第6話
結局その日のうちに蔵書の検索は終了した。あとは蔵書から手書きでコピーした大量の紙片から情報を整理して一つのレポートにする。それを基に吸血鬼の館へと向かう寸法らしい。それは別に構わないが、吸血鬼の館と聞くと何だか変な違和感を覚える。そこには吸血鬼がもう住んでいないわけであって、それを吸血鬼があたかもいまだに住んでいるように扱うのはどうかと思う。まあ、別に気にしないのかもしれないが。
日向はウキウキ気分で僕と冨坂に言った。
「明日も今日と同じ時間ね。それじゃ!」
そう言って鼻歌を歌いながら帰っていった日向。相変わらず自分勝手である。
それにしてもこれでシルバーウィークが三日潰れたことが確定になる。別にうちの家族がシルバーウィークに出かける予定があったかと言われると、別にあるわけではないが、とはいえ休みくらいゆっくりしたいものである。どうして休日にこんなことをしなければならないのか。ほんとうにあいつは自分勝手でワガママすぎる。やはり体験入部の件は今からでも遅くない。明日朝イチで言うべきだろうか、もう体験入部はお断りだ、と。
「あ、そうだ。今日も一緒に帰りましょうよ」
そう言ったのはもちろん冨坂だった。僕はそれを聞いて頷いた。頷くことしかできなかった。頷くことしか、しなかった。
帰り道。会話が弾むこともなく、僕と冨坂は歩いていた。
「吸血鬼。今日の昼ではあんなことを言いましたが、僕は実在していると思っているのですよ」
唐突に、そんなことを言い出した。
何を言っているのだ、コイツは? とか思ったが話を流さず、一応最後まで聞くことにした。
「吸血鬼は崇高な存在です。だって、夜の覇王ですよ、吸血鬼は。人の生き血を吸うことはありますが、魔力を帯びた存在では最強と言っても過言ではありません。特にこの世界は魔力について詳しい人間は少なくありませんが、それであっても純粋な悪魔は少ない。居ないと言ってもいい。そんな悪魔を、崇高なものだと考えられないほうがおかしい。むしろ、なぜ批判するのか? なぜ非難するのか? そうは思いませんか」
嫌な予感がしだしたので、僕は少しだけスピードを上げる。
けれど、それに追いつくようにスピードを合わせる冨坂。
気持ち悪いやつとは思っていたが、ここまで気持ち悪いとは思わなかったぞ!
「この街は吸血鬼の館がある。吸血鬼が住んでいたという伝承がある! 素晴らしい、素晴らしい街とは思いませんか? そして、僕の目の前に……吸血鬼の末裔が立っている」
ぴくり、と僕はそれを聞いて立ち止まった。
同時に冨坂も立ち止まり、ニコニコと僕のほうを見て笑っていた。
「……いつから気づいていた?」
「僕が持っている懐中時計ですよ。これ、実は『吸血鬼の力が封印されている時計』でしてね? 月の満ち欠けに応じて力の封印が変わる。そして今日は――」
冨坂が空を指さす。
空には、まんまるとした満月が浮かんでいた。
「――満月。一番魔力が高い日であり、この日は吸血鬼の力を呼び覚ますには、一番好機のある日なのですよ!!」
そして僕の視界は、漆黒に染まった。
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