インフェクテッド・ゾーン
@idarimaki
第1話 始まり
うるさい目覚ましのベルが耳元で鳴り、音のするほうに手を伸ばし鳴っているスマホを探って掴み音を止めて目の前に持ってくると画面を見るため張り付いた瞼を開けると目の前がぼやけて見えた。
瞼を数回擦ってから再度スマホを見ると画面に表示されている時間はもう午前6時を過ぎてそろそろ布団から出なければ会社に間に合わない。
だがため息をついてもう一度目を閉じると起きる気力がなくなり睡魔に飲み込まれるとスマホのアラームが再び鳴った。
今度こそ起きなければ会社に間に合う電車に乗れなくなるかも知れない、そう思ってやっと布団からTシャツとトランクスの姿で立ち上がった。
池田信二は飲み残しの2リットルのお茶の入ったペットボトルを一口飲むと身体の中にぬるいお茶が流れていく感覚がした。
なんとなくテレビをつけるとニュース番組の女子アナが深刻そうな顔でニュースを伝えていた。
『今朝、国外で爆発的な勢いで大量発生している謎の精神病の患者が国内で始めて確認されました・・・・』
まだ女子アナが話しているが洗面台に移動して取り付けられている小さい鏡で自分の顔を見るために背中を曲げた、身長が170センチくらいで高いわけではないがワンルームのアパートの備え付けの鏡が低い位置にあったので腰を曲げてかがまなければ自分の顔を見ることが出来なかった。
自分の顔を見ると大学生の時は趣味で登山というほど立派ではないが望遠鏡を担いで山に登って星を見たり釣りなどをしていたが卒業してからは全然運動をしていないので昔よりも自分の顔に脂が乗り柔らかそうに見えた。
顔を洗い歯磨きをして下着を着替え、壁の金具に吊るしてあるスーツを着てネクタイもつけた。
社会人に成り立ての頃はネクタイだってまっすぐ結べずに何故か結び目が斜めになってしまい同棲していた彼女に結んでもらっていたが二年前に彼女と別れ一人になった今は自分でまっすぐ結べるようになった。
リビングに戻ってくると女子アナがまだ先ほどのニュースを話していた。
『今までに確認された感染源は感染者に噛み付かれると噛み付かれた方も同じような精神病に感染して』
そこまで聞いてテレビの電源を消した、万年床になった布団の隣のテーブルにはデスクトップ型のパソコンが置かれて夜遅くまでFPSゲームのネット対戦をして疲れてそのまま布団に倒れたんだった、食べかけのクッキーやお菓子がテーブルの隅に置かれているのでクッキーを摘み上げながらスマホを見るとメールが三件着ていた。
二件は密林通販のお知らせメールで一件が昨日寝る前にFPSゲームで一緒にインターネットで対戦を行っていた田中健次郎からメールが来ていて内容を見た。
『お疲れ様、明日も一緒にやろうぜ!時間の都合が付いたらメールくれ、俺は午後八時以降なら俺はOKだ。メール待っている』
と書いてあった。
素早く信二は『午後九時以降ならOKだから準備出来次第メールする』と打ち返してスマホの時計を見ると午前6時25分を表示していた。
(このままでは間に合わない)
急いでスマホをポケットに入れ、部屋の隅においてある会社で必要な物を入れてあるリュックを担ぎ急いで革靴を履いて部屋を出た。
家の鍵を閉め、二階立てのアパートの二階に住んでいるので隅にゴミや蜘蛛の巣が張っている薄暗い階段を下りて道路に出ると駅に向かって早足で歩いた。
信二が勤めている会社はタナカ産業という会社で他の会社にパソコンや産業機器などのルート営業を行っているが、今の景気がよくない日本ではどの会社も新しくパソコンを買い換えることが無いので会社の業績もよくはなく、給料やボーナスも他の会社に比べると低い状況だ。
信二もこの状況がよくないことがわかってはいるが転職をするつもりも無くただ仕事をして家に帰ってくればパソコンでゲームをしている状況で、それを見ていた彼女は最初の頃は一緒にゲームをして楽しんでいたがいつの間にか彼女は笑わなくなって行き、しばらくして別れましょうといわれた。
彼女が言うには、信二といても将来性がない、職場で先輩に付き合わないか?といわれていると聞かされた。
その話を聞いた信二は彼女の顔を見た、信二の彼女は野乃原由比で自分にはもったいないくらいのキレイで性格の良い彼女で身長は信二と同じ位で体系はモデル様な感じで大学時代の友達にもお前にはもったいない彼女だといわれていた。
彼女は信二の顔を真剣な顔で見てきたが、信二は今の自分と一緒にいるよりもその会社の先輩と一緒になったほうが由比にとって良いのではないかと考えてしまい、由比を止めることはできす、由比は失望を顔に浮かべて黙ってしまった。
それ以来日に日に会話と物が少なくなって行き、最後には彼女の持ち物が部屋から無くなり合鍵がポストに入れられていたのが二年前でそれ以来連絡も取っていない。
あの時、はっきりと由比に『俺と一緒にいろ』とか『俺ががんばるから安心しろ』といって止めれば由比は出て行かなかったかも知れないが、信二だって将来に不安があるんだ、そんなことはいえなかった。
駅前のコンビニが見えてきた、いつもなら入って昼に食べるおにぎり二個を買うのだが寄っていると電車に乗り遅れてしまうかもしれないので今日は寄らないことにして駅に向かった。
駅に近づくに連れてだんだんとサラリーマンや制服姿の学生の姿が増えていく、このT駅は東京都心のベットタウンで多くの人が電車で都心に向かっていく。
その中に信二もまぎれて駅前のバスのロータリーを抜けて駅構内に入った、スーツの上着の内ポケットからICカードの入った定期入れを取り出して改札を抜けた。
駅のホームに向かう階段を登りながら上を見上げると前方の制服を着た女子学生のスカートの中のパンツが見えたのですぐに視線を足元に戻した。
(パンツを見られれば怒って睨んでくるんだからな、まったく、嫌なら長いスカートを履けば良いのに迷惑な話だ)
くだらないことを考えていると駅のホームに着いた、信二はスマホを取り出して時間を見た。午前6時47分を指していてこの時間ならまだ焦るような必要は無い。
電車に乗るために並んでいる最後尾に並びスマホを取り出してネットの2chまとめサイトを見るとスーツを着たサラリーマンが警察官に噛み付き、噛み付かれた警察官が目が飛び出そうなほど見開いて周りの人々が逃げ惑う写真がアップされていた。
(なんだこれ?またどっかの暇な学生の悪ふざけか?)
そんなことよりも信二は何か誰かがバカな悪ふざけしていないか探しているとホームに電車が入ってきた、スマホをポケットに入れて電車の混み具合を見ると立っている人が大勢見えたがギリギリ乗れそうであった。
電車が止まり目の前の車両の扉が開いたが降りる人は三人だけでホームにいた人々が一斉に電車の中になだれ込み信二も遅れを取らないように前の人の後について歩みを進めるが目の前の40代くらいの太ったサラリーマンのおっさんがよたよたと歩くので後ろの人が信二の隣を通り電車に乗り込んでいく。
一瞬次の電車にしようかと思ったが何とか出入り口の扉の所に乗り込むことが出来た、一安心して扉の窓から駅のホームを見ると女子高生が二人残念そうにこちらを見ていて次の電車にすれば女子高生と満員電車に乗れたのかと思い一瞬残念に思ったが、もし信二の後に女子高生達が乗ってきていたら今の混雑具合だと密着することになり痴漢に間違われたり、臭そうな表情とかされたら傷つくから一緒にならなくて良かったと思い直した。
「うっ~」
背後から呻き声が聞こえるとその声に反応して信二の近くの人が何かから距離を置くように動くのを感じた。
(こんなところで吐かれてスーツにかけられたら困るし、臭いがついても困る)
信二も場所を移動するために背後を振り返ると電車に入るときに前を歩いていたサラリーマンの周りに人一人分のスペースが空いていた、どうやらこのおっさんサラリーマンが吐くようだ。
信二も逃げようと隣に身体を押し付けたが隣にいた大学生のような男は信二を盾代わりに使うためなのか強く踏み込んで引っ付こうとするのだが大学生はビクともしないどころか逆に押し返してきた。
思わず大学生のような男を睨むとその男は睨みながら手で信二を強く押して思わず後ろに下がった。
(やばい、ぶつかる)
そう思った次の瞬間には背中がサラリーマンのおっさんにぶつかりおっさんを弾き飛ばしてしまうと男の叫び声が電車内に響いた。
「ギャァァァァァ」
叫び声が終わる前に周りの乗客からも悲鳴が聞こえた。
「キャー!!」「来るな!!」「来ないで!!」
女性の甲高い悲鳴だけでなく男性の情けない声も聞こえ信二は突き飛ばしたおっさんの方を振り返ると信二のぶつかったおっさんのサラリーマンが若い男性サラリーマンにもたれかかりその周りにいるOLや大学生のような男女が悲鳴を上げて顔を引きつらせながら必死にそのサラリーマンから遠ざかろうとするのと同時に周りのサラリーマンたちと体格の良い大学生みたいな男性がもたれかかっているおっさんと若い男性サラリーマン二人を引き剥がそうと近づいた。
(ゲロをかけられたようだ、すまないことをしたが俺だって押されて当たってしまっただけだ、無関係だ、無関係)
自分に言い聞かせて先ほどまでいた出入り口の扉の場所に移動しておっさんがどうなるか様子を見ていると、若いサラリーマンにもたれかかり動かなくなっているおっさんサラリーマンを引き離そうとしている大学生みないた男が言った。
「おい、いい加減離れろよ!迷惑だぞ!」
言いながら寄りかかっているおっさんサラリーマンの間に手を入れておっさんの首が動くと何かが飛び散りおっさんを引き剥がそうとしていたサラリーマンたちの顔が真っ赤になりその周りにいる人たちに赤い液体が降り注いだ。
(血か?)
信二が不思議に思うと顔に血を浴びたサラリーマンたちは訳がわからずに顔を拭い始めるとサラリーマンの間に割って入った大学生が叫んだ。
「痛い!痛い!手を離せ!」
大学生が良いながらサラリーマンのおっさんの顔を殴るとサラリーマンのおっさんが倒れると若いサラリーマンの首から大量の血があふれ出し地面に広がり近くにいた人に倒れ掛かると一斉に悲鳴が上がり周りにいた人がその場から必死に逃げようと動き始めたが満員電車の車内なので逃げるような所は無く周りの人を押しつぶすような状態になり車内が混乱した。
信二も逃げようとするが目の前は倒れたサラリーマンのおっさんがいて背後はドアで逃げようが無かった。
窓から隣駅はまだ見えなかったが景色から察すると後三分くらいかかりそうだ。
(クソッ、早く駅に着け!こんなのに巻き込まれてたまるか!)
信二は祈るように外を見ていると背後で何かが動く気配と共に今までうるさかった乗客が一気に静かになり嫌な予感がして恐る恐る振り返った。
倒れていたおっさんがふらふらと信二を見て立ち上がったと思うとおっさんは脱法ドラッグでもキメたのか完全に目がイッていて左右の目玉が回転する様に動いて口の周りが血まみれになっていた、どうやら信じられないがこのおっさんサラリーマンはさっきのサラリーマンの首筋に噛み付いたようで口の周りが血で赤黒くなり口からは唾液と混ざった血が糸を引きながらおっさんサラリーマンのスーツを真っ赤に染めていく。
正気を失っているのは確かでその様子を見た瞬間に背筋が悪寒を走る思わず叫び声を上げようとするとそれよりも早く信二を突き飛ばした大学生の隣にいたOLが叫び声を上げると正気を失っているおっさんサラリーマンが叫び声に反応しそちらを向いたと思った瞬間におっさんはOLに向かって飛び掛った。
近くにいた大学生は素早くおっさんを避けたがOLは避けることが出来ず正面からおっさんにぶつかりおっさんがOLの鼻を噛み切り血が噴出すのが見えた。
「ギャーーー!!」
誰の声がわからない叫び声が響きその場にいた全員が逃げ出そうと動き出し、信二も逃げ出そうとしたが恐怖で足や手が震えて動くことが出来ない。
おっさんは鼻を噛み千切ったOLの顔に更に噛み付き、OLは叫び声を上げることも出来ないまま顔がどんどん噛み千切られ血まみれになっていき、最初はおっさんを突き放そうとしていた腕も今はだらりとぶら下がり動かなくなり顔からあふれ出した血が垂れて誰か吐く音が聞こえた。
「まもなく電車は・・・・」
機械的なアナウンスが流れた。
(もうすぐこの場から逃げることが出来る!!)
信二が窓から外を見ようとするとOLに噛み付いていたおっさんサラリーマンがOLから手を離すとOLが床に倒れた、ちらっと見えたその顔は鼻や頬と口の肉が無くなり血が噴出して顔を染めているが、まだ意識があるのか口の周りの肉が無くなりむき出しになった歯が動いているのが見えると正気を失っているおっさんは近くにいた大学生に向かって飛び掛ろうとした。
「こっちに来るな!!」
大学生の男は叫びながらおっさんの足を蹴りバランスを崩したところを手に持っていたハンドバックを振りかぶりおっさんの頭に思いっきりぶつけた。
殴られたおっさんはバランスを失い信二に向かって倒れくるので信二も慌てておっさんが近づいてこないように腹を足で抑えて近づかないようしにした。
おっさんの腹に靴の裏が当たる感覚がありそのまま反対側に蹴飛ばそうと右足に力を込めておっさんの腹を蹴飛ばした。
だが、おっさんは信二の蹴りをものともせずにそのまま信二に向かって手を伸ばし掴みかかってきた、もう一度しっかり蹴飛ばしてやろうと足を少し戻した瞬間におっさんが近づいて来たので慌てて力を入れて蹴飛ばそうとしたがうまく力が入らなかったのかおっさんの力が強いのかわからないが近づいて信二は右足を抱えるような格好になってしまいバランスを崩し扉に背中を打ちつけるとおっさんが手を伸ばし掴みかかってきたので何とか両手でおっさんの肩を掴み近づかせないようにしたがおっさんがさらに力を込めて迫ってくるので背後のドアのガラスが軋み始めた。
信二は何とかおっさんをどけようと思い、右手をおっさんの肩から外して力を込めて血まみれのコメカミを殴った。
怯むかと思ったが目をかばう様子もないどころかその殴った右手に噛み付こうと血まみれの口を突き出してきたので思わず手を引っ込めた。
(ヤバイ、このおっさん力が強すぎる、このままだとサラリーマンやOLのように噛み付かれてしまう!!)
殺される恐怖でうまく呼吸が出来なく変な声になっているだろうが叫んだ。
「誰か!!助けてくれ!!殺される!!」
周りを見たが、周りの乗客は信二とおっさんを見ていたが全員が顔を引きつらせて誰も助けに近づいてこようとはしなかった。
近くにいた大学生を見ると目が合ったが大学生も顔を引きつらせて信二を見ていたが顔をそらした。
(助けるつもりは無いようだ)
そう思った瞬間に信二の抵抗している力が少し弱まったのか背後の窓ガラスが更に軋み大きく凹むのを感じた。
「誰か!!助けてくれ!お願いだ!このままでは死ぬ!」
もう一度助けを求めて周りを見たが、周りの人々はこの異常事態に巻き込まれたくないようで怯えながら見ているだけであった。
正気を失っているおっさんの力が強くなり背後のドアのガラスに一気にヒビが入ったようで背中にあった抵抗が無くなるのと同時に車内に強い風が入ってきた。
さらにおっさんに押され背中に背負っていたリュックが電車の外に出て風を受けて飛んでいきそうになるが肩が窓枠に引っかかった。
車内がパニックになりいたるところから悲鳴が聞こえてきた。
「まもなく電車がS駅に到着いたします、お乗りの際は・・・」
もうすぐ駅のようで車内アナウンスが流れてきた。
(もうすぐ駅に到着だ、早く着け!早く着け!)
電車が減速をはじめた、信二は目の前の正気を失っているおっさんの顔をもう一度見たがやはり脱法ドラッグでもやっているのか、白目を剥いていて何を言ってもきこえていなさそうだ。
電車が駅に入りもうすぐ停車しようとしている、今ドアが開けばリュックがドアに挟まり逃げることが出来ないどころかOLのように顔面を噛み付かれてしまうかもしれない、それを防ぐにはこのおっさんをどかさなくてはいけないがもう電車が止まりそうで駅のホームで電車に乗り込もうと並んでいる人達が見えた。
(一か八かやってみるしかない!)
電車がホームに入り後十秒で扉が開きそうになるタイミングで信二は一気に力を抜いて地面に倒れこむと服を掴んでいた手がはずれて勢いあまったおっさんはそのままガラスがなくなった窓に身体を突っ込んだ。
四つん這いで慌ててその場から離れるとリュックが窓枠とおっさんの間に挟まっていたので慌ててリュックから腕を通して脱ぐとドアが開き、正気の失ったおっさんは閉じたドアで挟まれ言葉にならない悲鳴を上げた。
信二が立ち上がろうとすると駅のホームにいた人から悲鳴が上がり、電車の中にいた乗客が逃げようと一斉に出入り口に殺到し手を踏まれそうになったが何とか立ち上がり駅のホームに急いで出た、乗っていた車両を見るとおっさんは窓から上半身が出た状態で挟まれて白目を向いた状態で近くにいる人に向かって手を伸ばしていた、電車の中では首から血を流して倒れているサラリーマンや顔の骨が露出して血だらけのOLが倒れ血まみれの乗客が逃げて行ったのを見て何か異様なものを感じたのか誰も倒れている人に近づこうとはしなかった。
信二は暴れているおっさんのドアの下に自分のリュックが落ちているのが見え、本当は近づきたくないが会社の物も少し入っているのでゆっくりと近づいていく。
正気を失っているおっさんは信二が近づいていることに気が付いたのか信二の方に顔を向けてから両手で掴もうと腕を振り回してきた。
「おい、やめたほうがいいぞ、そいつなんか様子がおかしいぞ!?」
声のした方を見ると真面目そうなサラリーマンが信二に向かって言ったので信二もサラリーマンに向かっていった。
「わかってます、ただリュックを返してもらうだけですよ」
いっておっさんのほうを振り返り足でリュックの端を踏んで引き寄せて取ろうとしていると笛が鳴り響く音が聞こえた、そちらを見ると数人の駅員がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
信二は自分のリュックを回収すると駅員が信二の隣に来て車内の様子を見ると息を詰まらせた。
「大丈夫ですか!!今助けます!」
四十代らしき男性駅員がドアに挟まれているおっさんの手を掴もうとするので信二が駅員にいった。
「そのサラリーマンのおっさんが車内にいる奴を襲ったんだ、なんか薬をやってるのか判らないが、そいつが中にいるサラリーマンの首やOLの顔に噛み付いて俺も噛み付かれそうになった、だから駅員さんも近づかないで警察や救急隊を待ったほうが良いですよ!」
信二に言われた駅員は車両の中の倒れている首を噛まれたサラリーマンと顔を噛まれて骨が露出しているOLを見て固まった。
するとおっさんについてきた若い駅員が四十代の駅員を見た。
「どうします?このまま警察を待ちますか?」
「いや、倒れている人は早急に手当てが必要だ、念のため一人はAEDをもって来い、それ以外は私と共に倒れている人とドアに挟まっている人の救助を行う、挟まれている方が襲ったという話だから注意するんだ」
四十代の駅員がいうと先頭を切って車内に入ってくと倒れているサラリーマンやOLに近づいた。
「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」
その後に続いて若い駅員も声を掛けながら車内に入っていくの信二は見ているとまたアナウンスが流れた。
「まもなく3番線に電車が参ります、白線の内側までお下がりください」
信二は自分がいる場所が何番線か確かめるために周りを見ると遠くの上に登る階段の近くに4と白地に黒い太い字で書いてあるのが見えた。
(ここが4番線なら電車が突っ込んで来るようなことは無いだろう)
そう思っていると信二が乗っていた電車の先に近づいてくる電車が見えた、どうやら信二が向かっていた都心から来る電車のようだと思っていると目の前をAEDを抱えた若い駅員が大声で人ごみを掻き分けながら走って近づいてきた。
「すいません!道を開けてください!怪我人がいます!」
言いながら駅員が信二の目の前の車両に勢いよく乗り込んだが目の前の異様な光景に一瞬足を止めた。
(すぐには電車は動きそうに無いな、会社に電話して遅れることを伝えた方がよさそうだ)
ポケットにれていたスマホを取り出して電話しようと思い周りを見て電話で相手の声が聞こえそうな静かな場所を探したが信二の周りは電車のドアに挟まれている正気を失ったおっさんや顔を血まみれにしたOLの写真を撮ろうとスマホを構えた人で溢れ返っているだけでなく、他の車両に乗っていたサラリーマンや学生も出てきて何事かと集まってきていた。
(ここでは電話できそうにないな・・・)
ポケットにスマホを戻すと電車が反対車線のホームに入ってきて何気なくそちらを見ると背筋が凍った。
入ってきた電車の窓はすべてが赤黒く車内で無数の人影が揺らめいているのが見えた。
異常事態を感じた信二の背後にいた駅員の拡声器で拡大された怒鳴り声が響いた。
「皆さん、電車から離れてください、電車から離れて!!」
何か異常を感じたホームにいた乗客たちもその場を離れようとする者と何が起こっているかスマホで撮ろうとする者で入り乱れ、信二は入って来た電車の光景にヤバさを感じてその場から逃げようとホームの白線の外側を階段に向かって走り出したが人が多すぎて前に中々進めない。
「ドアが開きます、ご注意ください」
無機質なアナウンスが聞こえ信二が電車の方を見た。
窓ガラスが真っ赤になっている電車のドアが開くと血まみれの乗客たちがふらふらと立っていて頭部の皮膚が剥けて血まみれになっている人や着てる服が破られたのか下着姿の血まみれの女性などが大勢が立っていた。
その光景を見た誰かの叫び声が鳴り響くとホームにいた乗客が一斉に階段に向かって走り出した。
信二も流れに乗って階段に向かって走ったが、騒ぎに気付いた信二の乗っていた電車の乗客も逃げるためにホームにあふれ出したため階段に人が集まり一気に進まなくなった。
「キャー!!」「止めろ!!止めてくれ!!」「誰か助けて!!」「嫌ー!!」
男女の入り混じった叫び声が聞こえ信二や周りの先を急いでいた乗客も叫び声が聞こえた方を見ると電車の中にいた血まみれの乗客たちがホームに流れ出て階段に逃げようとしていた人々に噛み付いたり跳びかかったりして血が飛び散るのが見えた。
「逃げろ!!」「早く行け!!バカ野郎!!」「電車から出てくるぞ!!」「警察を呼べ!!警察!!」
悲鳴と逃げる人の叫び声が入り乱れた、さらにその声で信二が乗っていた電車の車内にいた乗客が我先にとホームに飛び出して信二は身動きが出来なくなり電車の車両の壁まで追いやられた。
(さっきの正気を失ったおっさんと同じじゃないか!!どうなってるんだよ!!)
反対側の車両からはまだ血まみれの正気を失っている乗客がどんどんあふれ出てホームにいる人に襲い掛かっている。
先の階段のほうを見たが階段付近の列を作っている人も正気を失った人に襲われているのが見えこのまま階段まで行こうとすれば信二も正気を失っている人に襲われる可能性が高い。
逃げる場所が無いか周りを見ると信二の乗っていた電車に残っている乗客は窓ガラスを強引に開けホームとは反対側の線路に飛び降りようとしているのとホームと反対側のドアを開けようと数人のサラリーマンが扉に掴みかかっているのが見えた。
信二も同じように反対側の線路上に逃げようと電車内に戻るため近くのドアを探して早足で歩き出した。
だがその時、急にリュックを掴まれ足が止まり信二は後ろを振り返るとそこには眼鏡をかけた二十代くらいのサラリーマンが怯えた表情で信二を見ていた。
「助けてくれ!!痛い!!お願いだ!!こいつを離してくれ!!」
若いサラリーマンが言いながら下を見るので信二も視線の先を見ると腰に血まみれのOLがしがみ付きながらわき腹や腰の辺りに何度も噛み付き流れ出た血で下半身は真っ赤になっていた。
「痛い、こいつを放してくれ!」
泣き出しそうな若いサラリーマンが悲痛な声で訴えてきた。
「離せ!離せよ!」
信二は背中を振って若いサラリーマンの男性が掴んでいる手を強引に引き剥がそうとしたが、若いサラリーマンはリュックから手を離して信二のスーツの上着の腰を両手で掴んだ。
「お願いだ!助けてくれ!お願いだ!」
(助けるべきなのだが、異質な状況と恐怖でこの場からいち早く逃げたい!)
「他の奴に頼め!!」
自分に言い聞かせるように叫び、若いサラリーマンの手を叩き落として一番近い電車のドアに向かった。
掴んでくる人を避けながら電車のドアに向かったが、電車のドアで乗客たちが揉めていてその周りにどんどん正気を失った人が集まっていた、電車の中を見たが線路側のドアを必死に開けようとしていた人たちはドアを開ける前に血まみれの人に組み伏せられ手足を振り回して逃れよしていたが、その周りを取り囲むようにさらに血まみれの人々が群がって電車内から叫び声が聞こえた。
(このまま電車に乗ってもこいつらに捕まってしまう、どうしたらいいんだ?何か手は無いか?)
信二が足を止めて周りを見ようとすると血まみれのOLが信二に向かって掴みかかりながら血まみれの口を開けて噛み付こうとしてきた、思わず両手でOLの頭を掴んで噛み付かれないようにしたがOLの勢いを支えることが出来ずにそのままバランスを崩し倒れながら背後の電車に頭をぶつけて思わず目を瞑ってしまったがすぐに目を開けてOLに噛み付かれる前にOLの腹を蹴り上げるとOLは呻き声を上げて横に倒れた。
素早く立ち上がろうとすると地面から風を感じて思わず風の出所を探すと電車とホームの間に隙間が空いていた。
(そうだ、ホームの下には線路に落ちた人が逃げるスペースが合ったはずだ、そこなら何とか逃げ込めるぞ)
立ち上がるとさっきのOLが信二の右足を掴み噛み付こうとしてきたので噛まれる前に顔をもう片方の足で思いっきり蹴飛ばすとOLは頭を地面にぶつけて再び地面に倒れた。
慌てて立ち上がりホームの下に入れそうな場所を探すと電車の車両と車両の間の連結の場所に隙間が空いていて何とか入れそうでそこに向かって信二は走った。
目の前で腕を噛み付かれて叫び声を上げながら噛み付いている女子高生を引き剥がそうと何度も女子高生の頭を殴っている大学生や噛み付かれている人を助けようとしているサラリーマンたちなどがいたが信二は無我夢中で掴みかかってこようとする人達を振り払いながら走った。
目的の車両の間の連結部分に来るとなんとか大人一人が通れそうなスペースが見え信二はリュックがつっかえては困るので急いで脱いでホームの下に急いで降りた。
「おい!早く行ってくれ!」
背後から急かす男性の声が聞こえたが予想より狭い上に見えない位置に何かのパイプがあり足が引っかかりそうになった、ホームから信二に声を掛けた男性は余裕が無いようで、ホームに置いていた信二のリュックをいきなり頭に押し付けられたと思うとリュックの上から押さえつけられ信二はバランスを崩して何かに足を引っ掛けながら砂利の地面に落ちた。
「痛ぁ」
手に小さな石の角が当たって痛い、降りるときに踏み台に使ったパイプに右足が引っかかっていて急いで足を戻して上を見上げるとサラリーマンの男が急いで降りてこようと足が下りてきた。
「うわぁぁあ」
サラリーマンの野太い悲鳴が聞こえると水の入ったコップを倒したようにいきなり血が垂れてきて思わず飛びのくとホームの床のコンクリートに頭をぶつけ一瞬クラッとしたがすぐに前を向くと視線の先のサラリーマンの両足が細かく振るえているのが見えた。
思わず恐怖で手が震えてしまうが信二はこの場から早く逃げようとリュックを掴み周りを見渡したが普通に出れる場所は列車の前後なので大分先まで行かなければならない。
ホームの上からは叫び声や泣き声が入り乱れた叫び声がして聞いているだけで恐怖で震えしまうが中腰になりその場から逃げ出した。
一車両分進むと信二が向かっているホームの端に人影が見えるとすぐにその人影を追いかける数人の人影が見えた、するとホームの上から線路に下りた男子高校生が信二の隠れているホームの下に入ってきたが、その男子高校生を追って三人の正気を失った人が入ってくるのが見え信二は慌てて方向転換をして反対側の出口を見たがそちらも人が入ってきているのが見えたが気が狂っている人なのか違うのか判らずに近づくのはやめたほうがいい。
男子高校生の方をもう一度見たが、男子高校生は気が狂った人に足を掴まれて必死に砂利に爪を立てて抵抗をしているのが見えたが後から来た正気を失っている人が足をばたつかせて抵抗している男子高校生の腰を捕まえ太ももに噛み付くのが見え男子高校生の叫び声がホーム下に響いた。
このままでは男子高校生の二の舞になってしまうので信二はその場にしゃがみこんで車両の下を見ると通り抜けれそうな隙間があり電車の反対側にも人は数人しかいないようだ。
(ここにいても危険は同じだ)
素早く匍匐前進の要領で電車の下にもぐりこんだ、線路に敷き詰められた石が腹に当たりスーツが汚れボロボロになってしまうのを感じたが構わずに急ごうとすると頭上の電車の底に頭や背中を何度も打ち付け痛みが走ったが素早くホームの反対側に抜けた。
反対側に出て周りを見渡すと駅のホームから線路上を歩き近くの踏み切りから逃げていく人たちの姿が見え信二も同じように線路上を踏み切りに向かって走った。
視界に入ってくるのは逃げようとする人とそれを追う正気を失っている人たちだが、逃げる人たちが全速力で走ると逃げ切れてしまうようで正気を失っている人たちが追いかける速度は早歩きと同じくらいでどんどん引き離されていく。
背後から物音が聞こえ振り返ると白目を向いた人々が信二の背後の電車の下から手を伸ばして足を掴もうとしていた。
慌てて立ち上がり信二は一番近い踏切に向かって一気に走った、信二に気が付いて襲ってこようとする者もいたがやはり動く速度は早歩きていどなので背後から襲われるようなことはなく、前から近づいてこうとする者にはリュックを振り回して身体をつかまれないように叩きながら走りるとすぐに踏切だ。
踏切の近くでは駅の騒ぎの様子を見ようと近づいてきた野次馬が逃げて行き、踏み切りで止まっていた車が方向転換しようとして他の車にぶつかっていたり逃げる人を轢いて下敷きにして手足をバタつかせているのが見えた。
すると踏み切りが鳴り始め遮断機が降り始た、信二が走る先を見ると電車がこちらに向かって来るのが遠くに見えたが何か違和感を感じたがそんなこと気にしている場合じゃない。
噛み付かれて助けを求めている人たちを無視し、捕まえようとしてくる者をなんとか交わしもうすぐ踏み切りから道路に出ようとしたが何か金属がつぶれるような音と共に地面に振動が伝わってきて信二は思わず足を取られ砂利道に倒れた。
(早く起き上がらないと)
砂利に手を突き起き上がろうと前を見ると電車が線路からはみ出して砂利と火花を散らしながら駅に突っ込んでくるのが見えた。
(このままでは俺も巻き込まれる!!)
立ち上がろうとしたが何者かに足をつかまれ後ろを振り向くと肩まである髪を金髪に染めた今時の女子大生のような女性が足を掴んでいた。
「助けて!!」
女子大生の足には男性サラリーマンが噛み付いているのが見えたが信二は電車が迫ってくる恐怖で思わず女子大生の信二の足を掴んでいる手をもう片方の足で蹴り飛ばして叫んだ。
「離せ!!離せよ!!」
それでも女子大生が足を離さない、するとまた酷い爆音と共に地面が揺れたので音のする方を見ると突っ込んでくる電車の先頭車両が横に倒れ、その車両に折り重なるように後続の車両が折り重なってこちらに突っ込んでくる。
恐怖に駆られた信二は女子大生の顔を思いっきり蹴飛ばすと女子大生の信二の足を掴んでいる手の力が弱くなりすぐに手を振りほどき立ち上がり轟音が迫りくるなか必死に踏切の外に向かって走りだした。
掴みかかってくる人を避けながら線路の外の車道に出でた瞬間に背後を電車が電柱や線路上の人たちを巻き込み破壊しながら滑っていく轟音が聞こえると線路に面している建物が白煙を上げて壊れるのが見え信二は思わず目の前に止まっている普通車の陰に飛び込みリュックを頭を上に置いて庇い目を瞑った。
轟音で耳が耐えられなくなったのか一瞬何も聞こえなくなり、何かが頭上から落ちて背中や腰に当たるのを感じているとだんだんと耳が聞こえるようになってきた。
頭上のリュックを降ろしてからゆっくりと目を開けたが回りは白煙に包まれていて駅の様子はわからない。
(早く家に逃げよう、こんな時に仕事なんて言ってる場合じゃない)
信二は隠れていた車に掴まりながら立ち上がろうとすると手に痛みを感じて素早く引っ込めて左手の手のひらを見ると粉まみれになっているが一センチくらいのガラスの破片が手の平に刺さり血が出てくるのが見え、両手とも何かの粉にまみれているがガラスが刺さったままにして置くわけにもいかずに右手で刺さっているガラスを抜いて地面に捨てると刺さっていたところから赤い血が勢いを増して出てきたのでズボンのポケットに入れてあるハンカチを左手で握りその場から走り出した。
信二の前にはその場から逃げ出そうとしている人や正気を失って周りの人に襲い掛かっている人や何が起こったか確かめようと近づいてくる人が入り乱れる中を大きな通りまで走ると何事かと近くの家や会社の人が通りに出ていて駅の方を見ていた。
その中には路肩に止まっているタクシーの運転手もいたので信二は慌てて駆け寄って行くと信二に気が付いたタクシー運転手の五十代の男性は一瞬ギョっとした顔をしたがすぐに心配そうな顔をして信二に言った。
「大丈夫かね!?君、もしかしてあの場所にいたのか?ボロボロじゃないか?」
近づいてこようとするので信二は走って乱れた息を整えながら背後を見ると気が狂っている人たちはまだここまで来ていないようで通りにいる人々は駅の方を見ていて信二もそちらを見ると火事が起きているのか黒い煙が上がっていたがタクシーの運転手を見て言った。
「すいません、家まで送ってくれますか?」
信二が言うとタクシー運転手のおっさんは心配そうな顔をした。
「別にいいですが・・・、病院でなくていいのかね?」
言われて信二は一瞬考えた、確かに病院に向かったほうが良いかもしれないが、病院にはさっき駅で見た気の狂った奴が運ばれてくるかもしれないと思うと行く気に離れないし、怪我も手の平にガラスの破片が刺さっただけなので家に帰れば手当ても出来るだろう。
「はい、病院でなくて俺の家まで送ってください」
「ならいいですが、座席が汚れては困るのでちょっとその汚れやホコリを掃ってくれませんか?」
言われて自分の姿を見たが、脱線した電車が突っ込んで周りの家を壊したときのホコリまみれでグレーのスーツが白っぽくなっていたので慌てて頭を掃うと白い粉が振ってきた、スーツの上着を脱いで掃うと白い粉が舞いまわりにいた人が嫌な顔をして信二を見たが気にせずズボンを叩いてホコリを落としてから上着を着てタクシー運転手のおっさんに向かって言った。
「これでいいですか?」
タクシー運転手のおっさんは信二を頭からつま先まで見てから仕方ないという感じでため息をついた。
「いいですよ、いきましょう」
運転手がタクシーに近づき運転席に乗り込むと後部座席の扉を開けたので信二は乗り込んで自分のアパートの住所をいうとタクシーは進みだした。
スマホを取り出して会社に電話をすると誰かが出て女性の少し高い声が聞こえた。
「はい、こちらタナカ産業、室橋です」
「室橋さん?営業の池田ですけど・・」
「あら池田さん、どうしたんです?」
「実はですね、事故に巻き込まれてしまって今日は会社に出社できそうにないので今日は休むと課長に連絡してもらえますか?」
「わかりましたが、事故って大丈夫なんですか?」
「大丈夫か判りませんが、スーツがボロボロになっているので明日も出社できるかわかりません」
「そんな酷い事故だったんですか?」
「まぁ、こうして電話できるんで大丈夫ですよ」
信二が言うと電話の向こうの室橋は少し黙ってから言った。
「判りました、課長には言っておきますのでゆっくり休んでくださいね」
「判りました、失礼します」
そういって電話を切るとちょうど反対車線に救急車とパトカーが列を作って駅方面に向かっていくのが見えた。
信二は人を何回も殴ったリュックの中身がどうなっているか見るために開けると中に入れていた手帳やノートの端が折れていてペンを入れている筆箱を取り出して開けてみると中に入っていたボールペンやシャープペンシルがすべて折れて粉々になっていた。
(新しく買いなおさなければいけないな・・・)
筆箱を閉じてリュックの中に戻してから外を見た。
駅から離れた場所はまだいつもと変わらない様子で忙しそうなサラリーマンや主婦が通りを歩いて車の流れもいつもと変わらない様子で先ほどまでの事が自分が幻覚を見ていたんじゃないかという感覚に襲われて思わず目を瞑った。
「お客さん、着きましたよ、お客さん!」
目を開けるとすでに自分のアパートの前にタクシーが止まっていた。
「もう着いてる」
「お客さん、やっぱり病院に行ったほうが良いですよ?何か寝ている間もうなされていて心配になりましたよ、着替えて病院に向かうなら待っていましょうか?」
運転手のおっさんは言って信二を振り返ったが信二は頭を振って運転手のおっさんに言った。
「ダメそうだったら救急車を呼ぶんで大丈夫ですよ、それよりも値段はおいくらですか?」
信二が聞くと運転手のおっさんが金額を言ったので信二はお金を払い、タクシーを降りてアパートの二階の自分の部屋に鍵を開けて入った。
玄関でもう一度身体についたほこりを落としてからドアを閉めて鍵を掛けた。
「あー、頭が痛いような気がする」
独り言を言いながら服を脱いで玄関に放置してまずホコリまみれの身体をシャワーで洗ったが、手の平の傷に洗剤が入ると少し痛みを感じたが出血は止まっているようで全身のホコリを洗い流してから浴室を出ると玄関に放置してあるスーツを見たが、クリーニングに出してもキレイになって戻ってくるのか疑問に思えるくらい汚れ石で傷が出来ていた。
とりあえず新しい下着を着けから左手の平の傷を部屋の隅に置いていた何時買ったか思い出せない救急箱を取り出して消毒し絆創膏を貼った。
冷蔵庫から麦茶の入ったポットを取り出し食器入れの中のコップを取り出して注ぎ一口飲んでからまたコップに麦茶を注ぎポットを冷蔵庫に戻してコップを持ったままパソコンの前の万年床になっている布団に腰を下ろした。
先ほどの脱線事故がテレビでニュースになっていないか確かめるためにテレビをつけると空港でも正気を失った者による事件があったようで空港の映像と共にニュースキャスターが事故の状態を説明していた、信二は電車の脱線事故がテレビでやっていないかチャンネルを変えてみたがすべて空港での事件を放送していて電車の脱線事故はやっていなかった。
あきらめてテレビを切った、するといろいろな事が起こって脳が処理仕切れてないのか頭が痛いような気がしたのでとりあえず布団に横になった。
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