第11話 灰色の化け物

信二が頭の痛みでふらつきながらも慌てて立ち上がり逃げたが二メートルの灰色の化け物が素早く動く気配がしてまた足が掴まれたと思った瞬間に視界が反転して頭を床にぶつけた。

床に両手を付いて掴まれた脚を見ると灰色の化け物の手がしっかりと信二の足を掴んでいるのが見えた。

(クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、もうすぐで助かる直前だったのに!!ここでおしまいか!!)

涙が出そうになるが逆さになっているのでうまく流れない。

「信二!!」

「信二!!」

ケンジとキャシーが呼ぶ声が聞こえそちらを見るとキャシーはアメリカ兵の後ろにいるケンジがしっかりと捕まえているのが見えた。

「ケンジ!キャシー!逃げろ!!ケンジ!頼んだぞ!!」

信二の叫び声が聞こえたようでケンジはしっかりと信二を見て頷くとキャシーを抵抗されてもいいように強引に抱きしめてベランダに向かっていくのが見えた。

「フリーズ!ハンズ オフ!!」

先頭にいる白人のアメリカ兵が叫ぶのが見えた。

(この化け物は英語が分かるのか?)

思わず化け物の顔なのか分からないが頭を見ると胸の部分から何か灰色の管のようなものが出てタカハシの首に一周巻きついたと思うと管の先がタカハシの首に突き刺さり血が少し流れ出るのが見え信二はああなってはたまらないと掴まれていない足で掴んでいる化け物の手を思いっきり蹴飛ばした。

「暴れるんじゃない」

タカハシが話すのが聞こえたが信二は言うことを聞かずに手を蹴り続けた。

アサルトライフルを持っている白人のアメリカ兵がタカハシが何か話し始めたのでどうするか迷っているようで背後のロケットランチャーを持っている兵士が無線機で何処かに話しているとタカハシの声が聞こえた。

「お前達は大人しく我々の食料になればいい、抵抗すればその分苦しむだけだ、今なら楽に殺してやる」

(タカハシの野郎、頭がおかしくなったのか?)

思わず隣のタカハシを見上げると白目を剥きながら全身を細かく痙攣させ手に持っていた散弾銃を床に落としていた、手を伸ばせば届きそうで思わず手を伸ばして取ろうとするとその手の上にタカハシの血が落ちてきた。

「さっきからこちらに向かって何かを飛ばしてくる奴等も大人しくしろ、抵抗しても何も変わらない、お前達は食料になるだけだ」

(もしかしてこの灰色の化け物がしゃべってるのか?)

信二は恐る恐る化け物に向かって言った。

「そいつがしゃべっている言葉と向こうにいる奴等は話している言葉が違うんだ、英語で話さなければ伝わらないぞ!」

信二はタカハシの顔と灰色の化け物の顔を見たが灰色の化け物の顔がゆっくりと動き信二を見た。

(どうやら話しているのは化け物みたいだ)

「どういうことだ?お前ら同じ生物じゃないのか?姿や形は一緒じゃないか?」

タカハシの口が開き声が聞こえたが話しているのは灰色の化け物だ。

「国によって使う言葉が違うんだ、俺とそいつが話しているのが日本語であいつらは英語だ」

逆さになっているため頭に血が上り苦しくなってきた。

「馬鹿な生き物だ、同じ生物で使う言葉が違うなんて」

するとアメリカ兵が叫んだ。

「ワット アー ユー トウキング!?」

信二はアメリカ兵のほうを見たが英語がうまく話せないのでなんて言えばいいか一瞬考えてから言った。

「ザ モンスター スピーク ジャパニーズ ユウズ ザ ヒューマン」

すると何言ってるんだ?という白人の兵士の呆れたような顔が逆さまになっていても分かったので簡潔にもう一度いった。

「モンスター トーキング ミイー」

アホみたいな英語は伝わったようで白人のアメリカ兵が何か独り言を呟いて後ろにいるロケットランチャーを構えた兵士に向かって話すとまた無線機を使い話しているのが見えた。

「まあいい、あいつを殺して食べればその英語も理解できるだろう」

タカハシの口を解して灰色の化け物が独り言を言うとタカハシの首に刺さっている管が抜けるのと同時に大量の血が首から吹き出し信二にかかった。

それを見たアメリカ兵が発砲を始めると灰色の化け物が持っているタカハシの身体に銃弾が当たる嫌な音が聞こえるとタカハシからか円柱の小さい弾が床に落ちた、その形状から信二は散弾銃の弾だと思いタカハシの血が滴り落ちてくる中、その円柱状の物を掴み右手に持ち替えてから左手で勢いをつけて散弾銃の銃口を掴んだ。

散弾銃を引き寄せて何とか持ち引き金近くのタカハシが押していたレバーを押すと散弾銃が折れ銃身が顔に当たり中に入っていた空になった薬莢が落ちていくのが見え、右手に持っていた血まみれの円柱状の弾を自分の服で拭くとやはり散弾銃の弾で急いで散弾銃の空のケースが入っていた所に入れて折れしていたのを元に戻すとカチッという音がした。

信二はすぐに自分の足を掴んでいる灰色の化け物の腕に散弾銃を向けたが信二の事など気にしていないのか見向きもしていない、だがアメリカ兵の銃弾の盾に使われる可能性がある、逃げるために掴まれている腕を狙い散弾銃を両手で構えようとしたが腕を狙うと体が回転してうまく狙うことが出来ないので右手を床につき散弾銃を左手の片手で持ち化け物の腕を狙うと自分の腕がプルプルと震えてしまい弾を撃った反動に耐えれそうにないが仕方がないし死ぬよりましだと覚悟を決めるとすぐに引き金を引いた。

発砲音と同時に散弾銃が左手から何処かに飛んでいくと信二を足を掴んでいた手から足が抜け床に頭をぶつけてから身体を床に打ち付けた。

頭や背中それに左手も指の骨が折れたのか酷い痛みを感じるがすぐに立ち上がりアメリカ兵達のいる方に向かって走った。

アメリカ兵は射線上でジャマになるのか信二に向かって手で横に移動するように示してきたので横に移動しながら向かうと何かが背中にぶつかりそのままアメリカ兵の足元に転びながらたどり着くとアサルトライフルを持った兵士が信二の頭を押さえつけた。

「ファイア!ナウ!」

怒鳴り声が聞こえると何かミサイルのようなものが発射される爆音と爆風を同時に感じた瞬間に頭の中が掻き混ぜられたように混乱して何も考えられなくなり自分が仰向けに倒れているのか伏せているのかすらわからなくなった。

一秒なのか十秒以上経っているのか分からないが感覚が戻って来ると床に伏せていた信二が身体を起こそうとすると誰かが信二の肩を掴み起きるのを手伝ってくれた、手伝ってくれた人を見ると先ほどアサルトライフルを撃っていた白人のアメリカ兵が汗で顔を光らせながら言った。

「ヘイ ヘイ メン アユー オッケー?」

返事をせずに信二は二メートルの灰色の化け物がいた方を見ると灰色の化け物は窓や壁ごと吹っ飛んで五メートルくらいの大きな穴が開きその前には胴から下が引きちぎれた灰色の化け物が千切れた箇所から赤い血を垂れ流しながら痙攣しているのが見えた。

「ヘイ メン?アユー オッケー?」

言いながら目の前を手袋をはめた手が差し出されたので信二は白人のアメリカ兵を見て手を右手で掴んだ。

「・・・オッケー オッケー サンキュウ ベリーマッチ」

身体や頭はまだ痛むがあの灰色の化け物から逃げれたんだ、そう思いながら立ち上がると目の前にタカハシが口や目が開ききった状態で倒れているのが見えた、逃げるときに背中に投げつけられたのはタカハシだったようだ、信二がタカハシの死体を見ている事に気が付いた白人のアメリカ兵が信二の隣に来て頭を振った。

「ヒー イズ デッ」

言いながら信二の肩を叩いた、タカハシが友達で落ち込んでいると思ったのだろうが違うのであまりに気にしなかったが信二の隣を抜けてもう一人のロケットランチャーのようなものを撃った白人のアメリカ兵が窓辺に向かいハイエースの上から飛んできてタカハシにぶつかり倒れている兵士の前で跪き胸の前で十字を切り倒れている兵士の首から何かを取るのが見えた、たぶん認識票のドッグタグでも取ったのだろう、倒れている兵士を見るとロケットランチャーを撃った時に損傷したのか右足が無くなり床にコンクリートの破片が混ざった血が広がっていく。

(タカハシにぶつかって倒れている状態では生きているか死んでいるか分からなかったがロケットランチャーを撃てば確実に巻き込んで殺してしまうと分かっていてあの兵士は撃ったのか・・・・)

ロケットランチャーを撃った兵士はなんともいえない悲しそうな顔をして祈り続けた。

「ケビン ゲット バック トゥ ×××」

「オーケー」

ケビンと呼ばれた兵士が祈るのを止めて立ち上がると信二を一目見てから隣にいる兵士に向かって頷き隣にいる兵士がもう一度肩を叩いていった。

「ヘイ ジャパニーズ フォロー ミィー」

「オッケー」

頷きながら答えると隣にいた兵士がベランダに向かって歩き出した。

(そういえばこいつらケンジといたがどこから来たんだ?)

ベランダの外に出ると二階から三階は避難梯子が掛かっていて三階から屋根までは兵士が持ってきたのかカーキ色の縄梯子が垂れ下がり風で壁にぶつかり音を立てていた。

前を行く白人の兵士が振り返り信二を見て何かを言ったが百メートルくらい離れた位置を飛んでいるヘリの爆音で聞き取れずにいると先に登れと手で示したので頷いた。

信二は避難梯子を掴んで登ろうとステップを踏むと左手に鈍い痛みが走った。

「ツッ」

思わず変な声が出て痛みの走った左手を見ると散弾銃の引き金を引いた人差し指が横の方向に曲がり膨れ上がっていて爪も剥がれかけ爪の間から血が溢れていた。

骨が折れているかも知れないので出来るだけ左手をぶつけないようにしながら避難梯子を慎重に登って三階のベランダに出ると屋根に上るための縄梯子が風で揺れているのが見えた、怪我をしている左手の人差し指を当てないように両手で掴んで片足を一番低い位置のステップに乗せるとすぐに縄がたわみのけぞった。

(これは指が当たるな・・・・)

相当な激痛だろうが振り返ると信二に先に上るように示した兵士がすでに背後にいて下に続く避難梯子を見るともう一人のケビンと呼ばれていた白人の兵士が梯子を上ってくるヘルメットが見えた。

「ジャパニーズ ゴー ゴー」

後ろにいる白人の兵士が登るように急かしてきた、縄梯子を掴んだまま腫れて血が出ている左手の人差し指を縄に触れさせないように出来るだけ反らせると信二は覚悟を決め深呼吸をしてから息を止めて縄梯子の二段目のステップに足をかけて登りはじめた。

三、四、五個目のステップをうまく登りもうすぐ屋根の上に出ようとするとヘリが接近して来て頭上を通り過ぎると信二をダウンフォースの風が襲い揺れる縄梯子にしがみ付くとバランスを崩して左手の人差し指を壁にぶつけ指先から頭にかけて激痛が思わず右手を放して指を押さえそうになり右手で全力で縄を握り締めて痛みと衝動に耐えた。

風が収まるまで必死に耐えているとケツを下から叩かれた。

「ジャパニーズ ゴゥ アップ! ゴゥ アップ! ハリー!」

二階のベランダのアメリカ兵たちのヘルメットの下から見える目が信二を睨んでいた。

ヘリは信二たちがいる建物の屋根の上でホバリングをはじめると先端に何かが取り付けられたロープが一本素早く垂らされた、どうやらあのロープを使って救助してくれるみたいだが、ヘリがそこにいる限り風が止むことはないだろう。

信二は大きく息を吸い込んで歯を食いしばり壁やロープに左手の人差し指にぶつけると走る激痛に耐えながら屋根の上に何とか上がりケンジとキャシー、それにトウカがいると思って姿を探したが屋根にはいなかった。

三十メートルくらい頭上を飛ぶヘリを見たが信二が登ってきた間に三人がヘリに入ったということは無いだろう。

(まさかまだ三階にケンジ達がいるんじゃないか?)

信二は振り返り縄梯子を降りようとすると登ってきた白人のアメリカ兵が信二を不思議そうに見たので尋ねた。

「ウェア マイ フレンド?」

信二は『俺の友達はどこだ?』といったつもりだが伝わっていないようで白人のアメリカ兵は不思議そうな顔をしたのでもう一度いった。

「マイ フレンド ウェア? マン ウーマン ガール」

それぞれの身長を手でジェスチャーしながら言っているとケビンと呼ばれていた白人のアメリカ兵が縄梯子を登ってきて不思議そうな顔をしながらもう一人の白人の兵士に尋ねた。

「マイク ワッ ハップン?」

マイクと呼ばれた白人の兵士がケビンに振り返った。

「×××××× ××××××」

信二が聞き取れない流暢な英語を話し始めるとケビンが何か合図を打つのが聞こえたが大人しくここで待っていてケンジが置いてかれては困るので信二は素早くマイクとケビンの隣を抜けて縄梯子を降りようとした。

「ストップ! ストップ! ジャパニーズ!」

マイクが言いながら信二の前に出てきた。

「助けてもらったのは感謝してるが、ケンジ達が三階にいるかもしれないんだ、様子を見てきても良いだろ?」

英語が出来ないので思わず信二が日本語で言ってしまうとケビンが驚いたような顔をした。

「ウェイト ジャパニーズ ユウ トーク フレンズ」

言いながらケビンが肩につけている無線機に何か英語を話しかけるとすぐに返事が返って来ると肩の無線機を外して信二に渡してきたので右手で受け取り無線機の上のボタンを押しながら何かしゃべれとジェスチャーされたのでボタンを押して話しかけた。

「ハロー?」

「っぷ、なんでハローなの?」

無線機を通しているので声の質が微妙に変わってるがその声は聞いたことのある高い子供の声だ。

「キャシーか?」

「イェス そうだよ」

「何処にいるんだ?ケンジやトウカも一緒なのか!?」

信二はヘリの音に負けないように叫んだ。

「みんなヘリに乗っているよ」

キャシーの返事で信二は思わず頭上でホバリングしているヘリを見るとヘリの横っ腹のロープが垂れているスライドドアの開いた所にいるパイロットが被るフルフェイスのヘルメットを被った兵士が身を乗り出してこちらを見てケビンとマイクに手招きをして早く乗るように促していた。

「ヘリって今建物の上にいる奴か?」

「イェス そうだよ、私とケンジが屋根に逃げるとアーミーが一人づつヘリにロープで運んでくれたんだよ、そして信二達が来るのを待ってたら爆発音がして一旦離れて避難したんだけど信二たちがベランダにいるのが見えたから助けに来たんだよ」

「そうか・・・、わかった」

信二はケンジやキャシーそれにトウカがヘリに乗っていると聞いてホッとするとキャシーの声が続いて聞こえた。

「だから安心してそのアーミーの言うことを聞いてヘリに乗ってね、英語と日本語が出来る人が私以外いないからこうして無線機で信二と話しているのよ」

「そうか、ありがとう」

「どういたしまして、それと無線機を兵隊さんに返して、信二が状況を理解したことを伝えるから」

「わかった」

無線機をケビンに向けて差し出すとすぐに受け取って無線機に英語を話すとキャシーの声で流暢な英語が無線機から聞こえてきた。

(元々英語が母国語のようだから当たり前か・・・・)

すると背後からマイクが肩を叩いてロープを指差したので頷くとマイクがロープの先に付けられているハーネスを持ち信二に取り付けはじめた。

ハーネスに腕をくぐらせる時にハーネスが信二の左手に触れあまりの痛さに身体をビクッとさせてしまた。

「ワット?」

何が起こったのか聞いてきたようなので信二は自分の左手の人差し指が変な風に曲がり腫れて爪の間から血が出ているのを見せると嫌そうな顔をしたが頷いてハーネスを信二に取り付ける作業を進め、ハーネスとロープを結びつけているカラビナが取れないかしっかりと引っ張り確認をして信二を見た。

「オーケー セーフティ」

「センキュウ」

つたない英語で感謝するとマイクが笑った、今まで気にしていなかったがマイクは信二と同じ年か少し若いくらいの青年といった感じの青い瞳がゴーグルの奥に見え、身長は信二よりも高かった。

ケビンはどんな感じだったかなと思いケビンを見るとケビンはマイクに英語で話しかけながら近づいてきたが、下の三階から何か物が倒れるような音が聞こえ足を止めた。

「××××××」

「×××××」

ケビンがマイクに何かを言うと縄梯子の所に戻っていった、信二は右手でヘリから吊るされているロープを引っ張り落ちないでしっかり固定されている事を確認すると隣にいたマイクも頷いてヘリの横腹から身を乗り出してこっちを見てる兵士に合図を送ろうと右手を挙げた。

「ラン!!」

叫ぶ声が聞こえ信二とマイクは驚いてケビンを見るとケビンは三階のベランダに向けてアサルトライフルを構えたのが見えた瞬間に連続した発砲音が聞こえ、慌ててマイクがアサルトライフルを構えながら近づこうとするとケビンが発砲しながら逃げるため後退をはじめると屋根の下から手が伸びケビンの右足を掴んだ。

「マイク! ヘルプ!」

ケビンが信二たちを振り返って見ると屋根の下から今度は灰色の手が伸びてケビンの足を掴むとケビンの身体が一瞬宙を舞うとすぐに屋根に叩き付けられ鈍い音がした。

「ケビン!!」

マイクが倒れたケビンに駆け寄って行くので信二は早く救出してくれと思い頭上を飛ぶヘリを見てこちらを見ている兵士に手を振ったがピクリとも動かなかった。

「早く上げてくれ!おい!頼むから上げてくれ!」

マイクの向かった方からはケビンが屋根に叩きつけられる鈍い音が聞こえ見たくは無いがマイクがヘリの兵士に合図をしなければ引き上げてもらえないのでマイクがいる方を見ると思わず吐き気がした。

屋根に何度も叩き付けられたケビンの頭は割れて屋根に叩き付けられるたびに赤い血と白いゼリーのようなものが撒き散らされマイクはアサルトライフルをケビンの足を掴んでいる灰色の手に向かって発砲を続けるがケビンを屋根に叩き付ける手は止まるどころか早くなっていく。

「マイク!!こっちに来るんだ!!逃げんだよ!!」

信二は日本語で叫び手招きをすると一瞬マイクがこちらを向いたが発砲が止むと素早く胸ポケットから新しいマガジンを取り出しアサルトライフルについている空になったマガジンと交換して空のマガジンを胸ポケットに入れるとアサルトライフルの上部を操作してすぐに撃ち始めた。

「マイク!!逃げるぞ!!こっちに来い!!」

日本語で叫びながらロープを掴んでいる信二がマイクに近づこうとすると屋根にたたきつけられているケビンが持っていたアサルトライフルが飛んできて足元に落ちたため信二は足を止めて拾ったが左手がうまく使えない状態では狙いをつけて撃つことが難しそうだ。

「ジャパニーズ!!」

呼ばれてマイクを見るとマイクは胸ポケットから手榴弾を取り出しピンを抜いてから投げると空中でレバーが外れ三階のベランダに落ちて行くのが見え、マイクはすぐに信二に向かって走ってくると自分が着ているボディアーマーの上に付いているハーネスのカラビナを信二が着ているハーネスのロープの結び目に強引につけると手榴弾が落ちたベランダから白煙と共に体の芯を揺さぶるような衝撃と轟音で屋根が揺れて一瞬よろめいたがマイクは急いで自分のハーネスのカラビナとロープがしっかり固定されていることを確認してヘリを見上げて手を振って叫んだ。

「×××××× アップ!!」

アップという言葉が聞こえこれで助かると思いため息を付きそうになったが身体を密着させているマイクから発砲音が聞こえ、驚きながら発砲した先を見ると三階のベランダから人が上ってくるのが見えた。

「タカハシ!?」

一瞬タカハシに見えたが銃弾や先ほどの手榴弾で顔や腹など全身がズタズタで出血していて誰か分からなかった、だがその人の背中には灰色の化け物が取り付きタカハシの首に刺した管が大量にタカハシらしき人に刺さっていた、どうやら千切れた二メートルの灰色の化け物の上半身が人間を操っているようだ、マイクが撃った銃弾がタカハシの体に刺さり体が揺れたが動きを一切止めずに屋根に上がってきた。

「お・・・ち、ゆる・・・ん」

ズタズタになり操られているタカハシからなにか声が聞こえると灰色の化け物に寄生されている?タカハシが掴んでいるケビンを枝を投げるように信二たちに向けて投げた。

信二とマイクはすぐに避けようとしたがお互いがカラビナで結びついているためにうまく動くことが出来ずに投げられたケビンに当たり二人とも潰される様に屋根に倒れ、左手の人差し指が何かにぶつかり激痛が走るのと同時に右手に持っていたアサルトライフルの上に何かドロッとした液体が手に掛かる感覚がして意識が遠くなり景色が滲んでいく。

「・・・・・」

肩を叩かれぼやけた視界と意識がはっきりしてきた。

「ジャパニーズ!アー ユー オッケー?」

「オッケー」

オーケーではないがオーケーと返事をしながら灰色の化け物の方を見ると何か言葉にならない声を発生しながら近づいてくる、マイクが発砲を始めたので信二は上に乗っているケビンをアサルトライフルを持っている右手でどかした。

なにか変な音が聞こえるといきなり身体を引っ張られる感覚がして思わず持ってアサルトライフルの引き金を引いてしまい屋根に穴が開くのと同時に引っ張られた身体が一気に宙に浮かび上に乗っていたケビンの体が屋根に落ち遠ざかっていく。

ロープを巻き上げてくれているのかヘリが高度を上げているのか分からないがこれで助かる、ハーネスで吊り上げられているため着ている所が引っ張られキツイし隣にいるマイクに風で体が揺れて左手が当たり痛むが今は屋根の上の灰色の化け物から遠ざかれるだけで十二分だ。

隣のマイクも発砲を止めて下を見ていたので視線の先を見ると灰色の化け物がこちらを見上げていたと思うとこちらに向かって走り出した。

信二は驚き隣のマイクを見るとマイクは冷静にアサルトライフルを構えてよく狙っているのかいないのかわからないが発砲をはじめた、信二も持っているアサルトライフルを構えて発砲しようとしたが左手のことを思い出し右手も同じようになるのではないかと躊躇して引き金を引けずにいると灰色の化け物が屋根の端まで来ると信二たちに向かって大きく踏ん張ってジャンプした。

通常の人間なら信二たちは十メートル上を飛んでいるので届かないはずだがタカハシの身体に寄生している灰色の化け物で力が増していようであっという間に信二たちを掴める高さまで飛んできたので信二は思わず両足を掴まれないように上げるとバランスを崩して左手をマイクの背中にぶつけ全身に痛みが走って身体を硬直させた。

灰色の化け物に寄生されているタカハシが信二の足を掴もうと手を伸ばしてきたが信二が足を上げていたのでつかめずにそのまま落ちていこうとすると灰色の腕が伸び信二の足を掴もうとしたので信二は精一杯両足をつかまれないように抱え上げたが灰色の手は信二の足ではなく隣のアサルトライフルを持っているマイクの足を掴んだ。

「ファック オフ!!」

驚いたマイクが叫びながら足を振り回しアサルトライフルを足を掴んでいる灰色の化け物に発砲しているが効いているようには見えず、灰色の化け物に寄生されているタカハシが信二の足を掴みそのままズタズタで血まみれになっている顔を近づけ噛み付こうとするので信二は右手に持っているアサルトライフルの銃口でタカハシの顔を殴ったがいっこうにに怯むこと無くズタズタになっている顔に銃口が当たるたびに顔に銃口がめり込むやわらかい感覚と共に銃口に血が付いた。

助けを求め隣にいるマイクを見たが、マイクは灰色の化け物に掴まれた足をどうにかしようと精一杯でタカハシは自分でどうにかしなければならない。

アサルトライフルの銃口はタカハシのズタズタになった顔にめり込んで顔の骨で止まっているような感覚が手に伝わってきた、信二はすぐに決断しアサルトライフルの銃床を肩に当て引き金を引くと肩を蹴られるような感覚と共に発砲音が伝わってくる。

タカハシの顔の銃口付近は血が飛び散っていたがまだ信二の足を掴んでいる手には力があった、信二はアサルトライフルの引き金を何度も何度も引くとタカハシの顔に穴が開き反対側にいる灰色の化け物の体が見えると信二の足を掴んでいる手の力が無くなったので掴まれていない方の足でタカハシの手を蹴り飛ばすと力なくはずれタカハシは両手をぶら下げたまま動かなくなった。

だが、隣の灰色の化け物に足を掴まれたマイクはうなり声を上げながらアサルトライフルの空になったマガジンを入れ替えようとすると何か鈍い音が聞こえマイクが叫び声を上げた。

灰色の化け物がもう片方の手でマイクの持っているアサルトライフルを掴み強引に奪い取りマイクの指が変な方向を向き骨が折れる嫌な音が聞こえ、マイクはあまりの痛みで気を失い頭がだらりと下を向いて表情が分からなかった。

慌てて信二が灰色の化け物を見ると化け物はマイクから奪ったアサルトライフルを投げ捨て、空いたその手で信二の足を掴もうとしてきたので信二が慌てて足を引っ込めて避けたがすぐに捕まってしまいそうだ。

「マイク!!起きろ!!マイク!!」

怪我をしている左手で痛みを我慢してマイクを叩くが起きる気配も無く怪我の激痛で思わず視界が揺らいだ。

灰色の化け物はタカハシの体に突き刺していた管を次々と抜くと管がマイクの足を伝って首に向かっていくのが見えるとマイクが意識を取り戻し足を伝ってくる管に気が付き叫び声を上げながら腰から拳銃を取り出して灰色の化け物に発砲した。

管が抜けて身体を支えるものがなくなったタカハシの体が地面に向かって落下していくとタカハシの身体に取り付いていた部分から灰色の化け物の内臓のような真っ赤な内部が見えた。

(あそこなら銃弾が効くかも知れない)

マイクの叫び声が聞こえ隣を見るとマイクの青い迷彩服の上から身体に管が次々と突き刺さりマイクは全身を突っ張らせて痙攣を始め口から泡を吹き始めた。

信二はマイクの腕から拳銃を奪い取り右手で拳銃を構え、灰色の化け物の内臓めがけて引き金を引いて発砲したが灰色の化け物はマイクの身体を両手を使ってよじ登ってきたため千切れた箇所の内臓は見えずに灰色の化け物の表面に当たったが怯みもしなかった。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

泡を吹くマイクから叫び声が聞こえ、信二は何か使えるものが無いか慌ててマイクのボディアーマーのポケットを探すとナイフと拳銃のマガジン、手榴弾を見つけ拳銃のマガジンを取ろうとすると先ほどまで叫び声を上げていたマイクがいきなりこちらを見たが、両目が白目を剥いていた。

「お前をゆるさない」

日本語でマイクがはっきり話すのが聞こえ、驚いた一瞬の隙にマイクの手が信二の首を捕らえ一気に締め上げてきた。

痛む左手と拳銃を持つ右手で何とか引き剥がそうとしたが力が強くて剥がせそうに無い。

嫌だが信二は拳銃の銃口をマイクの手首に押し当て引き金を引くと拳銃の反動がマイクの手を通して首に伝わり首を絞める力が弱くなったのでそのまま手を払うとマイクが大きな口を開き噛み付いてこようとした。

信二は思わず拳銃をマイクの顔めがけ引き金を引くとマイクの目じりに穴が開き後頭部から出た血が取り付いている灰色の化け物に掛かり血に染まりながらマイクの腰にしがみついている。

(くそっ)

信二は拳銃を握りながらナイフを取ろうとしたが手が滑り拳銃が地上に落下して行った、だがそのままナイフを取るとマイクごと灰色の化け物を切り離そうとボディーアーマーのハーネスのカラビナが付いている布をナイフで切ろうとしたが互いの体が空中で揺れているためうまく切ることが出来ない。

「クソッ」

先ほどから何度も周りにぶつけた左手の人差し指は段々と感覚がなくなってきたが最後の力を振り絞りマイクの身体を押さえて一気にカラビナについてる布を切り離すと目の前のマイクが視界から消えた。

(これで助かる!!)

その瞬間に何かが信二の上着の裾と左手を掴みハーネスが肩や腹に食い込んで思わず息を吐いた。

痛みに耐えながら下を見るとまだそこにはマイクの死体がった、手は信二が拳銃で撃ち抜いてるのでだらりとぶら下がっていたがそのマイクの死体の後ろから伸びる灰色の腕が信二を掴んでいた。

「クソッ!!いい加減にしろ!!」

右手に持つナイフで上着の裾を掴んでいる灰色の化け物の腕に突き刺したが硬いゴムのような物に突き刺しているような感覚で何度も刺してみたがナイフが深く刺さらず表面の肌を傷付けているだけで効果はあまり無い。

思わず信二を吊るしているヘリを仰ぎ見てから下にいる灰色の化け物を見た、このままじゃあのヘリに乗ってるケンジ達も危険にさらしてしまうかもしれない、ナイフを握り締め信二がつけているハーネスに取り付けてあるロープをナイフで切断しようと刃を当てるとマイクの体の下から管が伸び信二のナイフに絡み付くと強い力を手首に感じナイフを奪われて空中に投げ捨てられた。

すぐに自分がつけているハーネスを外そうとしたが身体に食い込んで右腕一本しか使えない状態では厳しい。

下にあるマイクの死体を見て何か使えるものが無いか見たが仰向けのマイクのボディアーマーの胸のポケットに手榴弾があることを思い出した。

人の体が手榴弾の爆発を防げるなんて事を聞いたことがあるが本当だろうか?助かるためにはマイクの身体を盾にして手榴弾を爆発させるしかなさそうだ。

「クソッ」

信二から見えるマイクは背中をむいているため化け物がいるほうに手を回さなければ取ることが出来ないがためらっている時間がない、一気に手を伸ばしマイクの肩の上から手を通してボディアーマーの前をまさぐって手榴弾を探して掴むとポケットに入っていたが何とか取り出した。

目の前に持ってきて手榴弾を見たが、昔見た映画のようなパイナップルみたいな手榴弾ではなく大きな電池みたいな手の平サイズの円柱の形をしていた。

これを投げているマイクを見たが、確か上部のピンを抜いてからレバーを取って投げていた、確か爆発までは五秒くらいだった気がする。

下を見ると灰色の化け物はタカハシやマイクに突き刺していた管を信二にも突き刺そうと伸ばしてきた。

「俺は死にたくない!!死なない!!お前が死ね!!」

信二は大声で叫ぶと近づいてくる管を足で蹴飛ばしながら手榴弾のピンを口で咥えて抜きレバーを握っていると手に付いて血で滑りレバーが手の平から飛んで左手を掴んでいる灰色の化け物の腕に当たった。

慌てて手榴弾をマイクの死体と灰色の化け物の間に入れるためマイクのボディアーマーの元あった場所のポケットに突っ込んですぐに手を引っ込めた。

灰色の化け物の管が伸びてきて手や足で払っていると爆発音と爆風を感じ足に痛みを感じるとマイクの死体が爆風で浮かび上がりマイクの血が出ている後頭部が迫ってくるのがスローモーションで見え避けようとしたが体の動きもゆっくりのため避けることが出来ない、目を閉じようとしたがそれよりも早くマイクの後頭部が信二の顔面に当たり目の前が真っ暗になり意識が遠くなった。




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