第35話 真打さんのボール打ち
m(_ _)m
エ、今日もいっぱいのおはこび、ありがとうございます。
こうやってね。お客に来て頂けるってのが、噺家としちゃ励みになるんですな。誰もいねぇトコでしゃべっても、それじゃ稽古と変わらねぇから。
さて、不思議なもんでね? 師走の、年の瀬になるってーと、なんだか人の動きが慌ただしくなるもんです。師匠以外も走ってそうなぐらいに。
アタシがそう感じるだけなのか、実際に外に人が増えてんのか、統計取ったわけじゃないからわからないけどサ? 賑やかなのはいいことだ。テンパってる時とか電車とかだと、うるせぇ! 狭い! ジャマだ! って言っちまいそうになるけどナ?
ただ、アタシの周りがそう、ってだけなのかもしれない。
東京を離れたとこだと、限界集落とかもありますし、田舎の
そんな中サ?
人に会えるってのは、ありがてぇもんだよ。普段は気づかねぇけど。
他人が居てこそ、幸せになれるってもんで。
まぁ、その他人が爆弾みたいな危険人物だったりすると、ちょっと困るんだけどな。
さて。
……。
キョロo( ̄ー ̄=  ̄ー ̄)oキョロ
……。
「あわわわわわいらっしゃいませ!」
ってな具合に、あわてた若気の至はサ? ヨジゲンさんとこの社長さんに、扉んとこで待っててもらって、応接室に残った所長のガラクタを、慌ててしまいこんだ。
アウターアートと認定された圧縮技術「分子ギチギチひっ詰め法」ってのを使って作られた、圧縮機を使ってナ? 布団圧縮袋みたいな感じで。
中野の北に、でんとそびえる商業施設、『中野ミルキーウェイ』で、瀬田所長が安く買い叩いた圧縮機。しかし、優秀だねぇ。
惑星特許が取れなかったのは残念でした、だけどな?
「どどどどど、どうぞこちらへ」
「はい。お世話になりまっせ」
ようやく、「一時的に」片付いた応接室へと、あたふたと招き入れる。存在センセも後から飛んできた。
未来さんは、とある外星に生息する伝説の龍の鱗を煎じた、『
『暴れる龍を煎じて飲むと落ち着く』
ってんだから、逆ー! っていうか、
当然ながら、ヨジゲンさんの社長から、嫌味でも言われんのかと思って、至たちは身構えてたんだが。
「いやぁ、宗谷ちゃんとこの仕事、ホンマお見事ですわ。うちのマイクロダイソン球、無事惑星特許になりましたし」
と、ニッコニコなんだよな。次元社長。丸顔が小刻みに揺れててさ。
「え、ええ ……」
「良かったですね」
「おめでとうございます」
困惑気味の、存在センセと、
逆にサ? 「特許にならない方」の鑑定を出した、三人組だね。
キョロo( ̄ー ̄=  ̄ー ̄)oキョロ
「いやぁ、ダイソン球の使い方、考察が甘かったですわ。技術っていろんな可能性があるねんな?
名前からして、普通にエネルギー貯めることだけ考えてたわ。
あ、コレ、駅前の『
あ、そうそう。秋葉原の『肉の万世教』さんとこのビルな? おかげさんで、こないだ正式受注に取り付けてな。いやぁありがとうありがとう。『ワシのコレ、特許でっせ!』ってアピールしたら、もう、一発や! 一瞬で決まったわ。そうそう! 商売には、こういう勢いと自信が大事やんな?
しかしもう、ホントこれからワシら頑張らんと。
日本武道舘にうちのダイソン球を入れるだとか、エネルギー大賞だとか、そんなんまだまだ、器がちっちゃかったわ。ワシの考えが狭かった。むしろワシの方が、ダイソン球みたいな卵のカラん中に、閉じこもってた感じやな。
卵の中に入りっぱなしで、顔がゴルフボールみたいに丸ぅなってしもたわ。ガハハ」
ってな具合にサ。
ヨジゲンさんとこの次元社長が、最強装備のボンバーマンみたいに、言葉の爆弾をドッカドッカと投げつけてた、その途中でな……。
事務所の入口が、またもキィッ、と開いたね。
「おっ! 社長。もういらしてたんですね」
「おいちゃん!」
姪っ子の未来ちゃんの腰が、椅子から浮いた。
雪車夜のおいちゃんが、帰ってきたよ。
「おーおー! 宗谷ちゃん! お邪魔しとるでー!」
って、片手を勢い良く上げた。
「どもども。ゴルフぶりですね」
「せやな!」
フリーズする三人組をよそに、次元社長とおいちゃんの2人はしゃべり続けた。
「いやあ、こないだは緊張して、パットが上手く行かなかったですよ」
「いやいや、磁気嵐の後に冷静を保つっちゅうのも、難しいで?」
「次はパットを極めて、次元社長とタメ張れるくらいになりたいですな」
「ガハハハ! 首短くして待っとるで!」
「亀? 亀なの?」
「浦島さん遅いなぁ……子供にいじめられっ放しや……ってちゃうやろ! そこは、『短いんかい!』ってツッコまな」
「私、どうも、関東育ちなもので」
存在センセが、おずおずと、「お知り合いなんですか?」って聞いたらサ?
「こないだ、宗谷ちゃんとナ? 宇宙ゴルフでラウンド、ご一緒させてもろたんですわ。色々と教えて頂いて。惑星特許の限界のこととか」
「いえいえ。俺はゴルフを教えてもらいましたし」
「あいこやなぁ。ガハハハ」
次元社長は豪快に笑ってた。
対して、おいちゃんは、至たちに向かって、ニヤリと笑ったように見えた。
「惑星特許を汎銀河特許へ昇格させる話、たのんまっせ。宗谷ちゃん」
「「「な、なんだってー!」」」
オッ? 珍しく、存在センセも驚きの声をあげたねェ。
ン、えーっとな?
要はおいちゃん、惑星レベルの権利の
おいちゃんが関与した時点で、特許庁に対して出来る事は、まぁやった。
審査官面接ったって履歴が残るし、その先は結局、審査官次第なわけで。コントロールなんかできねぇ。
じゃあ、特許庁「以外」のとこで、出来ることをやればいいだろって、おいちゃんは考えた。
でサ? どうせやるなら、楽しくやった方が良いだろ?
ってことで、まぁ、宇宙ゴルフに出かけたんだな。
小型のポッドに乗ってさ。
大型ドライバーを、巨大ボールにぶつけんだよ。
Ζガンダムに出てくる戦艦『アーガマ』にはサ、本体から棒を伸ばして、グルグル回して遠心重力を発生させる、居住区みたいなのが有る。同じように小型ポッドから生える、グルグル回して遠心重力を発生する区画みたたいなソレをナ? 上手く回してゴルフボールにドカンとぶつける。
まぁ、宇宙ゴルフは、宇宙紳士のスポーツだ。
宇宙のゴミ、スペースデブリが発生しないように、ボールも小型ポッドも、破損しないように気をつけつつ、衝突のエネルギーを確実に伝達してさ。
地球のゴルフだと、ゴルフボールにゃ、『ディンプル』っていう穴ぼこがポコポコ、よく飛ぶように開いてんだな。
だってヨ? ゴルフボールは空気を切り裂くように飛んでいく。切り裂かれた空気は、ボールに絡みつく様に回り込みながら、ボールの後ろへ抜けて行く。
でサ? ボールの後ろに、気圧の低い『低圧部』が生まれるんだな。ボールの前方のが気圧が高い。後方のが気圧が低いとなっちゃ、そりゃボールにブレーキかかんだろ?
ディンプルがポコポコとあるとサ? 空気がボール表面に絡みついたまま、後ろまで回り込んでサ? 低圧部が小さくなるんだな? ブレーキかかりづらくなるわけだ。
ところがどっこい。
そりゃ地球上で、重力と、空気抵抗がある前提だから意味があった。
宇宙ゴルフボールのディンプルは、実際に開いては無くてサ? だまし絵みたいに、絵で書かれてんだな。んで、宇宙空間で視認しやすいように、
ま、ボールの話はこれくらいにしとくか。
で、場所はナ? ナシキロン星にほど近い、
どの位高いかってぇと、特許庁からも潜れる仮想
そんなカントリークラブで、たまたま一緒にラウンドなったのが、次元社長だった。
いや、実はたまたまじゃねぇんだな。
おいちゃんは、ちゃあんと相手の事を調べてた。長年の経験で、この世界は、法よりも人だと、分かってんだな。
職業データベースに潜って相手を調査。
姪っ子の未来ちゃん達から聞いた「ナシキロン星」ってあたりを、宇宙人のコネも使って重点的に調べて、周辺宙域のアクティビティもチェックして、次元社長がそろそろ、ここにゴルフをしに来るな? と見込んでいたわけだ。
「いやぁ、宗谷ちゃん! ゴルフはホンマおもろいな! こんな所で、同じ地球人とコース回れるとも思っとらんかったし!」
「ほんとですよねぇ」
って感じに打ち解けた後のサ? 定番のカレーを食ってる時に、話が出たんだな。
「……これでワシらは、マイクロダイソン球を独占や! ナシキロン星からぎょうさん原料を仕入れて、宇宙を股にかけて商売したろ思うてますんや!」
「そうなんですか?」
「
「あの……すみません。取得したのは、惑星特許ですか? 汎銀河特許ですか?」
「は? なんやそれ?」
まぁもちろん、おいちゃんは、惑星特許だと把握した上でのことだけどナ? 口にだしてはこう言った。
「地球で取った惑星特許の効力範囲は、地球の中だけですよ? 属地主義って言うんですけど」
……。
キョロo( ̄ー ̄=  ̄ー ̄)oキョロ
……。
「なんやて!」
マ、普通は知らなくて当然だねェ。地球で特許を取っても、地球の外では別問題だとか、別の例だと、実用新案は無審査で取れるから、実は全然凄くないとか。
そういう、知らないと勘違いしちまう事ってのは、いくらでも有るもんでサ?
「もうあちこちの外星で、でっかいプラント、建設し始めてしもうたがな……」
明らかにしょげ返る、ヨジゲンさんとこの、次元社長。
「あ、それなら惑星特許に優先権を張って、汎銀河特許、出願してみます? まぁ私、そのあたり、そこそこ詳しいですが」
「優先権? そ、そんなのがあるんか?」
おいちゃんみたいな専門家ならサ? 法は知ってて当たり前。
で、最後にものをいうのは結局、行動力と、コミュニケーション力なんだよなァ。
発揮する相手が居てこその、話だけどサ。
m(_ _)m
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