ぶれない「芯」に支えられた情熱の波が押し寄せる、「好き」を形にした物語

「鳥が好き」だという作者さまの思いを、エンタメ小説として昇華させた、非常に完成度の高い物語だと思います。

恩返しのために人間(イケメン)の姿になった鳥たちが、ヒロインの家に押しかけて色々な騒動を起こすラブコメ……ではあるのですが、魅力はそれだけにとどまりません。
基本はコメディですが、時おり加わるシリアスの匙加減、さらにそこからハートフルへ感情を持って行きつつ、オチで「くすっ」と笑わせる、物語の緩急の付け方が大変素晴らしい……!

完結済の長編になりますが、テンポが良いのでするするっと読み進めていけます。大体「1話」で、丁度アニメの1回ぶんを視聴したような読み応えがありました。綺麗に纏まっていて中だるみが全くなく、流れるようにシーンが繋がっていく感覚が気持ちいいです(次回予告もついているのがすごく、それっぽいです)


人間の姿になった鳥男子たちは、行動や仕草、台詞のそこかしこに「鳥」の習性が垣間見えるのが楽しく、それを的確に見抜けるヒロイン・ななちゃんが頼もしい! 地の文がななちゃんの一人称なのですが、これ自分だったら絶対分からないだろうな、と思います。
合間に挿入される『鳥レクチャー』では、鳥について詳しい解説もしてくれるので、読んでいるうちに自然と知識もついて鳥を身近に感じられます。


そして何より、鳥と人間の違いや、ギャップの面白さをコミカルなやり取りで笑わせつつも、ただ「好き」なだけで終わらせないのが、この物語に深みを与えていると思います。

人間には「可哀想」「残酷」と感じてしまうような野生動物の習性でも、彼らにとっては「自然」であること。
人間が下手に介入してしまえば、却って生き物を傷つけたり、取り返しのつかない事態へ追いやることもある、ということ。

人と自然の関わり方、鳥と触れ合う上でのマナー、生態系や環境問題などなど、日々の生活においても心に留めておきたいことが合間にさりげなく、だけどしっかりと語られています。


鳥男子に押しかけられて、一見ハーレムかという状況でも、ヒロインの持つ強い「芯」はぶれません。孤独を抱えながらも、彼女は言います。
「ここは、動物園でもなければ、保護施設でもない」
だけど、自分から飛び込んで来たのなら、あたたかく迎え入れてくれる「家」があるならば、素敵なことだよなぁ……と「にんげんっていいな」を口ずさみながらしみじみ思ってしまいました。

気がつけば、登場人物と一緒になって笑ったり、泣いたり、ほっこりしたり。
物語に「波」を感じる、「波」に乗るのが心地よい……そんな感覚をもたらしてくれるこの作品は、きっと「鳥が好き」な作者さまだからこそ書けるお話なのでしょうね……!

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