「いま帰り来む」

第21話 エピローグ


「逝っちゃったな……」


 私のひいおじいちゃん。


「しばらく『先輩』はお預け。私は戸塚翼とつかつばさの『ひ孫』だ」


 もし、私にも時が来て、また向こうで会えたのなら。そのときはもう一度、「先輩」と呼んでもらおう。私も「翼」とその名を呼ぶから。



 きっと今頃、病室に家族が殺到しているだろう。あー、ママに怒られそう。こんなときにどこ行ってたんだって。夜明け前にこっそりおばあちゃんちから出てきたからな。今すぐ何事もなかったかのようにおばあちゃんちに戻るべきか、それとも「ひいおじいちゃんが夢に出てきたんだ! だから急がなきゃと思って、一人で病院にかけつけたの」とか言って病院に行くべきか。


 まあいっか。私にとっては、どちらも大差ない。


 だって、ちゃんとここにあるから。大切な約束が。大切な人が。大切な思い出が。


 そして、おばあちゃんちよりも病院よりも、一番に行かなきゃ行けない場所がある。








 部室だ。











 ✳︎


 100年前と何も変わっていない。そう言えば嘘になる。しかし、学校に着くと自然と足が目的地へと動いた。途中、知らない廊下や教室があったけど、部室の位置は変わっていない。



 この学校は、もう取り壊されていた。



 しかし、部室のあった棟はまだ手がつけられておらず、しっかりと残っている。


 部室の扉を開ける。鍵はかかっていなかった。


「うわぁー、もぬけの殻!」


 何もない。だけど、この部屋の独特な埃の匂いは健在だった。なんだかソワソワする。


「ええっと、確かこのハリボテの壁の隙間に……あ、あった! これだこれだ!」


 一通の手紙を私は手にする。


 それは、グリーン活動部の部長のみが知る事実。それを、先程二代目部長が初代部長に教えてくれた。


 急に姿をくらました初代部長への手紙。それを部室に隠しておく。場所、事実を知るのは部長のみで、部長は何があってもこの手紙を守り抜くこと。そして、自分が引退するとき、次期部長にそれを伝える。


 翼はどうやら、私と翼が松の木の下で会うだけでは満足しなかったらしい。

 他のみんなにも会ってもらいたい。だから、もう一度、部室に来てほしい。そう思って、手紙を部室に仕込んだという。


 もう、冴島さえじまさんや高島たかしまくんがどこにいるのか、そもそも生きているのかさえわからない。


 それでも、私は部室ここに。


「ちゃんと、帰ってきたよ……!」


 手紙の封を開けて出てきた写真。そこに写る4人の笑顔に向けて、私はそう声をかけた。


「みんな、いい顔してる……」


 それに対して、私の目には涙が溢れてくる。


 松の木。アンタ、とんでもないお節介してくれたな。


 なんなの。こんなの、こんなの、寂しいだけじゃない!


 もう、会えないなんて。たった3ヶ月だけの、だけど掛け替えのない大切な仲間。彼らに会えないなんて。






 そう思って、打ちひしがれていたときだった。




 ____何言ってるんですか、先輩。俺たち、ちゃんといますよ!


 写真の中の高島くんが笑った。




 ____ほら、女の子は笑ったほうが可愛く見えるんですよ! 先輩、いつもみたいに笑って。


 今度は冴島さんが微笑む。




 ____先輩。約束、忘れちゃったんですか? 僕らは何度でも会います。たとえ、時空を超えても。何年経とうと。


 翼が優しく語りかけてきた。




 ああ、そうだ。

 私たちには、松の絆があるんだから。



「……そう、だね。私たち、また会えるよね」














 立ち別れ





 いなばの山の 峰に生ふる





 まつとし聞かば いま帰り来む
















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まつとしきかば 金木星花 @kaneki-hoshika

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