第2話 元彼すくい

 時々、何をするのも嫌気が差して。布団の中に潜り込んで何も動きたくない日、というのがやってくる。なにか病名があるのでは、と思いスマホで検索すると数多の病気が候補として並んだ。


 ダメだ、気にしないでおこう。こういった類は知らない方が幸せな場合もある、きっと多分、今はその場合だ。


 窓をチラリと見てみると、昼間なのに薄暗く。鋭く煩い雨音が部屋中に反響している。偏頭痛持ちの自分にとって、この低気圧と雨音は殺人兵器と言っても過言ではない。スマホの画面を見る事すら鬱陶しくなる。


 おいスマホ、お前まで私を責めるのか。ならお前は首だ、ここから出ていけ。お役目御免。スマホの画面を暗くし、それをポイっと外に追い出した。今だけは天涯孤独を貫きたい。


 しかし、私の想いと裏腹に世界は残酷というもので。先程、旅に出たスマホがブーブーと震えだし、陽気なリズムと音を鳴らし始めた。


 着信だ、いつもの。そう、いつもの。よくかかってくる、多い時は日に30回くらい。


 相手は誰?要件は何だろう?出るべきか?色々な疑問が生まれたが、それらは一瞬で答えへと辿り着く。

 相手は元カレ。今から二年前に付き合っていた人物。復縁を求めての発信だろう。この電話は出るべきではない。


 どうして答えが即座に出てきたのか。それは至ってシンプルな理由、いつもの事だから。

 彼は強い人物ではない、だから頼る場所を求める。しかし、私はそれを受け止められる強い人間ではなく。更に言えば彼と同じく弱い人物である。


 だから、この着信は出るべきじゃない。その道は破滅への道だ。甘い道ではない。救われる道では決してないのだ。

 その考えにたどり着いた私は耳を両手で塞いで目を閉じた。


 目を閉じてしばらくすると、何故か昨日の夜の事を思い出した。すくい上げられた金魚の事を。取り残された金魚達の事を。袋に入れられた一匹の金魚の事を。

 すくい上げられたその先が幸福の道とは限らない。しかし、すくわれる事を願って。必死に水槽の中を泳ぎ回っている。彼もまた、そう願っている。

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金魚救い ペンを持つことを覚えたメロン @MBMelon

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