第7話
「行方不明になった?」
彼の妹――名前はマリと言ったか、小学二年生なのにとても礼儀正しい子だ――から彼が行方不明になった旨の電話があったのは、私が帰宅して食事をして、シャワーを浴びたあとのことだった。
ジャージ姿でバスタオルを頭にかぶせていた私だったが、それを聞いて思わずバスタオルを床に落としてしまった。
マリの話は続く。
『そう。いつもなら夕ご飯の前には帰ってくるのだけれど、今日は連絡も無くて、それに遅いし……。だから、もしかしたら日向サンの家に寄っているんじゃないか、って』
「確かに今日は私と冨坂と一緒に行動していたが……だからといって私の家には寄っていないぞ。そもそも今日も市立図書館に一日こもりっきりで終わり次第解散したからな」
『そうですか……。ところで、冨坂サンの電話番号って知っていますか?』
「ん、まあ知っているよ。一応部員だからな」
『じゃあ、連絡してもらえませんか? 連絡網に載っていなくて』
「……何だと?」
クラスメイトが全員載っているはずの連絡網に載っていない、だって?
そんな馬鹿な、と思いながら私はスマートフォンのアドレス帳を開く。……スクロールしながら私は目を丸くする。
ない。
そこに、有るはずの、冨坂の連絡先がないのだ。
「……どういうことだ……!?」
『お兄ちゃんの携帯にも繋がらなくて……。ねえ、日向サン。一度、高台の館に行ってもらえないですか?』
「高台の館……吸血鬼の館、か? どうして?」
『なぜかは解らないけれど……うん、ちょっと嫌な予感がして。ほら、この街って吸血鬼の伝説があるでしょう?』
そういわれてみればそうだ。
だが、吸血鬼が人を攫うだろうか?
……いや、それよりも先に解決せねばならないことがある。冨坂についてだ。
彼は、彼の連絡先が、急に消えたのはなぜだ?
もしかして私たちは『彼の連絡先があると認識させられていただけ』なのではないか? 欺かれていただけなのではないか?
そういう結論に導けることは、とても簡単なことだ。
だったら、だとすれば。
簡単に一つの結論に導くことが出来る。
――彼が行方不明になった一因に、冨坂が関わっている。
そう考えたらいてもたってもいられなくなった。
私は財布とスマートフォンをポケットに仕舞い込み、外へ飛び出した。まだ親は起きている時間だが私にあまり関心を抱いていないので別にこの辺りはどうでもいいだろう。
自転車に乗り込み、ペダルを踏んだ。
目的地は高台の上、吸血鬼の館だ。
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