさん」「せっぱ」で始まるお馴染みの問答や、言い合いしながらも何だかんだで噛み合っている、息ぴったりのやりとり。
ケンカップル好きの私としては、終始ニヤニヤしながら拝読いたしました本当にありがとうございました。
恋におちることを義務づけた校則をもつ学校を舞台に、さまざまな愛の形がえがかれた物語です。
恋は自然に生じるという考えと、規則があるからこそ恋が生じるという考えの対立、そして規則で恋を援用しようという考えなど、「恋する規則」を中心に、登場人物たちの恋が軽快な筆致でしるされていました。
よんでたのしいラブコメというだけでは収まりきらずに、取りあげられたテーマについてかんがえてみたくなるのが、じんたねさんの作品のよいところだとおもいます。
快活な会話劇はそのままに、登場人物たちの気持ちを浮き彫りにする描写が多いのもおすすめポイントです。
ときに切なく、ときにちからづよく、そしてときにおそろしく、ときには滲んだままで、いろいろな恋が交錯するなかで一応の結末をむかえましたが、この物語、とじていませんよね。
これからもつづくであろう登場人物たちのどたばたに思いをはせてしまいます。