エピローグ

エピローグ

 ――わしの語る話は、ここまでじゃ。

 わしはこのとおり生きている。世界はなにも変わっていない。あのとき黒服が言ったとおり、いずれ、どんな世界とも行き来できる時代が来るかもしれんが、それはもっとずっと先の話じゃ。

 え、そうじゃない? 黒服はそのあとどうなったか?

 ……死んだってことではだめか?

 だめですか。


「あれ……?」

 黒服は目を覚ました。意識はまだ朦朧としているようだが、傷はふさがっている。

『……もう、ぜったい、だめかと思った、ううっ……!』

 泣きじゃくりながらすがりつく少女の頭を、力をふりしぼって、黒服は軽くなでた。

「しかし、なぜ」

【回復用サプリメントをお忘れですか。魔法陣でその効果を強化し、服用してもらいました。致命的だった出血と損傷に対しても効果を発揮しました】

「意識のないおれに、それをどうやって飲ませ……」

 少女は真っ赤になり、唇をおさえてそっぽを向いた。

【訊かないほうが、おたがいのためのようです】

「うへえ」


 ……いまでもあの黒服は、どこかでだれかの召喚を妨害しているのじゃろう。辞めることなど考えもせず。

 心を読む力などなかったわしにも、黒眼鏡ととぼけた態度の下で、あの男を衝き動かしていたものがなんなのかは、わかった。


 怒り。

 ふざけるな、ふざけるんじゃない、という怒り。

 だれかの運命を動かすことは、遊びごとじゃないのだ、と。


 あの旅とも呼べぬ1日のなかで、あやつは、わしを巫女と呼びはしなかった。まだなにものかになるまえの存在、ただの少女として扱っていた。

 それは、「巫女になるな」と諭すことではなく、わし自身で決めろということ。

 あの少年もおなじ。そして、あやつ自身で決意し、運命を定めた。

 もし、黒服が刺されるところを見たわしが逆上していなかったら、あの少年がだれよりも強大な存在として多くの世界に君臨する未来があったかもしれない。その手伝いをするのも、一興じゃったかもな……。

 でも、そんな日は来ない。わしはあの少年を殺すことを選んだ。後悔はない。

『一興』は、しょせん、かりそめの価値にすぎない。


 これは、かりそめの運命に翻弄された名もなき少年と少女と、世界に対して真剣さを強要する身勝手な名もなき男の物語じゃ。だから、こうしめくくるのがふさわしいと思う――

 異世界への召喚により、人生を狂わされるものたちがいた。そして、それを止めるものたちがいた。ひとびとはだれもそのことを知らなかった。


 知らなかったので、かれらに呼び名はない。

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黒服グラサン、異世界へ 国東タスク @task

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