Act.31 祭・色・兼・美

「まとすけ、何してるのさ!」

 羽織は、零れそうなほど目を丸くしていた。


「マトスケーノ! 突然どうしたの、こんなところで!」

 一方、すぐに演技に入る鎌野。こういうキャラで助かるぜ。


「お前、明日魔女裁判にかけられると、そう言っていたな!」

 明日の演劇部の演目紹介をしてるから、観客もネタを分かってる。


「え、ええ、そうよ! でも、マトスケーノ! 私は魔女じゃないの!」

「ふっふっふ、ならば、証明してみるがいい! フィオレンティーナ、知っているか、魔女の弱点を!」

「ま、魔女の弱点……? そ、そんなもの、あるはずが――」

「ふははっ! 知らないなら教えてやろう! 魔女の弱点……それはコーラだ! 魔女は人間より早くコーラを飲むことが出来ないのだ!」


 会場がどよめく。これから起こることの予想がついた人が、隣の人に耳打ちで教えてるのが、ちらほら見える。



「そこの司会者! 準備を手伝いたまえ!」

 すっかりマトスケーノになりきって、羽織を手招きする。


「まとすけ、何するの?」

 ステージ袖で興味津々に聞く羽織。


「いや、企画も長いから、ちょっと水分補給をね」



 ニヤリと返事しながら、2人で物品置き場の折り畳み机を運び出す。机の上に紙袋を乗せた。


 ステージ上には出場者と俺達の5人。うち2人は、どうやら中世の人らしい。

 そしてステージの中央には、机と紙袋。


刃香冶ばっこうや! 今からお前は、バッコヤーナだ!」

「まとのん、何言ってるのー?」

「これを着ろ、バッコヤーナ!」


 紙袋から、コットとカツラを出して投げ渡す。


「お前とフィオレンティーナでコーラ早飲み対決だ! 勝った方が人間、負けた方が魔女だ!」


 制服の上から衣装を着ながら、少し俯き気味のばかのんが笑う。


「くははは! この私、コーラの女王と謳われたバッコヤーナに、こんなどこぞの馬の骨ともしれない平民のフィオレンティーナが挑むだと! 馬鹿なことを言うな、マトスケーノ!」


 よし、ノッた! ばかのんの単純さに感謝だ!

 ノリノリのばかのんを、会場が指笛で迎える。



「よし、フィオレンティーナ、始めようではないか! このバッコヤーナがお前を叩きのめし、魔女にしてやろう!」


 芝居を聞きながら、紙袋からのコーラを出して、机に並べる。

 自販機で買った、缶コーラの隣のペットボトルコーラ。

 会場からは、大きな拍手が起こった。



「ま、待ちなさい! マトスケーノ!」

 鎌野、否、フィオレンティーナが制した。


「私、フィオレンティーナだけが魔女裁判にかけられるわけではないの! 実は……実は、イズミリーチェも魔女と疑われているのよ!」


 鎌野が伊純さんの方を向く。会場は爆笑に包まれた。



「私か? ……まあ、映像流してもらったし、参加してもいいがな」


 また拍手と歓声に包まれる。

 面白くなってきたなあ。もう、なるようになれだ!



「よし、イズミリーチェとやら。お前も私達と同じ服を着るのだ!」


 ワクワクしながら見ている羽織から衣装をもらって着る伊純さん。

 机の上のコーラを3本に増やす。


「それではこれより、フィオレンティーナ、バッコヤーナ、イズミリーチェのコーラ早飲み魔女裁判を始める! 勝った者が人間、残りが魔女だ! 司会者、合図を!」

「よういっ、スタート!」


 羽織の合図で、全員がコーラを開けて口をつける。

 会場からは応援の掛け声の嵐。



 出場者の魅力を伝える企画とは程遠い。

 でも、これからドレスも着るし、ここまで盛り上がるなら、こんな幕間の企画があてもいいんじゃないかな。






「というわけで、やはり勝ったのはバッコヤーナだ! 皆、彼女に拍手を!」

 盛大な拍手に包まれて、ペコッと礼をするばかのん。


「バッコヤーナ、このマトスケーノに免じて、何か一言頼む!」

 ばかのんは少し考えた後、ククッと笑って、まっすぐ観客の方を向いた。


「ふうん、まだ裁判を受けてない者が、ステージ上に2人いるようだが……皆の者、彼らが本当に人間かどうか、知りたくはないか?」


 また何か言い出したぞコイツ……。


 観客から「蒼介―っ!」「羽織ちゃーん!」と声が聞こえる。

 「蒼ちゃーん!」って呼んだヤツ、ラジオ放送聞いてたな、くそう。


「お前ら2人で早飲み対決をするのだ! そして勝った方が私と決勝戦だ!」



 会場の大騒ぎの中、羽織を見ると、やれやれという素振りをしていた。

 こうなるんじゃないかと思ってたんだ、と言わんばかりに、歯を見せて苦笑い。



 さすが羽織。気が合うなあ。俺もこんなことになる気がして、衣装もコーラも大量に準備しちゃったんだ。



「司会者よ! お前もこれを着て、ハオリッタになるのだ!」

 羽織に衣装を渡して着替えさせる。現在、ステージ上には現代日本の服装は1人も見当たらない。



「着たわ! これで満足かしら、マトスケーノ!」

「嗚呼、ハオリッタ! 君を魔女にしなくてはいけないとは、私は罪な男だ!」


 観客席からシャッター音が響く。

 もう一生ないような、バカバカしくて楽しいミスコンを、みんなが画像に切り取っていた。



「よし、コーラの準備は終わったぞ、マトスケーノ!」


 結構ノリノリで、コーラを並べる伊純さん。

 なんだなんだ、この壇上はバカばっかりだな。


「それでは、私、フィオレンティーナがスタートの合図をしましょう。2人とも準備はいい?」


 2人とも手にもったマイクを机に置く。


「負けないわよ、まとすけ」

「へへっ、ばかのんに勝った俺に勝てると思うなよ」



 小さな声で、笑いながら言い合い。

 最早ミスコンでもなんでもないけど、乗りかかった船なら一緒に航海してみようじゃないか。



「ようい、始めっ!」

 何時間ぶりかの早飲み対決。無理やり飲ませようとする危険な味方が、今の敵。

 会場の応援合戦を聞きながら、喉に流し込む。



 目線の先、体育館の入り口に恭平がいた。

 手には大きなダンボールを抱えて、ジャンプして掲げている。



 さて、どうやら急いで羽織とばかのんを倒さなくちゃいけないみたいだな。



 今日のメインディッシュ、ドレスアップの盛り上がりを想像しながら、ボトルを垂直にした。

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