最終話



intmain(void){for(zoe3yjlq@)

{printf("ループ99回目");}return0;}


 おかしい。


 皆のために戦ってきたのに、皆は私を「魔物」と言う。


 少し人間離れした身体になってしまっただけなのに。


 化物(ヒト)の苦労も――苦痛も、死も知らないくせに。


 お前たちには愛想が尽きた。






intmain(void){for(utjt@-de)

{printf("ループ105回目");}return0;}


 魔物は私を「化物」と言う。


 お前たちも十分過ぎるほど醜悪なのに。


 湖で肥の汚れを流し落としつつ、自分の姿を見る。



 剣の塊のような姿だった。


 人喰鬼(オーガ)並みの体躯を黒い鉄の板が包み込んでいる。ただそれだけなら鎧のようだが、一枚一枚に血管のようなものが走り、脈動と共に光って蠢いている。


 目があった場所には黒い板がある。ほじくると黒い粘液が出てきて、時間はかかったがそれで埋められて治ってしまった。


 脚は四本になっている。手は前回まで二本だったが、死んで過去に戻ってきた時点背中から一本生えてきていた。



 どうも、死ぬ度に進化しているらしい。


 それでも魔王を倒し滅ぼせるほどの大きな進化じゃない。


 より異形に近づいただけだ。



 私はどこで間違えた?


 決まっている、古代人のおぞましい力に手を出したことが間違いだったんだ。魔王一人になら勝てる力は手に入ったものの、助けてくれる筈の人から乖離しすぎてしまった。


 私の手には、未だ選定の剣がある。


 コイツだけが私を助けてくれている。


 選定の剣が無ければ、とうの昔に終わっていた。


 剣以外は、もう誰も私を助けてくれない。


 世界中が敵だらけだ。


 でも、それでいい。


 たとえ一人だけでも、いつか魔王を――。








intmain(void){for(llri3eqe)

{printf("ループ214回目");}return0;}


 未だ、魔王軍全てを圧倒出来る強さは手に入っていない。


 死を繰り返す度に勝利(おわり)に近づいていっている。


 だが、それがあまりにも遠い。


 今までのように壁を打ち破る方法を探してきたが、古代人の力以上に私を強くしてくれるものなど、どこにも無かった。


「ありがとう……ありがとう……!」


 森を焼き払われた森人の生き残りが何かを言っている。


 魔王軍の数を減らそうと旅をしていたところ、通りすがった大森林でその魔王軍を見かけたから戦闘行動を開始したのだ。


 集落は焼けたが全滅はしていなかったらしく――おめでたいことに――魔王軍を追い払った私に礼を言っているらしい。


 中にはいつだったか殺した森人の姿がたくさん見える。お前たちがいま拝んでいる化物は、お前たちを殺した存在だというのに。俺だけが覚えている事だが。


 拝まれたところで、何も良い事はない。


 次のやり直しの時には、もう忘れられているのだから。



 戦闘を終え、大森林から逃げて、人気の無い川辺で休む。


 辺りはすっかり真っ暗になっていた。


 身体の修復が必要だった。


 この身体になってから再生能力を手に入れたものの、これだけは魔王ほど速いものではなく――おかげでもう何度も魔王軍に殺されてきた。


 魔王だけではなく、魔王軍も強い。強いのは最初から理解していたから、最初から魔王暗殺を試みていたのだ。


 すっかり原型を無くした身体では、ただそこにあるだけで魔王に警戒されるようになってしまった。もう暗殺の機会は無い。


 魔王軍は人間を襲うより、私に対処するのが普通になってしまった。人並みに知恵を使ってくるから質が悪い。


 おかげで今日も深い手傷を負ってしまった。


 だが、これぐらいなら一日休めば何とかなる筈だ。


 出来るだけ動かず、川のせせらぎに耳を傾ける。


 もう、自分の耳がどこにあるのかも……よくわからないが。



 多分、これは罰なのだろう。


 勝つためとはいえ、遡(さかのぼ)れば元通りとはいえ、私は奪う必要の無い命をいくつも奪ってきた。虫を殺すように容易く殺してきた。


 死ねば全て元通りになる。


 だが、私だけは全て覚えている。


 死を持って逃避したところで過去(つみ)が消え去るわけではない。そしてそれは、もう贖(あがな)いきれるものでは無くなってしまった。


「…………」


 許してほしい。


 楽になりたい。


 都合の良い事を言っている自覚はある。だから、本気で救われたいと思っているつもりは無い……と、思う。


 いまの私が何を言ったところで、それは何の信用も無い。自分ですら過去の罪を覚えているために上っ面の言葉に聞こえてしまうのだ。



 もう、誰も信じてくれない。


 もう、誰にも信じてもらう方法が無い。


 虚しさが胸を支配する。



「――――」



 微かに明るくなってきた空の下。


 誰かが川辺に現れた。


 その誰かを、私は知っていた。


 でもきっと、彼女は私を知らないだろう。



「――――」



 お互いに固唾を呑んで見つめ合う。


 先に口を開いたのは彼女――リリスだった。



「森人の方々に、異邦の方が魔王軍を撃退してくれたと聞きました」


「…………」


「貴方が、その異邦の方なのです……か?」


「…………」



 リリスの表情は硬く、恐怖の相すら浮かんでいた。


 私はリリスを知っているが、いまのリリスにとって私は異形の化物でしかない。


 彼女は、私のように過去(みらい)の記憶が無いのだから。



 身体の修復は既に完了した。


 もう、ここにいる必要は無い。


 ここにいたくない。


 いつものように走り、跳躍してどこかへ行こうとした。



 だが、それよりも早くリリスがこちらへと駆け寄ってきた。


 何故か表情には喜色を浮かべ、嬉しげにこちらへ駆け寄ってくる。



「貴方は――勇者様なのですね!」



 リリスが微笑んでくれている。


 微笑みつつ、私の手を見ている。



 私の手には――選定の剣があった。


 選定の剣は勇者にしか抜けず、勇者にしか振るえない。


 リリスはただ一本の剣で認めてくれた。


 異形の化物が――人々を救う勇者であると。


 選定の剣はいつも私を助けてきてくれた。


 ただの村人を魔物と張り合えるように強化し、絶望の淵から願いを聞き届け、過去へと送り届けてくれた。


 そして――リリスを説得してくれた。


 この剣には、感謝してもしきれない。



 私はリリスに全ての事情を話した。


 リリスは直ぐには信じてくれなかったが、選定の剣を見て、さらに私の言葉をよく聞いてくれたうえで頷き、「私は貴方を信じます」と言ってくれた。



「魔王は強い。だが、私ならヤツを倒せる」


「問題は取り巻きの魔王軍なんですね?」


「ああ。それがあまりにも……数が多すぎる」


「……皆の力を、一つにしないと」


「そうしなければ魔王には勝てない」



 死を繰り返せば私は強くなる。


 だが、魔王軍全てを鏖殺できるほどに強くなろうと思えば千回……いや、一万回を超えても積み重ねが足りないだろう。


 私達は仲間集めに奔走する事になった。


 魔王軍を打ち倒しつつ、共に戦う友を求めて。



 それは一周だけでは成し遂げる事が出来なかった。


 私は何度も死に、何度もリリスと再会した。


 選定の剣を携え、何度だって彼女が私を信じてくれると信じて。









intmain(void){for(60lq@s6mzweq)

{printf("ループ239回目");}return0;}


 繰り返す。何度でも。


 リリスがいてくれるから、勝利のために何度だって死ねる。


 リリスは何度も私の事を信じてくれた。



 魔王と魔王軍を打ち倒すのに必要なのは数。


 その数は王国の軍隊で補う事が出来る。ただ、王国軍は――私の繰り返してきた世界では――簡単には動かせはしなかった。


 王国軍を動かせるのは王のみ。


 その王の協力を一向の取り付ける事が出来ないでいた。


 私が選定の剣を振るえるとはいえ、異形だという事もあるだろうが――おそらくは私が普通の人間であっても軍を動かして貰うのは難しかっただろう。


 そうでなければ、最初から多くの資金を与えてくれていた。



 王族達は勇者という存在に怯えている。選定の剣は元々、この国の初代王が抜き放ったものだったが、次代の王族達は誰もそれを振るう事が出来なかった。


 剣がただ在るだけならまだいい。それを抜き放つ者――勇者が現れさえしなければ、「自分達は選ばなかった」と思わずに済む。


 単なるプライドの問題だけではない。


 魔王軍という国を滅ぼす危機に対し、選定の剣を抜いた勇者が――もしも魔王を倒して国を救ってしまえば、面子だけではなく「勇者こそを次代に王に!」と推す民衆の声が上がるのを恐れているのだ。



 私は王になるつもりは無い。


 だが、そんな言葉は信じてもらえなかった。


 私は根気強く――王族を脅す材料を探した。


 探して、掴み、それだけでは当然足りず、武力を持って王族に「王国軍を動かせ」と働きかけた。


 リリスはそんな私を見ていた。


 見ていたが――必要性と王族の愚かさと密かに民に対して振るわれていた蛮行の証拠をもってよく理解してもらった事で動いた事で――止めはしなかった。


 ただ、悲しそうな顔はしていた。



「勇者様に全てを押し付けてしまい……申し訳ありませんでした」



 押し付けられたとは思っていない。


 私は、自分で「選定」したのだ。



 かくして、魔王軍と王国軍による大規模戦闘の火蓋は切って落とされた。そして多くの者が散っていく事になった。


 私の異形(すがた)を見た者は魔物も人間も皆、恐れ慄いたが、リリスだけは私に付き従って戦場を駆けてくれた。


 彼女がいてくれたおかげで私に向けて弓引く人間はいなかった。魔王軍は順調に壊滅していき――やがて、魔王が姿を現した。


 だが、それはもう遅すぎた。


 戦場を支配しているのは王国軍と異形であり、魔王軍はもう戦線を維持出来る状態では無かった。


 それでも出てきた魔王と私は矛を交えた。



「貴様、何者だ!」


 魔王はそう言った。


 私は「勇者だ」と答えたが、魔王は信じなかった。


 別に、お前に信じて貰う必要は無い。


 リリスさえ信じてくれていれば、もう他に何もいらない。


 私は、化物へと姿を変えた魔王を切り伏せ消滅させた。


 魔王軍は既に潰走状態。主だった魔物も既に死亡しており、あとはもう散り散りになった魔王軍の残党を滅ぼしていくだけで済むだろう。



「勇者様!」



 一人、残党狩りに行こうとした私をリリスは追ってきた。


「何で……何で、一人で背負おうとするんですか?」


 もはや私は、人間と呼ぶに相応しくない異形だからだ。


「貴方は勇者で……私達を救ってくれた人間です!」


 いまの彼女は一度も、人間らしい私を見た事などないのに。


 それでも人間であるという言葉は、冷えきった私の身体を内から確かに暖め癒やしてくれたように思う。


 その言葉だけで、私は救われた。


 救われたから、リリスから離れ、逃げるべきだと思った。


 それでもリリスは私を追ってきた。


 私を「一人にさせません」と言い、目には涙さえも浮かべていた。



 最終的には私が根負けした。


 逃げ切る事は出来たが、彼女を泣かせたくなかった。


 たとえ二人だけでも、戦い続けようと。


 私達は――再び、旅に出る事を決めた。



 巻き戻しの起点となる日から、ちょうど一年経った日のこと。



 私は笑って旅立とうとして――再び、過去に戻る事になった。








intmain(void){for(   )

{printf("ループ240回目");}return0;}


 何故、私は生まれ育った村に戻ってきている?


 何故、傍にリリスがいない?




intmain(void){for(   )

{printf("ループ242回目");}return0;}


 魔王は、もういない筈なのに。


 魔王は、もう倒せるようになった筈なのに。




intmain(void){for(   )

{printf("ループ311回目");}return0;}


 何度、魔王を倒そうと待っているのは同じ結果だった。


 何度、殺し方を工夫しても何も変わらない。




intmain(void){for(   )

{printf("ループ399回目");}return0;}


 原因は、最初から明らかだった。


 魔王は私の敵。



 だが、世界を巻き戻したのは選定の剣の力。


 私が、巻き戻しの一年を繰り返すのは選定の剣の所為。


 剣は確かに時さえも支配している。


 支配しているが、それを制御できていない。



 一度始まった巻き戻しが、一年というループの中で何度も続く。


 止めてくれるよう願った。何度も願って、懇願し続けた。




intmain(void){for(   )

{printf("ループ443回目");}return0;}


 止まらなかった。


 一度聞き届けた願いは変えられないと言うように。


 選定の剣は、ただ一年を巻き戻し続けた。



 私は魔王を倒し――選定の剣を――砕いた。


 再び過去に舞い戻らないように……。


 リリスと、共にあるために。



















intmain(void){for(   )

{printf("ループ665回目");}return0;}


 もう、元の姿さえ思い出せない。


 もう、手足さえ無くなった。


 もう、選定の剣は――永遠に失われてしまった。



 川辺に身を起き、夜が明けるのを待つ。


 そこに彼女がやってきた。


 酷く強張った顔で――恐怖を浮かべ、私を見上げた。



「森人の方々に、異形が魔王軍を撃退してくれたと聞きました」


「――――」


「貴方が、その異形なのです……か?」



 これでも、元は人間だった。


 これでも、元は勇者と呼ばれていた。


 だが、もうそれを証明する物(つるぎ)は無い。



「0qdfiy:@yq@」



 人語を喋る口も、無くしてしまった。










int main(void){for (   )

{printf("不明");} return 0;}


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 j64t@ h.d:@i xeb@kbsf@6 feq


「全て徒労だったな」


「――――」


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強くてクソゲーム 山田野郎 @yamadayarou

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