最終話 アタシから来といて「いらっしゃい!」
m(_ _)m
エ、今日もいっぱいのおはこび、ありがとうございます。
毎度毎度、有り難く、この高座に上がらせてもらいましたが、ついにコレで最後になりまして。
カカアと一緒にこっち来て、情やら、欲やら、色々と勉強させて頂いて、沢山のものを頂いて。本当に有り難いなぁ、と思います。
逆にアタシからは、こうやってしゃべることしか出来ませんが、まぁゆっくりしてもらって、新しい年をお迎えればと、そう思います。
ちょうどそこの小窓から見える、特許庁の入った中野サンプラザ中野は、その頭んとこにちょんちょんと、赤い誘導灯が炊かれてまして。
斜面になってるカタパルトから、その赤いのを目指して、宇宙船が駆け上がっていくわけですな。銀河の果てに向かって。
ボーリングに例えると、えート、スパットみたいなもんですかね。もっと遠くのピンだと遠すぎるから、手前に引かれた目安だな。
つっても、目的地は銀河のはるか遠くだから、こんな近くのスパットで、宇宙船がスパッと発進できるわけがない。まぁ色々とハイテクな、あるいはオーバーテクノロジーな管制技術を使って、みんな飛んでくわけです。
汎銀河からすると「文化遺産」な地球のサ? 東京都中野区の商店街『中野ミルキーウェイ』は、最新ポップカルチャーの発信拠点って言われてる。アニメ、漫画・ コミック、プラモデル、コスプレ衣装などのサブカルチャーもてんこ盛りでサ?
ア、そりゃ、宇宙人が観光で来たり、逃走を繰り広げたりもするわけだ。
つまりはここが、
そんなトコから遠く離れた、おとめ座銀河団の惑星ジュネーヴに、UIPOって組織の本部があった。
正式名称
「全宇宙的な知的財産権の保護を促進することを目的とする、宇宙連合の専門機関UIPO」ってんだ。いやぁ長ぇ名前だねえ。まるで落語の、じゅげむじゅげむだ。
加盟する銀河フィラメントは、184個。いやよいやよも……ってな。事務局長はoeiurep・oiepur……アタシにゃちゃんと発音できません。
さあそのUIPOに、若気の至がやって来た。
「ここが、
至の連れは、同じ事務所の先輩女性、宗谷
存在センセ達はお留守番。地球での業務は、真面目な存在センセが回してくれる。だからおいちゃんも、ふらっと外に出れるってもんでさ? 信用出来る仲間ってのは、とっても大事なわけよ。
未来さんは、おみやげ屋にあちこち首を突っ込んでは、キャッキャと飛び跳ねてる。この惑星に来たばかりだってぇのに。
「あっちもこっちも中野じゃん! うわ! 酔芯が、こっちの星にもお店出してるの!?」
ってな具合にナ?
でもって未来さんは、笑い声やら仕草やらが、至の別れた彼女に激似だってんだ。
でも、そんな事がどっかに行っちまう位に、今の至は、好奇心に溢れてた。なんせ、初の外星旅行が、本部への遠征だっつぅんだから。
ヨジゲンさんとこの発明を、独占しに来たんだよな。汎銀河特許っていう、宇宙規模で。汎銀河特許の申請は、中野の特許庁からは、まだ出来ないらしいから。
やっぱり強欲ってのは、地球だけじゃ留まらないもんだねぇ……。
だが、それでいい! (だみ声)
「あんなこといいな」って欲がサ? 新しい何かを創造するんだから。それでいいんだよ。
宇宙船の中で、若気の至は当然、緊張してた。
「だいじょぶ。旅は、慣れさ?」
と、おいちゃんが笑った。
でサ? いざ着いてみたら、景色のほとんどが、地球の中野と同じでやんの。拍子抜けした至に、おいちゃんが教えてくれた。
なんでもサ? この惑星の、
「なんせ、宇宙人の持つ感覚器は色々だからね。
「す、すっげぇ! アウターアート……そんなことも出来るんですか?」
「まぁね」
「でも、おいちゃん。これだと、実際の中野と、仮想空間の中野と、汎銀河の果ての中野とを
「そりゃあそうだよ。世界は広すぎるんだから。光ですら届かない所まで広がっている。本来アクセス不能だった世界を異世界と言うなら、どこでもドアの向こうにあるものが、現世なのか異世界か、人間の感覚器では、認識なんてできないよ」
「人間の?」
「あっ、未来先輩。そういやずっと昔、ドイツの哲学者『イマヌエル・カント』が、似たようなことを言ってたような……」
「おっ! 至くん。良く知ってるね……」
そう言っておいちゃんは、背中に背負ったゴルフバックから、ゴルフクラブみたいな棒を二本取り出して、それを合わせて、一台の車に変えた。
ニョイーン。
「お、おいちゃん! なにそれ!」
「棒が、変形した!」
「あ、これ? 『ニョイニウム』っていう、思考に反応する金属だよ。まぁこれも、アウターアートなんだけどね」
おいちゃん、しれっと変なこと言ったねェ。
参道みたいなアーケード……に見えてしまう道を、ニョイニウム製の車に乗って進みながら、未来さんは聞いた。
「あのさぁおいちゃん。ヨジゲンさんとこのダイソン球。汎銀河で特許取れたとして、どの辺りに製品を売り込むの?」
「あ、僕もそれ、気になってました」
「そうだなぁ……需要がありそうな星を見つけて、売っていく感じかな。特許の指定星も、その辺を加味して増減させよう」
「例えばどんな星ですか?」
「うん。地球と似た星ってのが、一番シンプルでわかりやすいけど、それだけだと面白くないよね」
「でもさぁおいちゃん。酸素のないとこじゃ、売りが弱いよね? マイクロダイソン球が固まらないから」
「そうそう。だから当面の狙いは、酸素があって、まだダイソン球がない所だね。あとは、時空方向の移動が出来ない星、なんてのもいいね」
「はい?」
「時空方向移動?」
「おいちゃん! なにそれ?」
「え? 二人とも、気づいてなかったの? 地球の出願書類は読んだんだよね?」
「うん」
「ええ、読みました」
「えっとね……一応書類を確認すると……えっと……えっと……あった、この書類だ。酸素雰囲気下において所定の時間が経過した後に物質透過性を失う材料によって4次元球を構築し、って、書いてるよね?」
「あっ!」
「よ、4次元……」
「あはは。ヨジゲンさんの社長自身が気づいてなかったんだけどね? この発明だとさ、球は、時空方向にも広がるんだよ。何らかの改良を加えて、時空方向へとえんえんと膨らませてから固めて、切り込みを入れることができれば……」
「も」
「もしかして」
「うん。二人のご想像の通り。要は、どこでもドアになるわけだ。光すら届かない、遠い遠い、異世界へも、繋がるかもしれない」
「ト、トンデモな……」
「そんなことできるの!? おいちゃん!」
「うん。二人共、まだ、地球の中だけで、頭が止まってるね。アウターアートでは、もう実現されてるよ? でなきゃさ? 俺らがこんな短時間で、ここまで来れるわけないでしょ? おとめ座銀河団の惑星ジュネーヴだよ? ここ」
「宇宙船で、どこでもドア的なのを通ってたのか……」
「全然気づかなかったよ……おいちゃん」
「まぁ、簡単に言うと、家庭用マイクロダイソン球は、家庭用どこでもドアとしての用途もあり得るって筋だね」
「出願書類への、新規事項の追加は、マズイのでは……?」
「おっ、至くん。補正の制限のとこまで勉強進んでるんだね。……まぁ、改良発明になるだろうね。まだ、切る所とか、時空方向にのみ膨らます所が、安定して出来て無いから」
「ほ、ほえぇ……ちょっと、ついて行けません……」
「あたしもわかんない! でもさ? なんかそれ、おいちゃんが発明者になるんじゃないの? 次元社長じゃなくてさ」
「ははは。より面白いアイデアを提案してみるのも、鑑定士の仕事の一環ってことで、良いんじゃない? だってその方が……」
「「その方が……?」」
「面白いもの!」
――。
長い長い参道みたいなアーケードに見える道が終わり、ニョイニウム製の車を降りると、三人の眼の前には、かつて知ったる門構えが待っていた。
白くてデカい建物な事だけはわかるが、アーケードやら、周りの雑多なビルやらに隠れて、全体が見えない。アーケードの端っこに、赤い枠付き入口があって。ウー、なんだか鳥居を連想させるねぇ。
そんな風に見える建物。
すなわち。
中野ミルキーウェイ!
……に見える建物。
「よし、UIPOの入口に着いたよ?」
「えっ!」
「ここなの?」
「うん。そう」
そう言っておいちゃんは、さっきまで車だったニョイニウムの塊を、ってぇか、アタシとカカアを、ぽーんと前に放り投げた。
「ヤナギエダ、あと奥さん、ありがとね」
って、ボソッと付け足しながら。
その塊……ってぇか、アタシとカカアが、変形しながら、入口ん所にあるゲートに、ニョインと吸い込まれた。
中野駅改札のサ? タッチアンドゴーもしくはミスタッチアンドバタンな、改札みたいなゲートにサ?
アタシはサ? 旅して回るのがホントに好きで。
こうやっていろんな所を見て、勉強してェんだよ。
技術とか、歴史とか、人情とか……地球とかな。
色々と勉強させて頂いて、沢山のものを頂いて、本当に有り難いなぁ、と思います。
エ、さて。
アタシ達と同じで、好奇心旺盛な3人が、地球からはるばるやって来やがった。
鑑定士バッジで、タッチアンドゴーしようって腹だねえ。今のアタシにゃ、それくらいわかります。
「このゲートが、また、オツでさ?」
……嬉しいこと言ってくれるねえ、おいちゃん。
歓迎します。
ニョイーン。
パカッ。
「エー、あの、なんだ……汎銀河特許庁へようこそ!」
m(_ _)m
<了>
汎銀河特許庁へようこそ! にぽっくめいきんぐ @nipockmaking
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