最強の召喚物を、禁忌魔法で呼びだす。
ルニエ・ツェルニク召喚士(以下ルニ)が、進退をかけて挑んだ召喚魔法は、みごとに失敗。
召喚とは逆に、自分の身体を、異世界――地球――に転移させてしまった。
だが、そこで一巻の終わりとはならなかった。
そこで出会った柊颯太は、古武道の剣術をたたき込まれた最強の男だったのだ!
ルニは、彼を召喚物として、彼女の世界に連れ帰ることを決意した――。
地球を異世界だと捉えた逆転の発想!
そのアイデアを成立させるじっくりと作り込まれた世界観。
それが、草詩さまのたしかな筆致のおかげで存分に堪能できる。
ルニと颯太、話ごとに視点が交互に変わるので、ストーリーを二倍楽しめた。これも筆力のなせる技だろう。
世界観だけではなく、キャラも生き生きとしていて、とくに研究熱心なルニがかわいらしい。
できれば、2万文字の制限数を気にすることなく、充分なボリュームで書かれた本作を読んでみたかった……。それだけ「もっと読みたい!」という読書欲をかき立てられた作品だった。
異世界からの召喚に失敗した召喚士ルニエは、逆に自分が異世界に行ってしまい、そこで彼女は本来召喚するはずだった柊颯太に出会う。異世界、すなわち現代の科学技術に驚くルニエだが、やがてやって来る「振り戻し効果」によって、二人は、今度はルニエの世界へ飛ばされてしまい、そこで無茶なクエストを強制され……。
通常は現代から中世ヨーロッパ的な異世界に飛ばされて、主人公が驚く話が異世界物のスタンダードなのだが、ここでは逆に異世界から現代もしくは現世へ飛ばされてきた魔導士の少女が驚嘆するところから、話がはじまる。
ただし、ストーリーはそこでは収まらず、現代で出会った少年とともに少女は元いた世界へ逆戻り。二人で大冒険をすることに。
これを少年の視点から見ると、異世界からきた可愛い少女と出会って、そのあと自分も異世界にいって大冒険しちゃうよぉ~という二重構造になっている。
このサービス精神旺盛な異世界ファンタジーを、作者はそれ相応な適当魔法設定で誤魔化さず、召喚の理論解説や、異世界で言葉が通じる現象なんかを、きちんと解説しつつ、その上に立脚したストーリーを組み上げて行っている。そのくせ軽くて、読みやすい。
ぎりぎり二万文字という分量があるはずなのに、途中で飽きることなく、まるで一万文字くらいの感触で一気に読めるのは、お気楽そうなストーリーに走る、設定という金糸の効果であろう。
今回の日帰りファンタジー・コンテストの作中では、小説構築度としてかなり高レベルであると思う。そのくせ軽く読みやすい。
だが、小説完成度が高いと、逆に荒も目立つ。不要な描写で文字数を消費し、必要な解説がなされていない部分があると感じられる。
必要なのに為されていない解説は、陣太刀だろう。おそらく読者にとって馴染みのない武器である陣太刀については解説の必要があるはずだ。さらにそれが、ロングソードとどういう相性であるかは伝えねばならないことだ。ルールのあやふやなバトルは、読者に緊張感を与えられない。オフサイドを知らずにサッカーを観戦するようなものだ。
そして不要な描写は、「お母さん」だ。「お母さん」は、颯太以外とも言葉が通じるかを知る上で設定上必要に応じて登場したキャラクターだが、その設定を説明するならば、ルニに颯太の本棚にある本の背表紙を一瞥させるだけで足りるのではないだろうか?
また、わき役キャラの行動の理由が明確でないのも少し気になるが、文字数的にそこまでは難しいかもしれない。
長文になってしまって申し訳ないが、作者さまがプロ作家を目指されているということなので、多少辛口に、余計なことまで指摘させていただきました。
どういった作品かは、他の方のレビューに譲ろう。
この作品の特徴は「世界観がしっかりしているのに読みやすい」ということだ。
ただ判りやすい言葉で平易な文章を書いても読みやすくはならない。
読みやすい作品を書くには、必要なものがいくつかある。
整合性のとれた世界観
説明的な部分を極力排除できるストーリーと文章の構成力
特徴のあるキャラクターと動き
丁寧かつテンポの良い描写……などだ
これらをうまく文章に落とし込んでいかないと読みやすい作品にはならない。
この作品を読むと、作者さんの力量と丁寧に組み上げていっただろうことがよく判る。
次に、この作品の特徴は、異世界と日帰り可能になるまでを描いている点だ。
多くの作品が、日帰り可能な状況の下での作品を描いているのと異なっている。
これによって読者は、作品内登場人物のこれからを想像、期待できる。
つまり「続きを期待させられる内容」になってる。
もちろん、この作品自体が面白くなければ続きを気にする読者は居ないだろう。
だが、この作品は読者に続編を期待させることに成功している。
ここでも作者さんの力量が現れている。
短編でありながら、作者さんのスキルの高さが存分に感じられるとても楽しい作品でした。