インタビュー

脳幹 まこと

街頭での出来事


 私が街を歩いていると、マイクを持った男性がやってきた。その後ろにはカメラを担いだ男性もいる。

 どこかのテレビ局の取材だろうか。

「すいません、ちょっと質問に答えていただいてもよろしいですか?」

 街頭インタビューのようである。時間も余っているので、少し乗ってやろうと思った。

「日本の首相の名前をフルネームでご存知ですか?」

 何かと思えば、そんな当たり前のこと。子供ならともかく、スーツ姿のサラリーマンに聞くようなことじゃないだろうに。

 肩透かしを受けた私は何という事もなく、今の首相の名前を喋ったのだった。

 すると、インタビュアーとカメラマンは険しい顔で向き合うと、なんと挨拶もなしに別の人へ向かっていったのだ。しかも去り際に舌打ちを残した上で。

 ちょっと、と憤ったところで知らんぷり。騒いで話題になるのも嫌なので、これ以上は追求しなかったが……

 その後、インタビュアーは何人かに声をかけたが、当然の如く、正解を回答されている。その度に彼らは「使えねー」と言いたげな顔で、別の人物に移るのである。


 そして、その時はきた。彼らの目の前を、ふらふらと中年男性が歩いてきた。その姿には明らかに学がない。有り体に言えばホームレスの風貌をした男に、彼らは同じ質問を行った。

 男の回答は頓珍漢なものだった。現首相どころか、政党の一つすらろくに言えない。とても見るに堪えない回答だった。錯乱もしているようで、何回も大声で叫んでいる。隣を通りすぎる人々が、好奇と侮蔑の視線を向けているのが分かった。

 そんな言葉を聞いて、インタビュアーの顔が明らかに綻んだのも。

 彼らは男に「お礼」と称した金を渡すと、近くに停めてあったワゴン車に乗って、そのまま何処かへ行った。

 一体、彼らは何を撮りたかったのだろうか。もやもやを残して私は仕事へと戻った。


 数日後。偶然、テレビを見ていた私は驚愕した。


 ドキュメント番組の中に私が映っている。

 先日インタビューされたスーツ姿そのままだ。モザイクなどは全くかかっておらず、プライバシーなど微塵も考慮されていない。

「だーから、今は伊藤博文だって言ってんだろうがよおお!!!!」

 画面内の私は延々と叫び続ける。

 その声は、あの時のホームレスの男のものだった。 


 茫然と見つめ続ける画面の右上に、このようなテロップが表示されている。


「首相がわからない若者達」

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