翌朝。

 近くに住む妖精総出で、何度目かの森神様の祭壇再建が始まった。いつも通りなら、半日あれば完成するはずだ。

 私も不備がないように森で開始から完成まで立ち会う予定だったのだけれど……起きたら昼になっていた。昼に、なっていた。

「寝過ごしたっ!?」

 当然だが、家の中には誰もいない。ここが向こうの世界なら不用心だと言いたくもなるんだけれども、こっちでは物が盗られるなんてことにはならない。元よりそういう悪いことをしようなんて妖精はこの国には滅多にいないし、あったとしてもやっぱり神様がどうにかして盗まれたものを元に戻しているらしいからだ。

──って、そんなことより!

 寝癖のついた髪と昨日の格好のままで、私は急ぎ明るくなった森へと走った。


「サラさま、こんにちは!」

「こんにちはー!」

「「「こんにちはー!!」」」

 森の入り口近くで、元気な声が聞こえた。入り口から中間地点までの材料運びを手伝っている、子ども達の集団だ。

「はあ、はあ、はあ……。こんにちは。みんな、仲良くやってる?」

 上がった息を整えながら挨拶を返す。

 そういえば、この子たちから「遊んで」みたいな手紙もたくさん届いてたって長老が言ってたなあ。今日は無理そうだから、今度はそうしよう。

「うん! ノノとナナがね、最近あんまりケンカしなくなったんだよ!」

「そうなの! 前はいっつもケンカしてたのにー」

「そうなんだ?」

 現在、この国にいる子どもと呼べる年齢の子は8人ほど。その中でも、今ここにはいない最年長のノノとナナはお互いライバル意識が強いらしく、何かある度に揉めていた。

「なんかね、最近楽しそうなんだよ!」

「二人だけでずるいよねー」

「ねー」

 同じ年の子は他にいないんだしできれば仲良くしてほしいと思っていただけに、これは嬉しいニュースだった。


「それじゃあ、奥を見てくるから。みんなもお手伝い頑張ってね」

「「「「「はーい!!」」」」」

 奥からも騒がしい声が聞こえてくる。

 完成までには、もう少しかかりそうだった。



「と、いうわけで。もう何回目か分からないけど、森神様の祭壇完成お疲れ様でした!」

「終わったあー!」

「やったー!」

「疲れたぞ……」

「でも前より良い出来じゃない?」

 午後5時。

 再建された祭壇を前に、皆が口々に感想を言い合う。これももう、見慣れた光景になりつつあった。

「じゃあ、この後はパーティーだなっ!」

「そうね!」

「今日は何する?」

「そうだなあ……」

 そして、その後に夜通し行われる大宴会も。


「こっちの生活も、もう9年だし。あっちから見ればおかしなことも多いけど、慣れるのは当たり前だよねえ」

『最初に会ったときはこんなガキが女王なんてって思ってたのに、それがもうそろそろ大人になるだなんて、変な感じだよ』

「時間が経てば歳をとるっていうのも当たり前なんだよ。神様達はどうだか知らないけど。それより、新しい祭壇の出来はどう?」

『とてもいいよ。木の生成が捗りそうだ』

 パーティーの準備をし始めた妖精達を見送り、私が一人森に残ったタイミングで森番が現れる。これもまたいつもの光景だ。

「今度は簡単に壊さないでよ?」

『……それよりぼくも聞きたいことがあるんだ』

 無理矢理話題を変えられた。 せっかく作ったのに、また壊すかもしれないってことだ。


「なに?」

『サラはさ。あっちの世界で大人になっても、こっちで女王を続ける?』

 さっきまでと変わらない調子で、珍しく真剣にそんなことを言う。

「そのつもりだけど、なんで?」

『この国ってさあ。小さいし人は減る一方だし正直これからどうなるか分かんないじゃん? だからさ、今までもいたんだよね、そういうやつ』

「へえ」

『反応薄いね、君。そういうわけでどうするつもりなのか聞いとこうって話になってさ』

 だって、そんなこと、聞かれるまでもないのに。

「少なくとも継いでくれる人が現れるまでは続けるつもりだよ。もちろん」

 年数だけで言えばもう人生の半分近く、ここで過ごしてきた。現実味がないとか小さいとか未来がどうとか、30時間しかいられないとかは私にとって些細な問題に過ぎない。

『そっか。それじゃ、これからもよろしく、女王様』

「こちらこそ」

 最後にそれだけ言って、さっさと森神様はどこかへ帰っていった。


 午後6時。

 向こうに帰るまで、あと9時間。まずは、これから始まる大宴会を楽しんで、たくさん話をして帰ろう。帰ってようやく慣れてきた大学生活に戻ったら、単位だけは落とさないように気をつけて楽しく頑張ろう。

 どちらも私にとって大切な世界。

 けれども今度は2週間で、こっちにまた帰ってこようと思った。たくさんの紙の山が部屋を埋めつくすほど溜まってしまわないうちに、きっと。

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小さな女王 香崎凪 @skyblue_125

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