第6話 帰り道の衝撃
準備が出来た三人はそれぞれアマドの家から出て行った時と同じ格好をしてケンジは出た時と同じピッケルを持ちアマドさんはどこから手に入れたか分からないが鉄パイプを持っていた。
先ほどまでしていたシャッターを叩く音は聞こえなくなっていたのでシャッターの前に置かれた棚を取り除いた。
「準備は整ったな」
ケンジが二人を見て言うと背後の店の奥からユキコが小走りで近づいてきた。
「二階の窓から確認しましたけど、シャッターの近くには精神病の人たちはいませんでしたけど車の周りには三人いましたよ」
「そうですか、ありがとうございます」
アマドがお礼を言うと倉庫の扉の前にいたトモノリが信二たちを見ながら近づいてアマドの前で立ち止まった。
「アマドさん」
「はい」
アマドがトモノリを見ると厳しい顔をしてアマドを睨んだ。
「君達が必要な物は渡したんだ、さっさと出て行ってくれ」
「分かりました」
振り返ったアマドは残念そうな顔をしていてケンジが肩を叩いた。
「アマドさん、俺達も帰りましょう」
「あぁ、そうだな」
アマドは返事をして信二を見た。
「池田くん、車の運転は私にさせてくれないか?」
「もちろんですよ、アマドさんの車なんですから」
信二はポケットからトヨタのマークがついた鍵を取り出してアマドに渡すと自分のズボンの右ポケットに入れのを確認してケンジとアマドの顔を見た。
「行きますよ?」
「分かった」「OK」
返事が返ってきたで信二は目覚まし時計を持つとアマドとケンジが素早くシャッターを信二が出れるくらいに開いた。
店の外に精神病患者の足が見えないことを確認すると信二は床に置いていたピッケルを右手、目覚まし時計を左手に持ってしゃがみ込みシャッターの下から覗いてもう一度精神病患者がいないことを確認してから音が出ないように潜って外に出た。
一時間前はシャッターを叩く精神病患者が大勢居たがしばらくすると叩くのは収まったが、少し離れた道路上にシャッターを叩いていた精神病患者たちがさまよっていた。
足音を立てないように信二は乗ってきたプリウスとは反対側の道路を精神病患者を避けながら進み店から二十メートルくらい離れた場所で足を止めて素早く手に持っている目覚まし時計の時間を確認し一分後になるようにセットして地面に置き信二は今来たところを急いで戻るとケンジとアマドがシャッターの隙間から外を覗いていて戻ってきた信二の腕を掴んで素早くシャッターの内側に引きずり込んだ。
すぐに目覚まし時計のアラーム音が鳴り始めケンジとアマドはシャッターを少し閉じて隙間から外の様子を確認したので信二もしゃがみ隣から外を見た。
目覚まし時計の近くにいた精神病患者がゆっくりと近づいていくのが見えたが引きつけた精神病患者は三人だけで店の前の道路をさまよっている者達は引きつけることが出来ていなかった。
(どうやら俺の考えた案は失敗みたいだな、無駄に危険を冒しただけか・・・)
信二は隣にいるケンジとアマドを見たが二人ともまだ目覚まし時計のほうを食い入るように見ていたので小声で囁いた。
「どうやらあれが限界みたいだ」
「そうみたいだな・・・」
ケンジが残念そうに答えると外を見ていたアマドが信二を見た。
「いや、もうちょっと待ってくれ」
言われた信二とケンジは頷いて外の様子を見ていると先ほどは反応していなかったアダチ薬局前の道路に居た精神病患者たち二人がゆっくりとだが目覚まし時計のほうに近づいていくのが見えた。
「やっぱりだ」
アマドが呟いてから二人を見て続けた。
「あの目覚まし時計は止めるスイッチを押さないと音が段々と大きくなるんですよ」
アマドの隣にいるケンジがすこし困ったように聞いた。
「どうして最初に言わなかったんですか?」
「目覚まし時計なんてすぐに止めるからあの目覚まし時計に音が大きくなる機能がついてたか思い出せなかったんだよ」
アマドとケンジが話している間にも目覚まし時計のアラーム音は大きくなり、更に二人のアダチ薬局の前にいた精神病患者が目覚まし時計の方に歩き始めた。
ケンジがシャッターの下から顔を出して周りを見てすぐに顔を引っ込めていった。
「アマドさんの車まで精神病患者が五人でがなんとか行けそうです、行きましょう」
ケンジが強く言うので信二は頷いてピッケルを持つ手を握り直して返事をした。
「OK」
アマドを見ると頷いた。
「行きましょう」
その様子を見たケンジが頷いてからリュックとピッケルを手に持ちシャッターの隙間を開けて下を通り外に出た、周りの状況を見てからケンジが手招きをしたのでアマドと信二もケンジに続いて外に出た。
外に出ると周りにいる精神病患者との距離を見た、店の前に居た精神病患者たちは目覚まし時計のそばに八人が溜まっていて一人がしゃがみ込み目覚まし時計を掴もうとしているのが見えた。
「おい、信二」
ケンジに呼ばれて振り返るとアマドとケンジがシャッターをゆっくりと閉めようとしていたので信二も手伝い音が出ないように閉めるとすぐに内側から鍵がかかった。
隣のケンジが何も言わずにアマドの車のほうに足音を立てないように早足で向かうので信二もケンジに続いた。
先頭を行くケンジを近くの精神病患者が手を伸ばして襲おうとしたが素早く身を交わして先に進んで行き信二も後に続こうとしたが、その時今まで聴いたことの無い叫び声が聞こえるのと同時に背中に悪寒が走り思わず足を止めた。
声の主を探そうと周りを見渡すと後ろにいたアマドが目覚まし時計の方を指差した先で何かが動くのが見えた。
目を凝らすと目覚まし時計に群がっている精神病患者の向こうに何か肌色と赤い色の山のような物が動くのが見えるのと同時にその物がこちらに近づいてくるのが見え、その得体の知れないものには怖さと気持ち悪さと恐ろしさを感じた。
アマドはそちらを見たまま固まって動こうとしないので近づき手を伸ばしアマドの肩を叩くと振り返り信二を見た顔が恐怖で固まった。
「後ろ!!」
アマドが叫び背後に振り返ると信二に噛み付こうと口を開け手を伸ばす精神病患者の顔が目の前にあった。
(しまった!ケンジが避けた奴だ!)
右手に持つピッケルで突き飛ばそうとしたが近すぎて出来ず精神病患者が信二の両肩を掴んで首筋に噛み付こうと開いた口からは生臭い息と黄色い歯にこびり付いた赤黒い血の塊が見えてしまった。
「クソがっ!!」
噛み付こうとしている精神病患者の肩を両手で抑え噛み付かれることをは防いだが顔の臭い息が掛かり精神病患者が掴んでいる信二の肩に指がめり込み激痛が走り痛すぎて涙を出しながら必死に耐えているがこのままでは抑えている手に力が入らなくなりそうだ。
精神病患者の背後に何か動くものが見えたと思うと精神病患者の頭に何かがぶつかり信二の肩を掴む力が弱まりそのまま地面に倒れこむとピッケルを持つケンジの姿が倒れた精神病患者の背後に見えた。
「大丈夫か?」
「あぁ、助かったよ」
すると背後にいたアマドが信二の隣に来て申し訳なさそうな顔をした。
「すいません、私のせいで・・・」
「いいから先を急ぎましょう」
こんな所で立ち止まっていたくないので信二はアマドの背中をピッケルを持つ出て軽く押したが力を入れた瞬間に肩に痛みが走った。
「ツッ」
驚いて声が出そうになったが我慢した、耐えれない痛みではなかったのでケンジを見た。
「早く行こう」
頷くと黙ってケンジはプリウスに向かった、信二が周りを見ると先ほどの物音で気付いたのか近くの精神病患者が信二たちに向きを変えてゆっくりと近づいてきたので息を吸い込んでケンジを追って車に向かい後ろをアマドが付いてきた。
精神病患者をかわしながら何とか車にたどり着くとまた叫び声が背後から聞こえ振り返った。
そこには先ほど遠くに見えた肌色と赤色の山のようなものが近づいて、先ほどは遠くてよく分からなかったが、山には人間の手足が無数に生えて海中を移動するウニのようにすべての手足が動き地面を移動して精神病患者が進路をふさいでいるといきなり中腹が開いたと思うと中に真っ赤な内臓のようなものが見え、周りの手足が精神病患者を掴みそのまま内蔵の中に放り込んだ。
放り込まれた精神病患者が暴れて叫び中で暴れている様で表面がボコボコしたりしていたがすぐに悲鳴が収まり精神病患者を放り込んだ中腹から大量の血があふれ出して地面を濡らすと中腹から血の塊のようなものを吐き出して地面にベチャっとトマトを地面に叩きつけたように血が広がった。
「信二君」
振り返るとアマドが運転席に入りドアを閉めようとしていたので慌てて後ろの席のドアを開き後部座席に座り込みドアを閉めると助手席にケンジが座っていて後ろを見ていた。
「おい、あれを見てみろ」
言われて信二は後ろの窓から先ほどの山のような怪物を見ると 信二が置いた目覚まし時計に群がっていた精神病患者達を次々に襲い始めるとそれに反応したようにアダチ薬局のシャッターが内側から突き破られ何か赤いものが道路に転がった。
思わず目を凝らして見た瞬間に吐き気がしてもどしまいそうになった、赤いものは血に染まった先ほどまで不機嫌に信二たちを睨んでいたトモノリの上半身で顔は恐怖で目と口を大きく開き叫び声を上げようとしている表情で固まっていた、ちぎれた腹部からは大腸か小腸なのか分からないがヌルっとした赤白い腸のようなものがアダチ薬局の打ち破られたシャッターの中まで続いていた。
「なにが起こっているんだ?」
前を見るとアマドも振り返り背後を見て戸惑ったような表情をしていたので思わず怒鳴った。
「いいから早く車を出せ!」
「おい、シャッターから誰か出てきたぞ!」
「マジだ・・・、だけどあれは何だ?」
無視してアマドとケンジが言うので信二は振り返りアダチ薬局のシャッターを見ると突き破られたシャッターの隙間から身長が二メートル位あり肩と頭が一体化した人間のような化け物がトモノリの奥さんのユキコの頭部を首の方から食べ、血で自分の身体を染めていたがいきなりこちらに向かって走り出してきた。
「やばい!」
自分なのかケンジなのかアマドなのか分からない叫び声が聞こえると同時にアマドがアクセルを踏み車が急発進し信二は後部座席に身体を打ちつけると先ほど精神病患者に掴まれた肩が痛んで思わず目を瞑って座席に倒れ込むと車が左右にハンドルをきり座席を滑りドアに頭をぶつけ頭を手で覆うと今度は反対側に滑った。
「おい、アマドさん、それを避けて!!」
「分かってる!分かってる!」
「危ない!!」
車に何かぶつかる衝撃と共にフロントガラスが割れる音が車内に響いた、慌てて上体を起こして前を見るとフロントガラスに蜘蛛の巣のようにヒビがびっしり入りその巣の中央には赤い血が付いていたがアマドはしっかりとハンドルを握って叫んだ。
「クソッ、前が見えにくい!」
助手席のケンジを見ると右手で頭を抑えていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ、アマドさんアクセルを緩めないで!」
「分かってる!」
アマドは焦っているようで怒鳴るように返事をしてハンドルを切り車が左右に揺れてまた後部座席を転がりそうになり慌てて助手席と運転席の背もたれを掴んだ。
「信二、後ろの奴は?」
(そうだ、後ろからも追ってきてたんだ!)
振り返るとアダチ薬局から出てきた二メートルくらいの高さの人間のような化け物が車の二十メートル後ろを走って追ってきて手に持つユキコの頭から揺れる度に血が垂れるのが見えると人間のような化け物がユキコの頭を持つ手を大きく振りかぶると手に持っていたユキコの頭部が飛んで来た。
「ヤバイ!」
思わず叫び後部座席の背もたれに隠れようとしたが遅かった。
ユキコの頭部がリアガラスに当たり血が飛び散り一気に視界が奪われてしまったが、ガラスは割れずにすんだが異様な物音を聞いたアマドが聞いてきた。
「どうしたんです!?」
「ヤバイ、薬局から出てきたのが追いかけてきてる!後ろのガラスが血で染まってよく見えないからワイパー動かしてくれ!」
返事は無かったがリアガラスのワイパーが動き血が拭われると先ほどより近い十メートル後方を二メートルの人間らしき化け物が追ってきていたが更にその後方で目覚まし時計の場所で精神病患者を食べていた山のような手足の生えた化け物も信二たちを追ってきているのが見えた。
「ヤバイ、あの目覚まし時計の所にいたデカイのも追ってきている」
道路をさまよっている精神病患者を避けているため車は左右に揺れてスピードがでないようでこのままでは追いつかれてしまう。
アマドに呼びかけようと振り返るとケンジが頭を抑えていた手を離すとその手が血まみれになっていた。
「おい!ケンジ!」
「俺は大丈夫だ、それよりもアマドさんもっとスピードを出してください、もうゾンビどもに気を使って避ける状況じゃないですよ!」
「でも・・・」
やはり人を轢くのは気が引けるのだろうがそうは言ってられない。
「アマドさん!!」
ケンジがもう一度言いながらアマドの肩をゆすった、信二は後ろを振り返ると車を追ってきた二メートルの人間のような化け物が五メートルまで近づいていて思わず叫んだ。
「追いつかれる!!早く!!」
その瞬間に二メートルの人間のような化け物がジャンプしたと思うと次の瞬間にはトランクに飛びついて車内に鈍い音が響き手を動かして屋根に這い上がろうとしている。
「アマドさん、アクセル踏んで!!」
ケンジが叫ぶのとほぼ同時に車が急加速して屋根に上がろうとしていた人間のような化け物の動きが止まった。
「振り落とせ!!」
信二が叫ぶと車の前方に何かがぶつかる音が聞こえ後ろの人間のようなものを見ている信二の目の片隅で精神病患者が道路に倒れるのが見えた、車が左右に激しく揺れて掴まっている化け物を振り落とそうとしたが身体が左右に振れるだけで落ちそうに無い。
(精神病患者は肩が赤くなるくらい力が強いで掴むからな、あれも簡単には落ちないか・・・)
そう思っている間にもアマドが運転する車は精神病患者を何人か跳ね車内に鈍い音が響いた。
「どうだ!?」
アマドが叫ぶように聞いてきた。
「振り落とせてないぞ!!もっと強く!!」
負けじと叫んだがそれと同時に二メートルの人間のような化け物が肩と一体化している頭をリヤガラスにぶつけ始めた。
「なんの音だ!?」
「ガラスを打ち破ろうとしている!!」
ケンジの声が聞こえ叫んだがその間も頭部をリアウインドウに何度もぶつけ、ガラスにヒビが入ったと思う次の瞬間にリアウインドウが中央で縦に裂けた。
慌てて信二は何時の間にか落としてしまったピッケルを探したが床下に落としたようですぐに見つけ掴めそうにない。
信二は慌てて両手を使って窓ガラスを抑えたが、二メートルの人間のような化け物の力が強く押し戻されて運転席に背中を打ちつけ思わず息が詰まった。
人間のような化け物はそのまま信二に噛み付こうとしたが、プリウスのリアウインドウが狭いために身体を車内に入れることが出来ずに窓枠に何度も身体を打ち付けている。
「これ使え!」
ケンジが言いながらピッケルを差し出したので素早く右手で掴み顔と肩が一体化してしまっている部分にピッケルを突き刺すと肩と一体化している頭部の口が一気に開き車内に低音の悲鳴が響き渡り耳が痛くなった、どうやら効いているようなので何度もピッケルをその頭部めがけて突き刺した。
叫び声は更に大きくなり叫び声を上げていた口の端が切れどんどん開く口が大きくなり信二の肩幅まで広がると口の中が血で真っ赤で黒い髪の毛がこびり付いているのが見えた。
恐怖で手が震えるが信二は開いている口の中にピッケルを振り下ろすと苦しそうな叫び声と共に刺した場所から血があふれた。
もう一度突き刺そうとピッケルを抜こうとした瞬間に開いていた口が一気に閉じた。
(やられた!!)
背筋が震えて冷や汗が一瞬で湧き出るのを感じてピッケルを持っていた腕を見るとそこにはピッケルの柄を持つ手が残っていてすぐに手を引っ込めた。
「曲がるぞ!!掴まって!!」
後ろからアマドの叫びが聞こえ信二は慌てて助手席の背もたれと後部座席のマットの部分を掴んで身体を固定すると車がスピードを落とさずに曲がり始めて遠心力で転がりそうになるのを踏ん張り耐えると目の前にいる二メートルの人間のような化け物も飛ばされそうになっているように見えた。
危険だが信二は足で人間のような化け物の顔の部分を思いっきり蹴飛ばした。
靴底に今までに感じたことのないような硬い油の塊を蹴る感覚が伝わってくるのと同時に蹴飛ばした顔が無表情で信二を見ていた。
恐怖に駆られ今度はその目を蹴飛ばすと足の裏に目玉がつぶれる感覚が伝わってくるのと同時に車を掴んでいる手が外れて滑り落ちた。
だが、まだ片手で車にしがみ付いて体勢を戻してまた車内に入ってこようとしてきたが二メートルの人間のような化け物の片目は信二が蹴飛ばした時につぶれたようで血が流れていたがまだ片方の目で信二を見ていた。
「くそっ」
信二はもう片方の目も蹴飛ばして潰そうとしたが、人間のような化け物は片手で目を庇った。
カーブが終わり車がまっすぐ進むと手元に食べられたピッケルの柄の部分が転がってきたので素早く掴み人間のような化け物の潰れてないほうの目に突き刺そうすると目をかばって手の平にピッケルの柄が刺さった。
人間のような化け物が苦しいのか叫び声を上げて柄の突き刺さっている手の平を見つめたので信二は手の平に突き刺さっている柄を思いっきり蹴るとそのまま残っている目に突き刺さり目玉が潰れる嫌な感覚が足裏に伝わりすぐに足を引っ込めた。
二メートルの人のような化け物は叫び声を上げながら目に刺さっている柄を抜こうと両手で柄を掴んだ。
チャンスだと思い信二が素早く蹴飛ばすと人のような化け物は目に刺さっている柄を抜こうとしたまま車から滑り落ち血まみれになりながら地面を転がった。
「やったぞ!!」
思わず叫び前にいる二人を見ると前方にアマドの店『ルブラン』の看板が見えたが車のボンネットに精神病患者がしがみ付いてフロントガラスを叩き、割れた破片がアマドにかかりガラスを払おうとハンドルから手を放した。
「アマド!!」
ケンジが叫び助手席からハンドルを握ったがアクセルを踏むアマドの足が外れたのか車のスピードは徐々に落ち車で轢いた精神病患者たちが次々とボンネットにしがみ付き始めた。
「アクセル、アクセルを踏め!!」
思わず信二が叫びながらアマドの身体を揺するとフロントガラスのひび割れた部分を突き破り精神病患者たちの腕が侵入してハンドルを掴んでいるケンジの腕を掴み外に引っ張り出そうとし、慌てて信二は後部座席から身を乗り出してハンドルを掴んだ。
「クソッ」
ケンジは言いながらポケットから何かを取り出すと何度も腕を掴んでいる手に振り下ろすと掴んでいる腕は血まみれになりケンジの腕から手を離すのが見えた。
だがそれと同時に信二の掴んでいるハンドルが力強く揺さぶられ車が左右に大きく揺れ運転席と助手席に身体を何度もぶつけ思わず手を離してしまった。
「アマドさん!!」
思わず叫ぶと車はまっすぐ加速して進んだ。
体が痛くてしかたないがそんなことは言ってられない、再び前を見るとアマドがしっかりとハンドルを握っていたのでケンジを見るとケンジは先ほど精神病患者に掴まれた腕をもう片方の手で掴み顔を歪めて痛そうに呻いている。
「大丈夫か?」
「いや、大丈夫じゃなさそうだ」
信二がケンジの掴まれた右腕を見ると掴まれていた場所が分かるくらい真っ赤に腫れていて手の指が垂れ下がったまま動こうとしなかった。
「アマドさんは大丈夫ですか?」
信二が言いながらアマドを見るとボンネットに乗っていた精神病患者が次々とフロントガラスを叩き粉々割れ隙間から無数の手が車内に伸びてくるのと同時に一人が車内に頭を突っ込んできた。
「ブレーキ!ブレーキ!」
信二が叫んだ瞬間に急ブレーキがかかるのと同時にボンネットにいた精神病患者が前方に飛んで行くのが見えるとその中の一人がハンドルを握るアマドの腕を掴んでいるのが見えるとアマドの身体が浮き上がりフロントガラスを突き破り精神病患者と一緒に前方に飛んでいった。
「アマドさん!!」
信二が叫んだ。
「どうなってるんだ?一体?」
ケンジが呟くのが聞こえた。
「アマドさんが外に飛んでった!」
「飛んでった?!」
よく分からんといった感じの声が聞こえたが、フロントガラスから飛び出て道路に倒れているアマドが見えると腕が動いて立ち上がろうとしているが、その周りに精神病患者が集まり始めた。
思わずドアを開けて後部座席から出てアマドに駆け寄ろうとした。
「信二!!」
車内から片腕を庇いながら異様に汗をかいているケンジがつらそうな顔をして続けた。
「戻れ!」
「でも・・・」
再びアマドを見たがアマドの周りに居た精神病患者たちが倒れているアマドにかぶさるように群がりアマドの姿が見えなくなり地面に血溜まりが広がっていく。
「くそっ」
信二はドアを開けて運転席に乗り込みアクセルを踏んで車を発進させた。
血溜まりが広がっていく精神病患者たちを見ると一瞬隙間からアマドの顔が見えたがその表情は苦しみ歪んで目や口が見開かれ目元は涙で光っているように見えたが、次の瞬間にアマドの顔に精神病患者が噛付き鼻が食べられ血が流れるのが見えたがアマドは微動だにしなかった。
信二は黙って車を走らせて背後を見ると先ほど信二が両目を刺した二メートルくらいある人間のような化け物が立ち上がり両手を振り回して周りにいる精神病患者を次々に殴り飛ばしているのが見えた。
「信二、もうすぐそこだ、車を止めて歩いていこう」
「・・・・あぁ、分かった」
思わず返事が遅れてしまった、ケンジは右腕が使えないみたいだから俺がしっかりしないといけない、深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから目の前にいた精神病患者を弾き飛ばすように轢いた。
すこし車を進めた先にキャシーが母親と一緒に乗っていた青い車があり運転席ではキャシーの母親が引っ張り出そうとした時と同じような体勢でハンドルにもたれかかっているのが見えたが次の瞬間にキャシーの母親が顔を上げ心臓が高鳴った。
(生きているのか?)
思わずブレーキを踏んで車を止めた。
「おい、どうしたんだ!?」
ケンジも言いながら信二の視線の先を見るとキャシーが乗っていた青い車があることに気が付いた。
顔を上げたキャシーの母親を見ると白目を剥いて口を大きく開けながら信二たちを捕まえようとフロントガラスを何度も叩き手が切れたのかフロントガラスが自分の血で真っ赤になった。
(どうやら、噛まれて精神病に感染してしまったみたいだな)
信二は思わず息を飲んだ。
「おい、さっさと行こうぜ、段々集まってきた」
ケンジに言われて周りを見ると確かに精神病患者が車に集まってきていた。
「キャシーに薬を届けるんだろ?」
「あぁ、そうだ」
信二はアクセルを踏み再び車を走らせたが目的地はすぐそこなので一分も走らないうちに止まった。
素早くエンジンを止めて車の外に出ようとすると足に何かが当たり素早く下を見ると後部座席で落としたピッケルが床を滑って足元に移動していたようだ、急いで拾い上げて外に出て周りを見渡すとアマドの家がある建物の前の道路に居た精神病患者が音に反応し車を囲むように近づいてきた。
ドアの閉まる音が聞こえ助手席側のケンジを見るとケンジはやはり右腕をぶらりと下げたまま使える左手でアマドが持っていた鉄パイプを持っていた。
「階段を登って三階まで行くんだ、そこにトウカとキャシーがいる」
「分かった」
返事をしてケンジは鉄パイプを構えたが動かすだけで右手が痛いようで顔がこわばった。
(肩をかしてやりたいがそれよりもやらなければならないことがある)
信二は素早く助手席側に移動してケンジの前に立った。
「行くぞ」
「背中は任せろ」
ケンジの声が聞こえると頷かずにアマドの家に向かって走った。
できるだけ精神病患者を避けて襲ってきそうな精神病患者をピッケルで刺すのではなく思いっきり叩いて怯んだところを胴体を蹴飛ばして遠ざけた、途中振り返りケンジが後ろを付いて来ていることを確認した。
(そういえば何処も鍵は閉めるようにいってあるんだった、俺達が来ていることに気が付いているだろうか?)
一瞬だが建物を見上げて窓辺に誰かいないか確認したが、二階のアマドの喫茶店『ルブラン』の窓辺にはカーテンが引かれ誰かが立っているように見えず、すぐに三階のアマドの自宅を見たが、キャシーと外を眺めていたリビングのカーテンが開いているのが見えたがトウカとキャシーの姿は見えなかった。
(三階に避難して隠れているように言ってあるが、俺たちが帰ってきたことに気が付いていないのだろうか?確か、階段を登るといってあったはずだが気付いてくれるだろうか?)
階段を見ると精神病患者が数人立っているのが見え、キャシーを抱えて精神病患者に追いかけられた時はもっと大勢がいたような気がしたがしばらく経っているので何処かに行ったのだろうか?。
精神病患者を避けながら階段の上り口にたどりつき信二は息を切らせながら後ろを振り返るとケンジが左手に持っていた鉄パイプで近づいてきた精神病患者の頭を殴り血が飛び散るのが見え、信二が見ていることに気が付いたケンジが息を切らせながら頷いたので前を向き階段を駆け上った。
上を見上げると精神病患者が階段の上に立ち信二に気が付いてこちらに振り返ると信二に向かって飛び掛ってきた。
驚いて思わずピッケルを振り回しながら横に避けると精神病患者はそのまま階段を転げ落ちた。
(しまった!!)
振り返ると下にいたケンジも落ちてきた精神病患者に驚いたようで避けた状態で固まっていたがすぐに階段を上り始めたので信二も先に進んだ。
二階の『ルブラン』の出入り口の踊り場には精神病患者が一人いるのが見え、そいつも信二に向かって飛び掛ってこようとしたので信二は精神病患者の後ろ首めがけてピッケルを振り下ろすとうまく突き刺さり階段に倒れそのまま滑り落ちて行く。
ピッケルを素早く抜いて『ルブラン』の扉に飛びついて必死に叩いた。
「俺だ!池田だ!!開けてくれ!トウカ!キャシー!」
取っ手を掴みドアを揺らして開けようとしたがやはり閉まっているようでドアノブが揺れるだけであった。
「どうした?開かないのか?」
追いついたケンジが心配そうに聞いてきた、その顔は苦痛が浮かび汗で光っていた、俺も同じだろう。
「三階にいるみたいだ、肩をかすか?ケンジ?」
「いや、いい、それよりも先に行ってくれ」
「わかった」
返事をしながら階段の下を見ると信二たちを追いかけて階段を登ってくる精神病患者達が見えた。
「行くぞ!」
自分に言い聞かせるようにケンジに言い三階に向かった、階段の途中で伏せた状態で階段に引っ掛かるように倒れている精神病患者がいて信二は避けて上がろうとしたがケンジが怪我をしているので突然動かれても困るので持っているピッケルを倒れている精神病患者の後頭部に振り下ろし突き刺すと骨に突き刺さる手ごたえを感じた瞬間に精神病患者が顔を上げた。
精神病患者は白目を向いてゴボゴボという音と共に口から血を吐き出し始め二、三秒手をバタつかせると顔を階段に落とし動かなくなり血が階段を流れはじめた。
血を踏まないように避けながら階段を駆け上がると三階のアマドの自宅の扉の前に小太りのおばさんの精神病患者が立っていた。
信二はピッケルを握り締めて一気に階段を登りおばさんの頭にピッケルを突き刺そうと振りかざした。
その瞬間に三階の玄関の扉が開きトウカが外の様子を伺うようにゆっくりと隙間から顔を出し信二と目が合ったが玄関の扉が動いた事におばさんの精神病患者も気が付き階段の下の信二ではなく玄関のドアに向かって手を伸ばし進んだ。
「アマドは?」
モトラは精神病患者に気が付いていないようでドアを開けながら聞いてきた。
「ドアを閉めろ!危ない!」
信二は叫び階段を駆け上がりピッケルをおばさんの頭に突き刺そうとしたがおばさんは信二の声に反応し向きを変えて襲ってこようしたのでピッケルはおばさんの胸に突き刺さった。
胸に突き刺さっただけでは致命傷にならないようでピッケルを握っている信二の手を掴もうとしてきたので信二はピッケルを持つ手に力を入れてそのまま押し倒そうとしたがおばさんは倒れることなく後退したので信二は素早くピッケルを抜きおばさんの腹を思いっきり蹴飛ばすとおばさんはよろめいて背後の踊り場の柵に背中を打ちつけた。
今度こそピッケルでおばさんの頭を突き刺しもう一度刺そうとピッケルを素早く抜くと頭から血と白いものを噴出しながら手足をデタラメに動かして暴れ始めどうしてか分からないが階段の柵を掴んで乗り越えて空中に飛び出すと地面にぶつかる鈍い音が聞こえた、たぶん死んでいるので確かめる必要はない。
「池田さん!早く!」
呼ばれて振り返るとトウカがこちらを見て呼んでいたがケンジの姿がない。
「ケンジは?」
「ケンジさんは入りました!早く!」
信二は急いでドアの内側に走りこむとケンジが鉄パイプを構えて玄関のドアを見ていて背後で閉まる音が聞こえ振り返るとトウカが玄関のドアを閉じ鍵をかけてそのまま後ろに下がりドアから距離をとった。
「大丈夫?」
女の子の声が聞こえ前を見るとキャシーが信二とケンジを見ていた。
「俺は大丈夫だがケンジは腕が・・・」
「骨は折れてなさそうだが力を入れたり動かすと痛いな」
鉄パイプを床に置いて背中に背負っているリュックを降ろした。
「この中にキャシーの薬と救急箱に入っているような薬を入れてもらってあるからその中にシップがあったから使わせてもらうよ」
言ってケンジはフローリングの廊下に座り込もうとしたので信二が鉄パイプを持っていた方の肩を持った。
「とりあえずリビングに行こう、キャシーはリュックを持ってくれ」
「わかった」
キャシーが頷いてケンジが置いたリュックを持ちリビングに向かって歩き出したので信二とケンジも後に続いた。
「ねぇ、ちょっと待って!」
モトラが二人を呼び止めた。
(たぶんアマドのことを聞くつもりだろうが、今答えるとトウカが何をするか分からないので言いたくないな・・・)
振り向くのをためらっていると玄関の扉が叩かれる音が聞こえてきた。
「ねぇ、ちょっと池田!」
背後にモトラが近づいてくる足音が聞こえたので仕方なく振り返り言った。
「まずはケンジをリビングに連れて行く、トウカも来るんだ」
「でも、私には今すぐにアマドの事を聞きたいの!」
モトラが叫ぶように信二は言い足を止めたが前にいるキャシーが振り返ってこちらの様子を見ているので言った。
「リビングに行ってくれ」
返事をせずに頷くとリビングの扉を開け入っていくので信二も後に続いてリビング入り畳になっている所にケンジを降ろした。
「すまんな」
「気にするな、キャシー、リュックを」
キャシーがすぐにリュックを差し出したので受け取った。
「サンキュー」
返事をしてリュックを受け取ると床に置きしゃがんでリュックを開けて中身を畳の上に出して並べていくとキャシーとカタカナで名前の書かれた薬局で貰う白い紙袋が出て来た。
「それはキャシーの薬だ、渡してやってくれ」
ケンジは自分でリュックの中身を探り出した。
「キャシー」
呼びかけるとキャシーが近づいてきたので白い紙袋を差し出した。
「キャシーの薬だ」
キャシーが紙袋を受け取り開けて中に入っているものを取り出すと錠剤が三十錠以上入っている袋とキャシーが持っているのとは少し形状の違う吸入器が出てきた、それを見た瞬間にキャシーが安心したように笑うのが見えて信二も微笑んだ。
「サンキュー、信二」
「お礼はケンジに言ってくれ」
微笑みながらキャシーはケンジを見た。
「サンキュー、ケンジ」
キャシーが思わず抱きつこうとするとケンジは避けるように身をのけ反らせた。
「怪我してるからいいよ、それよりもちゃんと無くさずに肌身離さずもってるんだぞ」
言われたキャシーは首をかしげてから信二を見てきた、一瞬どうしてか分からなかったがキャシーが今の日本語がわからなかったようだと言う事に気付いた。
「えっとだな・・・・、なんていえばいいかな・・・、しっかり持っていろよ、ドント フォーゲット でわかったか?」
「うん、なんとなく分かった」
「ならその錠剤の方の薬を飲んでくれ」
「わかった」
キャシーは頷いてキッチンに向かっていくとモトラが信二を睨んでいるのが目に入ったがまずはケンジの右腕の治療が優先だ。
ケンジの方に目を向けるとケンジはリュックの中からシップの入っている袋を取り出していたが片手では中のシップをうまく取り出せないようで苦戦していた。
「手伝うよ」
ケンジが開けようとしていたシップの袋を掴んで中からシップを一枚取り出した。
「その半分でいいな」
「待ってろ」
信二は立ち上がり部屋の中を見渡してハサミが無いか探すとテレビの横のペン立ての中にペンにまぎれてハサミが入っているのが見え、そのハサミでちょうどいい大きさに切りケンジの赤く腫れている右腕に貼った。
「これだけだとすぐに外れそうだな」
ケンジがシップの貼られた右腕を振ると端がめくれた。
「確か白いテープがリュックに入っているはずなんだが・・・」
言いながらケンジがリュックから出したものを見たが無かった。
(リュックの中か?)
リュックを取り中に手を入れて探すと中にはまだ複数何かが入っていてとりあえず手に触れたものを掴んで取り出すと傷薬の軟膏薬だったので畳において信二はリュックをひっくり返して振って中身を一気に出すと包帯や風邪薬や目薬のようなもの、絆創膏などが出てきた。
「そこだ、それを取ってくれ」
ケンジが指差すほうを見ると白い箱が倒れているので取って中身を確認すると探していた白いテープが入っていた。
「それを腕に巻いてくれ、きつく縛りすぎるなよ、血が止まる」
「難しいこというな」
むしろ力を入れたらテープのほうが千切れそうだ、たしか怪我した箇所にガーゼやシップの上からのテープの貼り方か巻き方みたいなのがあるのは覚えているがどう貼るかまでは覚えていなかったので最初は血を止めないように軽く腕を二週させて最後はキツく腕を二週させるのをシップの上下と真ん中の三箇所を止めた。
「これですこし動いてもずれないだろ」
ケンジは確認するように腕を振って動かしたがシップがめくれるようなことは無く問題なさそうだ。
「あぁ、すまないな、でもこういうときは包帯を巻くんじゃないか?」
言いながら床の畳を見るので信二も視線の先を見ると包帯があってそれならちゃんと取れないように結ぶことができる、思わずため息を吐いて苦笑いをした。
「次回は包帯だな」
「あぁ」
ケンジも言わなかったのでお互い様だとは言わなかった。
「そろそろいいかしら?」
トウカの有無を言わせぬ意思を感じる声が聞こえ、信二は気が重くなった。
振り返るとリビングから廊下へ向かう扉の前で立っているトウカが信二を睨みながら近づいてくる。
「アマドは?何処にいるの?ねぇ?無事なんでしょ?」
これ以上ははぐらかせない、信二は立ち上がりトウカの前に立ってしっかりとトウカの顔を見ると目が潤んでいた。
「いいか、落ち着いて聞いてくれ、いい」
最後まで言わないうちに顔を叩かれたが目をそらさずに続けた。
「アマドは亡くなった」
また顔を叩かれて痛みが走ったが更に続けた。
「アマドはここに戻るために車を運転している時に精神病患者がフロントガラスを突き破ったので振り落とすためにブレーキをかけたんだが」
「いや!聞きたくない!!」
モトラが更に信二の頬を叩いて続けた。
「私と約束したじゃない!必ず連れて帰ってくるって!!」
叫びながら何度も信二の頬を叩いて一発が鼻に当たった、避けることもモトラを止めることも出来るが信二もどうしていいか分からずに叩かれ続けているとキャシーがトウカに抱きついた。
「トウカ、もうやめて・・・」
キャシーの震える声が聞こえるとトウカは叩くのをやめてキャシーを抱きしめ声を出して泣き始めると今まで泣かなかったキャシーも一緒に泣き始めて部屋中に二人の泣き声が響いた。
信二は鼻水が垂れそうになり手で拭うと血が付いた、どうやら鼻血が出ているようで近くのテーブルの上のティッシュをちぎって丸めて鼻に入れた、二人の泣いている声と姿を見ているとこちらも泣いてしまいそうになる、ケンジを見ると二人に何か言いたそうに見ていたがあきらめて窓の外を見ていたので信二も窓に近づいて外の道路を見ると信二たちが乗ってきたプリウスが見えた。
よく見るとフロント部分がボコボコに凹んでいてライトやサイドミラーが壊れて血が付いていてたくさんの精神病患者を轢いてここまで来たことを思い出した。
(山のような無数の人間の手足が生えていて他の精神病患者を食べていた?ような化け物と二メートルくらいある顔と肩が一体化しているような化け物がいたが一体なんなのだろうか?)
ケンジに相談しようか迷ったが背後では二人の泣き声が聞こえるのでやめて黙って外の様子を見ていた。
あれから二日たった、アマドの家の建物に戻ってきた時は建物の周りを大勢の精神病患者がさまよっていたが今はほとんどいなくなっていた。
泣いていた二人は声を出して泣いていると精神病患者が集まってくると気が付いたのかいつの間にかアマドの寝室に移動して泣いていたが泣き疲れたのか夜になる頃には泣き声は聞こえなくなった。
ケンジはアマドが死んだことにトウカが深刻なショックを受けているのを不思議に思いどうしてか分かるか?と聞いてきたので伝えていなかったアマドとトウカが付き合っていた事を話すと悲しい顔をしたがその後なにかを考えるような顔をしてそれ以上は何も聞かなかった。
信二とケンジは戻る途中で見たあの二体の化け物のことについて話し合ったが、トウカとキャシーに話しても今は混乱を招くだけなので状況を見て話すという結論になった。
ケンジの腕も帰ってきたその日の夜には腫れて熱も出て苦しそうに呻っていたが、持って帰ってきた薬の中に痛み止めがあったので飲んで一晩したら翌日には熱は下がり、今腕は動かすと少し痛むが腫れも引いて見た目は普段と変わらなくなった。
キャシーは薬を飲んでいるので発作は起こさなくなったがアマドが死んだ事は自分にも責任があると思っているのか落ち込んでいる様子で食事を取る時もあまりしゃべらなくなってしまった、問題のトウカは寝室に篭って以来出てくることは無く心配したケンジが様子を見に行くと中から返事があったので交代で信二がトウカが寝室にいるか確認しに行くが、口をきくつもりがないようで返事をしないのでドアを開けて中に入りトウカがいることを確認しようとすると枕や本が飛んできて中に入ることが出来なかった、仕方なく信二の代わりにキャシーがトウカがいるか確認してくることになった、食事の時はキャシーに手を引かれてリビングに出てくるが信二とは挨拶も視線も交わそうとせず、キャシーとケンジとは会話をした、どうやら完全に嫌われてしまったようだ。
確かに約束を守れなかった俺が悪いんだ、トウカに嫌われてもしかたがない、ゲームの主人公ならここでうまく立ち回るんだろうがそんなことは出来そうにない、ここで助けが来るのを待つだけだ。
車やヘリコプターが通った時にこの建物に人がいると知らせるために屋上で煙を出せるように燃えるものを用意しビニール袋の中につめて二階から三階に上がるための避難梯子を取り外してすぐに屋上に出れるようにベランダに設置して四人は窓やベランダで外を見て救助が来るのをひたすら待った。
そして三日目の朝が来た。
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