第9話 襲撃
信二は急いでベランダから屋根に登れるように立掛けてあった避難梯子を二階に下ろして急いで降りケンジの後を追って店に入るとケンジは道路に面した窓から外の様子を伺っていて入ってきた信二に気が付くと手招きをしたので信二は一余音を立てないように忍び足で素早くケンジに近づいた。
「おい、どうなってる?」
「あいつら車に乗り込んでこっち近づいてくる」
信二も外を見ようとカーテンの隙間を開けた。
「待て、お前は外を見るな、たぶんだが向こうも俺に気付いてるようだから今はまだ隠れていてくれ」
「分かった」
「それとなにか武器になりそうなものを用意してくれ」
「探してみるが期待しないでくれ」
信二は姿を見られないように伏せて店内を見渡してキッチンに向かった、キッチンにあるのは鍋やフライパンに包丁だ、昔の漫画の痴話ゲンカじゃないんだ、こんなのじゃ銃弾どころか斧を防ぐ盾にすらならない。
ため息を付きたくなるがそんなのついている場合じゃない、再度周りを見ると棚に入れられた皿やよく分からないワインやウイスキーのようなビンが並んでいた。
(ウイスキーなら火炎瓶みたいになるか?)
ダメでも投げつけて当たれば十分痛そうなので目に着くものをキッチンの上に置いて皿も投げつけるくらいには役に立つだろうと思い大量にキッチンに並べた。
(他に何か無いか?)
慌てながらキッチンの引き出しを開くとそこにはさまざまな大きさの包丁がきれいに並べられていた、アマドが手入れをきちんとしていたようであまり使いたくは無いがそうも言ってられない。
中から包丁二本と果物ナイフらしき小さいナイフを取り出して外から見えないようにケンジに近づいた。
「なにかあったか?」
「武器になりそうなのは包丁とナイフだけだ、足元に置くぞ」
いって足元に包丁とナイフ一本づつ置いた、他は信二が自分で使う分だ。
「あと火炎瓶に使えるかもしれないアルコール度の高い酒と投げる皿くらいしかないぞ」
聞いたケンジが大きく息を吸い込んだ。
「武器はほとんど無いって事か・・・、信二はとりあえず火炎瓶を作ってみてくれ」
「分かったがうまくいかないかもしれんぞ」
言いながら返事を待たずにキッチンに向かい並べてある中で一番アルコールの高い酒の蓋を開けて近くにあったキッチンペーパーを詰めてすぐに火をつけれるようにしたのを作り次の物に取り掛かった。
窓を開ける音が聞こえるのと同時に声が聞こえた。
「おい、止まってくれ!!」
ケンジを見ると大声で手を振っていた、どうやらすぐそこまで来ているみたいだ。
「そこで何をしている!!」
外から男の声が聞こえてきたが何時までも見ているわけには行かない、信二は次の火炎瓶作りに取り掛かったが耳ではケンジたちの声を聞いた。
「俺はただここで隠れて助けを待っていただけだ!!君達こそどうしてここに来たんだ!?」
「煙が見えたから俺達以外に生きている奴がいると思ってここまでやって来たんだ!俺達を中に入れてくれ!」
信二は二本目の火炎瓶を作りおえて、三本目の火炎瓶作りに取り掛かったが、次の酒は作った二本よりも低いアルコール度数が書かれていたが他に高いものがないので作り始めた。
「その前に聞きたいことがあるんだ!」
「なんだ!?」
「その銃はどうしたんだ?」
するとしばらく沈黙があってから外で先ほどとは違う男の声が聞こえてきた。
「これは俺の父親の趣味がハンティングで家に散弾銃とその弾がったから持ってるんだ!」
(あれはライフルじゃなくて散弾銃か・・・、なら二メートルの怪物の傍にいた男が発砲音と共に地面に倒れたのは流れ弾が当たったのだろうか?それともあの男は足を噛まれていたようだからもう助からないと思い撃ったのだろうか?)
一瞬考えたが、そのことを考えると作業をする手が止まってしまうので信二は考えるのを一旦止めて三つ目の火炎瓶を作り、四つ目に取り掛かった。
「なぁ、俺達もそこに入れてくれよ、そこはレストランなんだろ?食料があるんだろ?俺たち腹ペコなんだよ!」
「あぁ、少しだがある、がその前にまだ聞きたいことがある!」
「何だよ!いい加減にしろ!こっちだって周りに化け物共が集まって来てるんだぞ!!」
(大分、イライラしてきているようだ)
「なら単刀直入に聞くがあの青い車に見覚えは無いか?あの車は君達が乗っているハイエースの様な車に体当たりされて電柱にぶつかり中の人が亡くなるを見ていたんだ、もし君達がそのハイエースに乗っていた人なら信用するわけには行かないから何処かに行ってもらいたい」
ケンジがきっぱりと窓の外にいる奴等に向かって言う背中を見ているといつも一緒にゲームをして酒を飲んでグータラしていた奴とは思えないほど立派に、そして頼りに見えた。
「ちょっと待ってくれ、見間違いじゃないか?ハイエースなんて作業車でどこにでも走ってるだろ?なんでその車が俺達だと思うんだ?」
「そのバックミラーから垂れ下がってるのと同じのを着けたハイエースが青い車にぶつかったんだ、それとお前達の顔を見たって人がいるんだ」
(そんなこと言ったっけ?ハッタリか?)
「見間違えじゃないのか?」
先ほどとは違う男の声が聞こえた。
「いや、それは無い」
「どうして言い切れるんだ、ここからあの車があるところまでは百メートルくらいあるのに乗ってる人間の顔なんか見れるか!!このうそつきめ!!こんな奴の話なんか聞く必要無い!」
外から男の怒鳴り声が聞こえてくるとケンジが叫んだ。
「俺はあの車がある交差点の近くを逃げようとして通りかかったんだよ、バイクとハイエースとシルバーの車があの青い車を取り囲んでいるのをはっきりとこの目で見たんだ」
信二は四つ目の火炎瓶を作り終えてすっかりケンジを見入ってしまっているといきなりケンジがしゃがみ込んだのと同時に発砲音と共に窓ガラスが砕けて天井も崩れ、信二はキッチンの内側に隠れた。
「面倒だ!殺せ!」
外から男が叫ぶ声が聞こえるのと同時にケンジが四つん這いでキッチンの内側に逃げてきたので聞いた。
「大丈夫か?撃たれてないか?」
「あぁ、まだ大丈夫だ」
ケンジは言いながらキッチンを盾にするように座り込んで言った。
「やっぱりあいつ等がキャシーを襲った奴らのようだな」
「あぁ、そうみたいだがあいつらなんでここを襲うんだ?食料なら他の所に行けばあるのにわざわざ人がいる所にこなくても・・・・」
信二はハッとした。
「もしかして、あいつら人がいるから来たのか?」
「嫌な事言うなよ」
隣にいるケンジも嫌そうな顔をしている。
(もしかしたらあいつらは散弾銃や斧で人を脅したり殺したりするのを楽しんでるのかも知れない、だが今はそれよりもあいつらをどうにかしなければならないが・・・)
「ケンジ、あいつら『殺せ』って言ってたよな」
「あぁ」
「なら俺達も殺す覚悟で行かないとな・・・・、俺はまだ死にたくない」
「俺だってそうさ」
ケンジが答え、信二は自分の覚悟を決めるためにわざと声に出して言った。
「それにキャシーの父親をさがす約束をしたんだ、俺はやるぞ」
覚悟を決めたつもりだが手が小刻みに震えているのが目に入り力を込めて手を握り震えを誤魔化したがケンジはその様子を黙って見ていて口を開いた。
「信二、俺は決めたぞ」
思わずケンジの顔を見ると続けた。
「信二が死んだら俺がキャシーの父親を見つけるのとは別に信二がキャシーを父親に会わせるのに信二一人だと心配だから俺も手伝ってやるよ、だからお前も俺に協力してくれ」
「協力?何を?」
「俺はトウカちゃんを守りたい、別に好きになってもらいたいとかじゃないんだ、ただ守ってあげたいんだ、悲しい顔を見たくないんだよ」
思わず黙ってしまうとケンジが言った。
「なぁ、協力してくれよ?」
信二はケンジを見てゆっくりと頷いた。
「全員が無事に助かるためだ、もちろん協力するよ、すこしケンジがらしくない事を言ったから固まっただけだ」
ケンジが信二の肩を叩いた。
「らしくないは余計だ、それだったらお前だってキャシーの父親を見つけるなんて約束が一番らいくないぞ?」
「そうだな、らしくないな」
二人は行って笑い合うとすぐにケンジがいった。
「なら俺たちは生き残るために何でもしよう、たとえそれが相手を殺すことになってもだ」
「そうだな」
ケンジは自分に言い聞かせるように信二に言うのと同時に店の入り口の向こう側で精神病患者が叫び床に倒れる音が聞こえた。
「信二」
「おう」
信二は返事をしながらキッチンで用意していた火炎瓶を取ろうとしたが、室内で使うと水があまり無いので消火できなくなる可能性があるので隣にある包丁を掴んだ。
ケンジは渡した包丁を持ちながら店の入り口が見える店内の壁に張り付いて散弾銃を撃たれても当たらない位置から入り口のドアの様子を伺っているので信二も反対側の壁に取り付きドアを見たが信二たちがバリケードとして積み上げた喫茶店のテーブルや椅子が積まれていた。
入り口のドアが外側から叩かれてる音と共にドアが少し揺れるのが見えた。
「おい!大人しくドアを開けろ!そうしたら命だけは助けてやる!!、十秒以内にドアを開けろ!十、九、八・・・・・」
若い男の声でカウントダウンする声がドアの向こうで聞こえる、信二はどうするかとケンジを見るとケンジは信二を向いて頭を左右に振った、出るつもりは無いらしい、信二も頷いてドアを見た。
「・・・・三、二、一、時間だ」
言葉が終わるとドアが壊れるような勢いで何度も叩かれ揺れたが軋む音がするだけで開きはしなかった。
(大丈夫そうだな)
信二はドアを見ていた顔を戻して思わずため息を付いた。
その瞬間信二の顔の傍を無数の何かが飛んでいく空気を切り裂く音が聞こえるのと同時に発砲音が聞こえ信二は思わず目を瞑ってその場に崩れ落ちた。
耳が一瞬聞こえなくなるとキーンという高い音が響き周りの音が小さく聞こえた、信二は自分の顔を手で拭ってからケンジを見た。
「大丈夫か?」
ケンジの口が動くのが見え、声が一瞬遅れたように聞こえたが答えた。
「大丈夫だ、なんとかな」
信二がドアの様子を見るとドアは開いていなかったが取っ手の近くに穴が開いて、貫通した散弾銃の弾が当たり穴が開いたり欠けたテーブルが見えるとドアに開いた穴に散弾銃の銃口が突っ込まれるのが見え慌てて顔を引っ込めると発砲音が部屋に響きケンジが隠れている廊下の壁から砂埃が舞いケンジは頭を抱えてしゃがみ込んだ、弾が当たったわけではないようだ。
更に発砲音が聞こえると今度はケンジと信二の間の床が削れて煙が立ちドアに体当たりをしているのか蹴飛ばしているのかわからないがドアが激しく軋む鈍い音が聞こえた。
「おい、無駄弾を撃つんじゃない!」
外から男の怒鳴る声が聞こえた。
「でも、他に入り口は無いですよ、三階もたぶんここと同じように塞がれていると思いますし、それならここをブチ破ったほうが良いですよ」
「弾は数に限りがあるんだ、無駄弾を使うんじゃない」
「でも、それじゃ中に入れませんよ?」
「俺に考えがある、付いて来い!」
すると慌てて階段を降りるような足音が聞こえドアを叩く音や人の気配が消えた。
だが、ワザといなくなったフリをしているかも知れないと信二は息を殺してゆっくりドアの方を覗いて先ほど散弾銃の銃口が見えた穴を見ると銃口やこちらを見ているような人の影は見えなかった。
(本当に下に下りたのか?考えがあるといっていた奴がいたがどういうことだ?)
「信二」
やっと聞き取れるような小さい声が聞こえケンジを見た、するとケンジは信二を指差してからベランダの方を指差した、更にケンジは自分を指差してから道路に面している窓を指差した。
(俺はそこの窓から外の様子を見るから、お前はベランダに行って裏の外の様子を見て来いって事か・・・・)
信二が頷き返すとケンジも頷きすぐに窓際に移動し始めたので信二もしゃがみながら素早くベランダに移動した。
ベランダのドアをゆっくり音を立てないようにゆっくりと開けて外に出てベランダの床に這い蹲るように移動してゆっくりと立ち上がり柵の間から外の様子を見てすぐに引っ込んだ。
一瞬だったが先ほど見た男達のような奴らは見えなかったが精神病患者が数人裏道をさまよっているのが見えた、今度はゆっくりと顔を出してしっかりと見渡して確認したが三階の窓から見たような若い男の散弾銃や斧を持っている奴はいなかった。
精神病患者たちが道路を行った来たりさまよっている様子を見ると男達が見えない位置に隠れているという事もなさそうだ。
(ケンジのほうに二人とも行ったのか?)
一瞬ここで見張っていた方がいいか迷ったが、ケンジの方にも男達が現れていなかったら戻ってくればいい、自分に言い聞かせ信二はベランダから部屋の中に戻った。
リビングに向かうとケンジがしゃがみ込み手には信二が作った火炎瓶を持っていた、リビングに入ってきた信二に気付いたようでこちらを向くと黙って手に持つ火炎瓶を指差してから何か変な素早い動きをしてキッチンを指差した、なにかキッチンから取ってきてほしいのだろうが、何がほしいのか分からない。
信二が顔を左右に振ってわからないとジェスチャーをするとケンジは火炎瓶の口に詰められているキッチンペーパーを指差してから親指と人差し指を擦りつけながらキッチンペーパーに近づけるジェスチャーをしてからもう一度キッチンを指差した、さらに今度は声には出さないが何かを言っている口の動きを見て気が付いた。
(ひ?ひ・ひ・ヒ、火か)
確かに火炎瓶があっても火をつけるものが無ければ意味が無い、俺も用意してなかったから何もいえないが。
今度はしっかりと頷いてキッチンに向かって火をつけれそうなものを探すと先ほど調べた引き出しの中に着火ライターが合った事を思い出しすぐに引き出しを開けて取り取り出し急いでケンジの隣に滑り込むように座った。
「これだろ?」
持ってきた着火ライターを差し出すと頷いて受け取った。
「それで外にいるのか?さっきの奴等?」
「そうなんだが一人斧を持った奴が何故か分からんが車の上に乗ってるんだよ」
(どういうことだ?)
信二もゆっくりと窓の外を見ると二階にいるはずなのに信二と同じ二階に立っているように斧を持った若い金髪の男が近づいてくるのが見え慌てて顔を引っ込めるとケンジが囁いた。
「なぁ、言った通りだろ?」
「それに近づいてきてるぞ!」
「マジか!?」
ケンジが驚いて身体を浮かせ外の様子を覗いた。
「見えたぞ!!」
外で男の叫ぶ声が聞こえ発砲音が聞こえるのと同時にケンジが倒れ天井に散弾が当たり崩れた破片が二人の上に落ちてきたがそれどころじゃない。
「大丈夫か!?おい!?ケンジ!ケンジ!」
信二はすぐに倒れたケンジに近づいて頭を見たが血は出ておらず目を食いしばるように閉じて自分の頭を必死に触っていた。
(撃たれてはいないようだ)
ケンジが落とした着火ライターを拾い火炎瓶のキッチンタオルの部分に火を点けると外の様子を見ずに先ほど見た車の速度と方角を計算して斧を持った若い男に当たるように投げた。
窓から火炎瓶が出た瞬間に発砲音が聞こえ今度は窓ガラスが割れて信二とケンジの上に振ってきた、思わず目を閉じて必死に頭の上のガラスを払った。
「クソッ」
隣からケンジの声が聞こえた、信二はガラスが目に入らないように慎重に目の近くのガラスを取り除き目を開けてケンジを見ると倒れていたので腹の上に大量のガラス片が乗って顔にもガラス片が乗っていてどけようと目の周りを触ろうとしていた。
「ケンジ、動くな」
信二は倒れているケンジの腹の大きいガラス片をどかし上体を起こして軽く目の周りのガラス片を払った。
「火炎瓶のつもりか?バカ野郎!」
「服が汚れただろ!」
「酒があるのか!」
外からは男達の怒鳴るような声が聞こえる。
「ケンジ、そこの火炎瓶の上の紙を取り除いて瓶をくれ」
「わかった」
信二は素早く火炎瓶の口のペーパータオルを抜くと濡れて破れた紙が瓶の内側に張り付いて残ったが気にせず瓶を渡すと受け取ったケンジは中のウイスキーを自分の目の周りにゆっくりとかけてガラスの破片を洗い流した。
「おい、あれを見ろ!何か近づいてくるぞ!」
外で若い男の声が聞こえた。
(何が近づいて来るんだ?)
信二も気になったがワザと信二達に顔を出させるために言っているのかも知れないので顔は出さなかった。
「ケンジ、俺は残りの火炎瓶を取りに行く」
「わかった」
目を洗いながらケンジが返事をしたので信二は素早くしゃがみキッチンに移動しながら振り返ると外にいる若い斧を持った金髪の男が見えたが信二たちではなく道路の方を見て斧を構えてどうするか迷っているようだ。
その間に見つからずにキッチンの内側に滑り込んで身を隠してもう一度窓の外にいる金髪の若い男を見ると叫んでいた。
「おい、あんなの斧じゃ倒せないぞ!どうするんだ!」
「車を近づけるから早く建物の中に入れ!」
別の男の声が聞こえると斧を持った金髪の若い男がこちらを見て目が合った。
(見つかった!!)
心臓が止まるような感覚と同時に金髪の若い男の口が開くのが見えた。
「別の男が中にいるぞ!!」
その瞬間に窓際にいたケンジが素早く立ち上がると手に持っていたウイスキーが少し残っている瓶を思いっきり投げつけてすぐにまた隠れた。
金髪の若い男は瓶を避けようとしたがハイエースの屋根に斧を持って立っていたためにうまく避ける事が出来ず、斧を持った手に瓶が当たり持っていた斧が手から滑り落ちハイエースの屋根に当たりそのまま道路に落ちるのが見えた。
「バカ野郎!何やってるんだ!」
「すいません!」
怒鳴り声が聞こえると斧を落とした金髪の若い男は謝りながらハイエースの屋根を降りていくのが見えたがそれと同時に発砲音が聞こえ、信二は慌ててキッチンの内側に隠れた。
更に続けて発砲音が三回聞こえたが銃弾で部屋の物が壊れるような音は聞こえない、発砲音が聞こえているが信二はキッチンの隅からケンジのいる窓際を見るとケンジが慎重に窓の外を覗いていた。
(どうやら銃弾はこっちにきていないみたいだ、だが何処に撃ってるんだ?)
疑問は残るがとりあえず包丁を自分の腹を刺さないようベルトに挿してキッチンの上にある火炎瓶を二本持ちケンジの近くまで移動した。
隣について床に座ろうとすると包丁が太ももに当たって痛いので火炎瓶を置き包丁もベルトから抜いて床に置いてケンジを見ると窓の外を見て固まっていた。
「おい!どうなってるんだ?」
すると外を見ながら信二に言った。
「お前も見てみろ」
ケンジに言われて信二もゆっくりと窓の下から顔を出して外を覗くとハイエースはすぐそこ五メートルくらいの所にあり、ゆっくりと信二たちのいる建物に近づいてきていた。
運転手の赤い髪の男はやたらと背後を気にしていて車の外にいる散弾銃を持った男が必死にポケットから散弾銃の弾を取り出し中折れている散弾銃に込めているのが見えた、二人の視線の先を見るとアダチ薬局からここに戻る時に見た無数の人間の手足が生えた肌色と赤色の山のような化け物が近づいて来ていた。
ハイエースの傍にいる男の散弾銃が跳ね上がり発砲音が聞こえるとこちらに近づいてくる山のような化け物の表面がはじけて血が流れるのが見え、慌てて顔を戻すとケンジが聞いてきた。
「どうする?」
「あいつらハイエースの屋根から二階のこの店の窓を破って乗り込んでくるつもりだろうから、ハイエースを使えなくすれば奴等もあの化け物もここには入ってこれなくなる」
「ならハイエースを潰せばいいな?」
信二が頷くとケンジは信二が置いた火炎瓶に着火ライターで火をつけた、信二も残る火炎瓶を持つと着火ライターを渡してきたので信二も持っている火炎瓶のキッチンペーパーに火をつけたがキッチンペーパーが燃えているだけに見えたので軽く中身を振って芯代わりのキッチンペーパーをアルコールで湿らせた。
ガラスが割れる音が聞こえてケンジを見るとすでにハイエースに投げつけたようですぐに引っ込んだ。
信二も注意しながら立ち上がると散弾銃を持った男は山のような化け物にひたすら散弾銃を撃っていて斧を落とした金髪の男は散弾銃の発砲音で周りに近づいてくる精神病患者を斧で倒していて二人の周りには精神病患者の死体が三、四体転がり痙攣しているのが見えた。
「おい、タカハシさん、上の奴等をやってくれ!!」
ハイエースから声が聞こえそちらを見ると運転席の赤髪の男が信二を指差しながら散弾銃を持った男に向かって叫んだ。
慌てて信二はハイエースの運転席の赤髪の男目掛けて火炎瓶を投げ下ろすと運転席側のフロントガラスにヒビが入りアルコールの色の薄い炎が今まで投げた火炎瓶のアルコールで濡れている部分を伝って割れている助手席側のフロントガラスの穴から車内に入るのが見えた。
助手席の足元から煙が上がるのが見え、運転席の赤髪の男が慌てて煙を消そうとするのと同時に散弾銃を持った男が振り返り銃口が信二を向いた。
血の気が引き慌ててしゃがもうとするとケンジに背中を掴まれ強引に床に倒されると背中をガラスの破片に打ち付け痛みが走り思わず目を閉じた、すると発砲音と共に空気を切り裂く音がすぐ近くで聞こえ身体が固まるような悪寒が背筋を走った。
「おい!しっかりしろ!」
ケンジの声が聞こえ信二は顔を手で拭ってから手を付いて上体を起こすと手の平でガラスの破片を押さえたようですこし痛かったが言った。
「助手席から煙が上がるのが見えた」
「火炎瓶は一余役立ったようだな」
信二は頷くと外から人のものではない叫び声と同時に車がぶつかる音が聞こえてきた。
ケンジが素早く立ち上がり外の様子を見てすぐに引っ込んで言った。
「やばい、車が建物についてる、あいつ等ここに入ってくるぞ!」
「どうする?」
信二が聞くとケンジは必死にどうにかしようと考えはじめたがそんな時間はない、信二も外の様子を見るために窓から外の様子を伺うと山のような怪物が散弾銃を撃っている男に向かって来るのが見えたのと同時にハイエースの屋根の上に斧が置かれ若い金髪の男が両手を付いて車の屋根に上がってきた。
考えている時間は無かった、信二は素早く包丁を掴み立ち上がり開いている窓から外のハイエースの屋根に飛び乗り斧を奪おうとした。
「おい、何考えている!、散弾銃を持った奴がいるんだぞ!」
窓枠に足をかけようとするとケンジが信二を掴み引き倒すように背中を引っ張った。
(だが、このままじゃここでやられるのを待っているだけだ!)
そうしているうちに金髪の若い男はハイエースの屋根に上がり片手で斧を持ち信二とケンジを見つけて悪魔のように笑って叫んだ。
「この二人は俺に任せろ!」
「任せた!こっちはそれどころじゃない!」
散弾銃を撃っている男の声が聞こえてきたがそちらを見る余裕は無く斧を持った金髪の若い男が信二を睨みながら近づいてくる。
「お前達さっきはよくもやってくれたな」
信二は窓から外に出るのをあきらめて隣にいるケンジを見るとケンジは素早く窓の下に隠れ包丁を握り締めていた。
「お前みたいなバカに誰が殺されるんだよ!」
注意を引くためにワザと怒鳴り挑発してみたが声が震えていなかっただろうか?怒鳴ったり挑発なんて今までした事が無いので勝手がわからない。
発砲音のする方を見ると散弾銃を撃っている男に先ほどまでハイエースを運転していた赤い髪の男が何かを渡しているのが見えた。
山のような化け物は今まで受けた銃弾で血まみれになり生えている手足が千切れたり千切れかけていたりしていたが一向に止まる気配が無くこちらに近づいて来た。
目の前の斧を持った金髪の若い男が近づきながら叫んだ。
「まずお前の足を切断して逃げることが出来ないようにしてやる!」
信二も負けずに叫んだ。
「やれるもんならやってみろ!まぁその前に俺がお前を殺してやるけどな!」
「やってみろ!この野郎!」
被せるように斧を持った男が怒鳴り、思わずとなりのケンジを見たがケンジが先ほどの場所からいなくなっていた。
(マジか!)
「何処を見てるんだ!」
すると金髪の若い男がハッとしてから笑った。
「もう一人がそこに隠れてるんだろ!そんなことしても無駄だ!」
「さぁ、どうだろうな?ほんとにそこに隠れてるのかな?」
今度は信二が斧を持つ男を見て笑うとさすがに戸惑ったようで歩みを止めて信二を睨みつけた。
「おい!何止まってるんだ!こっちはやばいんだぞ!さっさとそいつをかたずけろ!!」
赤髪の男が斧を持った金髪の若い男を見上げて怒鳴った。
「わかってる!わかってる!クソッ」
雑に返事をしながら一歩づつ慎重に近づいて来るので信二は後ろに下がりキッチンに並べてある皿を次々斧を持っている金髪の若い男に投げつけるが避けたり斧を盾代わりに近づいて来た、その時、隣にいなかったケンジが店の出入り口をふさいでいるバリケードから金属製の椅子を取り出して窓の下に隠れながら息を殺して金髪の若い男が入ってようとしている窓に近づくのが見え、信二は注意を引くためにひたすら皿を投げ斧を持った金髪の若い男は皿を避けながら近づき窓枠に手をかけた。
それを見たケンジが素早く手に持っている椅子を振りかぶって殴りつけた。
「やったか?!」
ケンジが立ち上がろうとした瞬間に椅子を持ったまま信二のいるキッチンの方に吹き飛び仰向けに倒れた。
「バカめ!」
斧を縦に持ちガードした様で片手に持ち直すと窓を跨いで店内に入ってきた、ケンジも後ろに下がりながら立ち上がった。
「お前らもうダメだ、絶対に許さん!」
言いながら斧を振りかぶり近くにいるケンジに振り下ろした。
「ふんっ」
ケンジも持っていた椅子で受け止めたが金髪の若い男は何度も斧を振り下ろすとケンジが持っている椅子の鉄の部分が凹んで椅子が曲がっていく。
(どうする?何がある?)
信二は必死になって周りを探したが斧を防げるような物はバリケードとして使っていて取りに行く間に椅子が壊れてケンジが殺される。
「信二!俺がここで食い止めるからお前は逃げろ!!」
「カッコイイこと言うじゃねえか!でも無駄だ!逃げたってどうせ俺達が追い詰めて殺すからな!」
斧を持った金髪の若い男が勝ち誇ったように信二を見て笑った。
「逃げたって構わないぜ、そのほうが俺達は楽しめるからな」
その言葉を聴くと背中に悪寒が走り震え上がりそうになるのと同時に信二を決意させ包丁を握り締めた。
(ここでやらなきゃやられる!)
外ではまだ散弾銃の発砲音が聞こえていた。
「信二!早く逃げろ!!」
ケンジが振り下ろされた斧を曲がった鉄パイプの椅子で何とか受け止めるのと同時に信二はケンジを助けるために斧を持った男に包丁を構えながら走った。
ケンジの鉄パイプの椅子は折れていた場所から千切れてそこを狙い金髪の若い男が斧を振り降ろそうとすると持っていた椅子を捨てたケンジが斧を掴んだ。
二人は斧を持ったままもつれあっているが信二は金髪の若い男のわき腹に体当たりするように思いっきり包丁を刺した。
肉を切るような感覚だと思ったが硬いゼリーに包丁を突き刺すような感触がしたがそのまま体当たりをするように男が入ってきた窓まで押した、信二が金髪の若い男を見上げると口を硬く閉じて睨んで来たがケンジが素早く斧を奪い取って後ろに一歩下がると金髪の若い男が口を開いた。
「・・・てめぇ・・・、絶対にゆるさねぇ・・・」
苦しそうで顔も引きつっているように見えた、その時また外で発砲音が聞こえたと思うとケンジが奪った斧を振りかぶり金髪の若い男の首元に突き刺した。
金髪の若い男の目が見開かれ自分の首元に刺さっている斧を自分で斧を掴んで外すと動脈が切れたようで大量の血が溢れ出し必死に自分の首を押さえ血を止めようとしたがあふれ出す血が多いために手の隙間や服を伝って大量の血があふれ出し信二も慌てて後ろに下がった。
すると金髪の若い男が窓から落ちそうになると血まみれの手で逃げようとした信二の胸倉を掴んできた。
「放せ!!」
叫びながら信二は胸倉を掴んでいる手を振り払おうと金髪の若い男の手を掴んだが血のせいでヌルヌルと滑った。
「信二!」
ケンジが信二の背中を掴んで引っ張ってくれたが金髪の若い男の上半身はすでに窓の外に出て胸倉を掴まれている信二も外に引っ張られ慌てて片手で窓枠を掴み耐えながら片手で金髪の若い男の手を思い切り叩いたが離そうとはしない。
「タカハシさん!あれ!」
下で声が聞こえそちらを見ると山のような無数の手足が生えた化け物は生えている手足が所々ちぎれ血を垂れ流し血まみれになり動かなくなっていた。
化け物の近くにいた赤髪の男が振り向きこちらを見ていると散弾銃を持っていた男は化け物を足蹴にして死んでいることを確かめていたが振り返りこちらを見た。
「タケヤマ!」
叫ぶと近くにいた精神病患者が二人に近づきそれに気が付いたタカハシが散弾銃を発砲し精神病患者の頭部がザクロのように真っ赤に飛び散り地面に倒れるのが見えた、信二はその間も必死に金髪の若いタケヤマと呼ばれた男の腕を剥がそうとしたがはなれない。
いきなりケンジが信二を押しのけて横に来るとタケヤマの腕めがけて斧を振り下ろし、タケヤマの腕に斧が食い込み血が溢れ出ると胸倉を掴む力が緩んだ。
信二が一気に手を叩き落すと男はそのまま背中から仰向けのまま窓から落ちていくのが見え信二は手についた血を服で拭いながら窓枠を掴んでいた手で苦しくなった首筋をさすりケンジを見た。
「だいじょ・・」
声がそこまで聞こえると何かに腰と掴まれ下を見ると落ちていく金髪の男の足が信二の胴体を挟んでいた。
信二は慌てて足を掴んで離そうとするが足の力が強く息が止まりタケヤマが落ちるのに引っ張られた。
「信二!」
ケンジが信二の手を掴んだが首筋や腕を払う時に付いた血で滑り一瞬掴んだ手が離れていくので必死に掴みながらタケヤマの股間を思いっきり殴りつけると男の玉が潰れるような感覚がしたがタケヤマの足は緩まなかった。
(どうしてだ?)
信二は思わずタケヤマの顔を見ると白目を剥いて口が開きっぱなしの青白い顔をした、すでに意識が無いようだ。
「クソッ!死ぬなら一人で死ね!」
叫びながらもう一度股間を殴ったが反応はなく男の上半身は窓の外に完全に出て信二の身体を掴んでいる足に全体重が掛かるとケンジが持っていた斧を捨てて両手で信二の腕と服を掴んだ。
発砲音と共に隣の窓ガラスが粉々に砕け驚いてケンジを掴んでいた手が離れた。
信二の身体が浮き上がると背中にゾクゾクとした悪寒が走り身体がアッという間に窓の外に出た。
(終わった!!)
落下していく先にはハイエースの屋根が見えるとタケヤマの頭部がハイエースに当たり首の骨が折れたのか鈍い音を立て首がありえない角度で曲がり白目をむいて完全に逝っていた。
(あぁなりたくは無い)
とっさに頭を庇う様に両手でガードして目を閉じるとハイエースの上に落ちたが鉄板でないものに当たるのと同時に頭を庇った腕が頭に当たり一瞬腕と首筋に痛みが走ったが次の瞬間にまた空中に投げ出されるような感覚がすると今度はガラスが割れるような音と共に身体中に痛みが走ったが先ほどよりもましであった、頭がガンガンと痛み体中に流れる血の音が聞こえる。
「信二!!」
「タケヤマ!!」
それぞれを呼ぶ声が遠くで聞こえた、信二は痛みを堪えて手を突いて起き上がろうとすると手の平に痛みが走りすぐに手を引っ込めると何故かバランスを崩してわき腹を何かにぶつけながらやわらかい物の上に落ちた。
わき腹の痛みと手の平の痛みで段々と意識がはっきりしてきた、自分の服で手の平を拭うと少し痛みが走ったが手を突いて目を開けるとそこはハイエースの運転席だった。
いつの間にか信二を足で挟んでいたタケヤマはいなかった、どうやら落ちた衝撃で足が外れてバラバラに落ちたようだ、信二が急いで起き上がりハイエースを抜け出そうとすると助手席のドアが開き赤髪の男の腕が伸びてきて避けて逃げようとしたが肩を掴まれた。
「捕まえた!!」
「引っ張り出せ!」
信二は必死に抵抗したが助手席から外に出されて道路に落ち肩をぶつけ一瞬気が遠くなりかけた。
「おい、そいつを立たせろ!」
「はい」
髪の毛を掴まれて強引に頭を引っ張られて立たせられると頭がガンガンと頭痛のように痛んだ。
「おい、上にいる奴!これを見ろ!両手を挙げて出て来い!さもないとこいつを殺すぞ!」
タカハシと呼ばれた散弾銃を持った男が二階の信二が落ちた窓を散弾銃で狙い叫んだ。
「おい!聞いてるのか!」
危ないと思い信二も叫んだ。
「出てくるんじゃない!狙われてるぞ!」
「うるせぇ!!勝手にしゃべるな!黙ってろ!!」
頭を掴んでいる赤髪の男が髪の毛を左右に振りながら信二の腹に思いっきり膝蹴りをすると鈍い音がした、思わず身体を折ると髪の毛が抜ける痛みと共に胃の内容物が食道を逆流して焼けるような痛みと共に胃液を吐き出した。
「大人しく出て来い!出て来るまでこいつをいたぶってやる!やれ!」
言いながら背中を蹴られ自分が吐いた胃液に覆いかぶさるように倒れると更にわき腹を蹴られあまりの痛みに意識が飛びそうになる。
「わかった!待ったくれ!今出て行く!だから待ってくれ!」
ケンジの声が遠くで聞こえ、信二は顔を上げて叫ぼうとしたが上げようとした頭を踏まれ額を道路にぶつけ小石が額に刺さるような痛みがするが叫んだ。
「止めろ!!俺を見捨てて逃げろ!」
「うるさい黙れ!!」
今度は何か棒のようなもので背中を叩かれ一瞬のけぞって倒れると、とうとう頭がおかしくなったようで何かバタバタと遠くから変な音が聞こえてきた。
「なんだ?この音?」
「さぁ?分からん、この音は何だ?おい、説明しろ!早く出て来い!」
この二人にも聞こえているようだ。
「俺じゃない!何なんだこの音は!?お前達じゃないのか!?」
ケンジの叫び声が聞こえるが不審なバタバタと連続した音は段々と大きくなり何かが近づいてくるようだ。
「あれだ!空を見ろ!!」
男達の誰かが叫ぶとバタバタと言う音が大きくなり真上を跳んでいくのを感じた。
「ヘリだ!!」
声が聞こえ信二も踏まれている顔を強引に動かして空を見るとケンジとしているFPSゲームで出てくるような軍用のヘリコプターっぽいのが飛んでいくのが見えるとヘリは旋回しはじめた。
「戻ってくるぞ!」
男が叫んだので信二が出来るだけ大声で話しかけた。
「あのヘリは俺達が上げた煙に気が付いて助けに来てくれたようだ!お前達も助かりたいなら早く銃を置くんだ!」
「うるさい!黙れ!」
「タカハシさん!」
散弾銃を持った男が信二のわき腹を更に蹴ろうとしたがもう一人の赤髪の男がそれを止めた。
「なんだ!俺に逆らうのか!」
「逆らう気はありませんがこいつをあのヘリの前で殺すのはやめたほうがいいですよ!」
すると信二は髪の毛を引っ張られ強引に立たされるとこちらに戻ってくるヘリが見えた、どうやらヘリは屋根の上にキャシーが作ったHELPという文字が見えたのだろう、それかここには化け物の死体もあるから様子を見に戻って来たのかもしれない。
「お前!それに部屋に居る奴も大人しくしろ!わかったな!」
散弾銃を頭に突き付けられたので返事をする必要も無かった、ヘリはテレビ局が使っているようなものではなく映画で特殊部隊が降下してくるような軍用のヘリコプターで灰色を暗くしたような色をしていた。
「助けて!!ここよ!!助けて!!」
何処からか女の助けを求める黄色い声が聞こえ信二は思わず建物を見上げた。
(やばい、あの声はトウカだ!)
信二が散弾銃を持ったタカハシを見るとタカハシは信二を睨んで頭に食い込むくらい散弾銃の銃口を頭に押し付けて怒鳴った。
「おい!どういうことだ!!」
「知らない!俺は知らないぞ!誰か近くの家に隠れてる奴の声じゃないのか?」
「黙らせろ!!」
「何処にいる誰かもわからないんだ!出来ない!」
本当は知っているがここで俺が呼びかけて叫ぶのを止めさせるよりキャシーとトウカが助けを求めればヘリが気が付き二人が助かる可能性は高いだろう。
(だが俺は絶対絶命だ・・・・)
その間も助けを求めるトウカの叫び声が聞こえてきた。
「ここよ!!ここにいるわ!!早く助けて!!」
「うるさい!!黙れ!!」
散弾銃を持ったタカハシが怒鳴ると散弾銃の銃口を空に向けて発砲した。
「タカハシさん!何してるんです!」
赤髪の男が驚きタカハシに詰め寄り信二の髪の毛を掴んでいる力が弱まった。
「うるさい!黙れ!」
「何考えてるんです!助かるんですよ?!」
「この銃があればこの町は俺達の天下なんだぞ!好きなものを奪い手に入れる事が出来るんだぞ!あんな軍隊に助けられてみろ!俺達はただの労働者に逆戻りだ!お前はそれでいいのか?それが嫌で俺に付いて来たんじゃないのか!?」
タカハシは言いながら散弾銃の引き金近くのレバーを押して銃を折り空の薬莢を取り出して新しい弾を入れた。
「・・・・・・そうですけど・・・・」
赤髪の男は迷っているのか歯切れの悪い返事をすると、軍用ヘリがこちらに近づきスピーカーの入る音が聞こえた。
「コチラハ、アメリカカイグンショゾク」
「アメリカ海軍!?」
「助けて!!ここよ!!ここにいるわ!」
驚く声と共にトウカの助けを求める声が聞こえた。
(チャンスは今しかない!!)
信二は素早く息を吸い込んで全身に力を入れ、素早く立ち上がり散弾銃を持つタカハシに体当たりをするのと同時に赤髪の男が信二の髪の毛を掴んでいたため無数の髪の毛が抜けるブチブチとした音と痛みを感じた。
「うっ」
体当たりをされたタカハシは散弾銃を暴発させて道路に倒れ、赤髪の男はすぐ信二を捕まえようと手を伸ばして来たのでその腕ごと赤髪の男に体当たりをするとバランスを崩し死んでいる化け物にぶつかり道路に倒れた。
「フリーズ、ドロップ ウエポン!!」
ヘリのホバリングでかき消されないような音量の英語が聞こえてきたがこいつらといたら捕まって殺される可能性がある、信二は急いでハイエースに乗り込み割れている運転席のドアの窓に足をかけハイエースの屋根の上に登った。
「ストップ!ストップ!アイ シューツッ!」
シューツッ?!ショットか!ヤバイ!信二が慌ててヘリを見ると何時の間にか向きを変えて横側のスライドドアが開きゲームや映画で見るようなアサルトライフルを構えた水色の服を着た兵士が二人こちらに銃口を向けて狙っているのが見えた。
「ストップ!フリーズ!」
他にもいろいろ英語が聞こえてくるが耳に入っても理解できないし自分の心臓の音の方が大きく聞こえる。
「うわぁ!」
叫び声が聞こえそちらを見ると先ほど信二が突き飛ばした赤髪の男が驚いて立ち上がると山のように手足の生えている化け物の死体が動いた、それを見た散弾銃を持ったタカハシも後ろに下がりながら化け物の死体に向かって散弾銃を構えた。
ヘリの爆音でトウカの声は聞こえないがヘリに乗っているアメリカ海軍の兵士は何が起こっているか分かっていないようで怒号が飛んだ。
「フリーズ!!ドロップ ガン!!」
聞こるのと同時に発砲音が聞こえ信二は慌てて化け物を見ていた顔をハイエースの屋根に貼り付けて二、三秒してからもう一度化け物を見た。
(どうやら威嚇射撃をされたようだ!)
死んでいる化け物の血まみれの表面が一気に盛り上がり手のような形が現れたと思うと何かが化け物の死体の中を動き回った。
「クソッ!」
アメリカ兵に銃を向けられタカハシが散弾銃を道路に投げ捨て逃げようするとその音に驚いた化け物の一番近くにいた赤髪の男が小さく悲鳴を上げるのが聞こえた、信二は今の内に逃げようと振り返ると発砲音と同時にハイエースの窓が砕け銃弾が近くを飛ぶ音が聞こえ信二は身体が震え上がった。
(アメリカ海軍の奴らは状況が分かってないのか?)
信二がヘリを見ると信二のいる所から百メートルも離れていない場所で映画で見たようにヘリからロープが二本垂れ兵士が一人ずつつたって降り、近づいて来る精神病患者の頭を正確にアサルトライフルの一発で撃ち抜き更に後に続いて降りてくる仲間を援護をしている。
信二はハイエースの上にいるので精神病患者が近づいて来るが手の届かない場所にいるのでまだ安全だが道路にいるタカハシと赤髪の男の周りの精神病患者は轟音でホバリングしているヘリに近づいて行くが目の前の化け物の死体の中に何かいるので逃げ出したいようだがヘリに乗ってる兵士がしっかりとこちらを狙ってアサルトライフルを構えているのが見えて逃げ出せずにいた。
四人の兵士が地上に降り周りの精神病患者を撃ち殺しながらこちらに近づいて来た、信二はその間も化け物の死体を見ていたが中で何かが血まみれの化け物の肌を突っ張らせながら動き回るのを見ているだけで恐怖と吐き気を感じ、化け物の目の前にいる赤髪の男は足や手が震えていた。
アメリカ兵四人が映画で見るように互いに援護しながら近づいて来る精神病患者の頭を正確に撃ち抜き走って信二に近づいてくる。
「うわぁ!!」
叫び声が聞こえそちらを見ると化け物の死体の中から皮膚を突き破り真っ赤な大きな塊が出てくると塊から何かが伸びて一番近くにいた赤髪の男の足を掴んだ。
「助けてくれ!タカハシさん」
タカハシは素早く道路に捨てた散弾銃を慌てて拾いに行くが、赤い塊が素早く動き捕まえた赤髪の男を棒切れのように振り回してタカハシの背中に打ちつけ、タカハシは散弾銃に覆いかぶさるように道路に倒れ動かなくなった。
ヘリから流れてくるアメリカ海軍の声は何が起こっているのかわからないようで聞き取れない怒号のような英語が流れてくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます