Act.32 またここから、またこれから

「ありがとうございました! また冬のKAZAHANAのミスコンも楽しみにしてて下さい!」

 ざわつきながら退場していく人達に、挨拶しながら歩く。


「的野君、面白かった!」

「蒼介、良かったぞ!」

「おお、ありがとな!」

 クラスの友達や知り合いにねぎらいの声をかけられながら、実優さんのところに向かった。



「蒼クン、部室に行って、余ってる紙袋を持ってきて下さい」

「分かりました!」

 人の波をよけながら、体育館を出る。



「終わった、のかあ」


 誰に訊くでもなく、呟きが零れた。




 ホントに終わったのか、まだ実感が沸かない。

 ちゃんと終われたのか、自分には分からない。


 こんなあっという間に過ぎたけど、何もミスはなかったか。

 面白かったか。お世辞なんかじゃなく、本当に面白いと思ってもらえたのか。

 緊張が解けそうで解けないまま、もやもやした感情を溜めこむ。



 なんとなく走る気にならなくて、周りを見ながら歩く。

 門には装飾。着ぐるみがビラを配っている。

 晴天の中、祭が、俺達の四季祭が、騒がしく開祭されていた。




 目の前に中学生らしい女の子の集団がいて、歩く速度を緩めた。後ろの俺にも気付かず、夢中で話す。


刃香冶ばっこうやさんだっけ。すっごく可愛かったよね! アタシ、あの人が優勝すると思った」

「私、鎌野さんの方が好きだったかも。フィオレンティーナだっけ? 演技も面白かったし! 明日、演劇部の見に行こうかなあ」

「まあ伊純さんメチャクチャ綺麗だったし、優勝は納得だけどね。ドレス姿ヤバかった!」



「私、ミスコン初めてだったんだけど、面白かった!」

「うん、良かった良かった! コーラ早飲みも面白かったし!」

「ミスコン作るのすっごく楽しそう! 水代に入れたら企画同好会入ろっかな!」

「もう、紀子はすぐ影響されるんだからー」





 ああ、うん。ああ。




 ひどい出来だった。きっと、ひどい出来だった。

 トークの内容だってホントはもっと準備したかったし、企画だって出場者と一緒に打ち合わせしながら進めたかった。


 パンフレットだって誤字はいっぱいあるだろうし、BGMだってもっと凝ってみたかった。ブカブカのドレスなんか着せたくなかったし、事前の告知だって力を入れたかった。


 あんなにバタバタで作ったんだから仕方ないけど、ひどい出来だった。

 去年どころか、ここ2~3年でもワースト1の出来だろう。

 ひょっとしたら歴代でも最低レベルかもしれない。



 それでも。

 駈けずり回って、ケンカして、徹夜もして。

 そんな俺達のイベントを、楽しく見てくれた人がいる。


 どんな苦労があったかなんて、これっぽっちも知らないで、ただ楽しいと言ってくれた人がいる。




 そして、あの頃の俺を、俺と同じ人を見つけた。

 ミスコンを見て、ミスコンを作ってみたいと思った俺を見つけた。

 それだけでもう、全部報われた気がする。救われた気がする。



 ほんの少しだけ出てきた涙を拭って、誰にも見えないように小さくガッツポーズをして、全速力で部室に戻った。




***




「もう、信じられない! ドレス無くなるとかさ!」

「仕方ないだろ。サンバ部と吹奏楽部に言えって」

 荷物の片付けと体育館の掃除を終えて、羽織と一緒にステージに横になる。



 出場してくれた3人には、めいっぱいお礼を言った。


 鎌野からは「フィオレンティーナの舞台を見てちょうだい!」と、明日の公演のチケットをもらった。仕方ない、見に行ってやろう。


 伊純さんは「香港に行って生のアクションスターを見る!」と参加賞の旅行券片手に興奮して握手してくれた。おねだりしていいのはサインだけですからね、階段落ちは多分ダメですからね。


 ばかのんは「また早飲み対決やろーねー」と言いながら、実優さんのノートをもらって飛び跳ねてた。もうしばらくコーラ飲む気ないからな。



 次の部活が企画の準備を始めるまで10分弱。

 ほんの少しの間、体育館を貸切。

 ステージの上で、大の字になる。


「無事に見つかったんだしさ、まあ良かっただろ?」

「良くないよ! アタシまでコーラ飲まされたし!」

 声のボリュームは大きいけど、口元が笑ってることは声で分かる。


「はいはい、じゃあ羽織、右腕出せ」

「なんでさ! アタシ悪くないもん!」

「いいからいいから」


 パシッ


「よし、これでこの話はおしまい!」

「まとすけズルい! アタシの怒りはまだ収まってないんだぞ!」

「もうおしまいでーす。両成敗でーす」

「アタシやりかえしてないし!」


 また横になって、笑顔でケンカを続ける。


「蒼クン、ハオちゃん、お疲れ様でした」

 実優さんがドレスの袋を持って歩いてきた。


「お疲れ様です、みゆ姉!」

「実優さん、お疲れ様でした!」

 失礼と分かりつつも、大の字が心地よすぎて、寝たまま挨拶した。



「ハオちゃん、ドレスの件、指示が遅れてごめんなさい」

「いいんです! あれはまとすけが全面的に悪いので!」

「うるさいっての」


「ふふ、じゃあ蒼クンのせいにしておきましょうか」

「実優さんまで!」

「やーいやーい、まとすけが悪いんだー!」


 くだらない言い合いをしてると、恭平がサイコロを持って体育館放送室から下りてきた。


「お疲れ様でした!」

「おお、恭平お疲れ!」


「あさみん、ありがとう! あさみんがドレス見つけてくれなかったらまとすけを血祭りに上げるところだったよ!」

「お前はまだ言うか!」

 横になったまま腕を伸ばし、羽織の背中にパンチを入れる。



「恭クン、お疲れ様でした。初めてのミスコンはどうでしたか?」

「最高でした! 早く冬のKAZAHANAのミスコンやりたいです!」

「お前、気が早いっての。ちょっとは休もうぜ。秋のMACHIYOIは企画ないんだし」

 笑いながら、座り込んだ恭平にツッコむ。


「実優さん。実優さんはミスコン、どうでしたか?」

「はい、最高でした」

 ピースする実優さん。



「秋のMACHIYOIも、何か企画が出来たら面白いですね。これまでのミスコンの写真展示とか」

「いいですね! オレ、ミスコン出場者OGの座談会とかやって冊子に載せたいです!」

「おお、それいいな恭平!」

「それならアタシ、歴代のドレスも飾りたいです!」

  1つ終われば、また次の企画。アイディアは尽きない。


「KAZAHANAも、出来たら少しだけでもお手伝いしたいなあと思ってます。受験勉強の様子見つつですけど、やっぱりミスコン大好きなので」

「みゆ姉なら受験大丈夫ですよ! 一緒にやりましょうね!」


「はい、頑張りますね。ハオちゃんも、勉強ちゃんとやらないとダメですよ。そろそろ期末試験の結果も返ってきますし」

「うう、みゆ姉、やめて下さい。お腹が痛くなります……」

 4人で笑う。




 この4人で作るミスコンはもうないのかもしれないけど、寂しくはない。

 寂しくならないように、悔いは残さなかったから。

 俺達はこれから何回かミスコンを作るけど、このミスコンは、バカみたいに突っ走って作ったこのミスコンは、忘れようとしたって忘れられないはず。





「みゆ姉、そういえば、今日の夜は打ち上げやるんですか?」

 興味津々で羽織が聞く。


「あ、そういえば打ち上げやるって言ってましたね」

 その単語に吸い寄せられるように、俺も起き上がった。


「あ、ええ、一応お店の予約はしてあるんですけど……」

「けど?」

 少し困った顔で笑う実優さんに、首を傾げる羽織。


「思い切ってのお店にしてたんですよね」

「ええええええええええええええ!」


 3人の不協和な合唱に答えるように、予約したお店のサイトをスマホで見せてくれる実優さん。


「ホントだ! すごい、みゆ姉! 予知能力あるんじゃないですか!」

 紙を持ったままハイになる羽織。

「的野先輩、このタイミングで牡蠣食べて大丈夫なんですかね……? なんか嫌な予感が……」

「これで俺達も倒れたら新聞部にニュースにしてもらおうぜ」

 苦笑いで言うと、恭平も「ですね」と吹き出した。



「だいじょぶだよ、まとすけ。アタシ達の分も、元出場者があたってくれたのさ!」

「発言が罰当たりすぎるだろ」

「……あっ、そういえば的野先輩! 牡蠣にあたって苦しんでる女の子って、見てると興奮するものなんですかね?」

「何を急に思い出したんだお前は! そんでもって絶対興奮しちゃダメだよ!」



 お前らはホント、相変わらずだな。



「みんな、この後どうしますか? 少し寝ますか?」

 実優さんの心配に、座り込んでる全員で首を横に振る。


「アタシ、全然眠くないです! ご飯食べてお祭り見ましょう!」

「そうですね、オレもお腹空きました!」

「お、あさみんもか! 将棋部の作る焼きそばがおいしいらしいぞ!」


 2人の会話を聞きながら、実優さんの方を見る。



「じゃあ実優さん、荷物部室に置いて、部室棟周っていきましょう。俺もお祭り見たいです!」

「そうですね、じゃあみんな、荷物持って部室に行きましょう」

 実優さんはニッコリと笑った。


「はーいっ!」

 小学生のように元気に返事をする。


 実優さんが体育館から出て行って、恭平が後に続いた。




 横に荷物を置いて、ステージに座ったまま、正面を見る。

 さっきまで、ここに1000人の人がいたのか。誰もいない今は想像もできないけど。



 また冬には、ここを満員にしよう。

 今回よりも、もっともっと良いステージにしよう。


 それを見て楽しんでくれた人が、また次回も見てくれれば。その中の誰かがいつかミスドに入ってもらえたら。

 それはどんなに嬉しいことで、どんなに幸せなことで。


 そんな祭を、また創らないとな。





「まとすけ、行こ! 焼きそばがアタシ達を待ってるぜ!」

 立ち上がって、手を伸ばす羽織。


「おう、行くか!」



 ミスコン企画同好会、通称ミスドの「ミス水代コンテスト」は無事終了。

 でも、四季祭~MIJIKAYO~は始まったばかり。



 祭はいつだって、直前のおマツリ騒ぎも面白い。


 そして今日も明日も、楽しい祭になりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カツラと階段とコーラがあれば、ミスコンは18時間で創れる 六畳のえる @rokujo_noel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画