四
それから俺達三人はギブアップした。
余ったカリカリ君は冷凍庫に閉まって、食べてる途中のカリカリ君を命懸けで食べた。
終わった時、俺達三人は生まれたての子鹿あるいは砂漠で死にかけの子鹿の様だった。
「うぅ。」
「いてええええええ!!」
「ぅ……」
ただ単に叫んだり唸ったりする三人。これを他の人が見たら変な集団だと思われる事間違えなしだろう。
アイスクリームでここまで死にかけたのは生まれて初めてだ。
「当たった」
寒さで声が震えている友香がそう言った。友香を見てみると当り棒だった。だが、友香は嬉しそうではない。俺も嬉しくないし聖来も同様だろう。
だって、冷凍庫に二十七本あるんだから。
「おめでとう」
とりあえず、当り棒を出した友香に言った。すると、無言で小さく頷きながら毛布へ帰っていった。
まだエアコンは十八度の強風だ。
「で、では、この第一回『アイスクリーム早食いコンテストッ!』を中止しま……」
「聖来っ!?」
聖来はパタッと倒れた。それを見ている友香も寒さで目が死んでいる。
これはまずいーー、
「失礼する。二年B組 西条凛花せいじょうりんかだ」
今かぁぁぁあ!!今来ないでくれ!絶対に誤解を招いてしまう!!そう思いながら入ってくるなと願ってると、扉が開かれた。
そこには黒髪ツインテールのアイドルみたいに可愛い女の子が居た。何故か左目を閉じている。
「ふっ、予想通り……。この部に決定する。我が名はダークプリシア・エルネッタン!精霊術解放魔力保有者ーー冥界の女神ヘル様から御加護を受け、この右腕には『サタルシファー』を宿している。」
中二病か!?それどころじゃねええええ!!
とりあえず、エアコンのリモコンを探して窓を開けねえと……この二人本気で死ぬっ!
「更にこの左眼には天使族序列三位であり風の使い魔リーファとの戦闘時に手にした『闇ノ魂ブラック・ソール』を秘めている!この目を見たものは最後……二時間で命が絶たれる」
「不吉なこと言うな!とにかくその、リーファさん、リモコンを探してくれ!エアコンのな!俺は窓を開け……」
「ん?リーファは我ではない。我が名はダークプリシア・エルネッタン!以後お見知り置きを」
「はいはい、エルネッタンさん頼む、命の危機なんだ!」
「なっ!?まさかもう組織の反逆が始まったとでも言うのか……っ!?精霊結界術式の際に解放魔術零式を施したはずなのに。良かろう!出てこいっっ!」
あー、ダメだこの人、自分の世界に酔いしれてる。
ピッ。と音がした。
エアコンの音だ。何故エアコン……と思いながらエアコンを見るとエアコンが止まった。
そして、中二病に目をやるとエアコンのリモコンを持っているではないか!良くやった!
俺は急いで窓を開けた。
「ありがとう!中二病!おい、聖来!しっかりしろ!友香っ!お前意識あるかっ!?」
「中二病ーーそれは思春期を迎えた中学二年の時に起きる病、夢見がちな妄想が膨らんで自分には特別な力があると思い込んでしまう痛い奴らと一緒にするな、私は強いのだ!」
「一人称私になってるぞ」
「う、うるさいもんっ!で、何故こいつらは死にかけている?まさか貴様がやったのか?」
「ちげえよ!カリカリ君にやられたんだ!」と言った後、俺は何言ってんだ?と自分で思った。
カリカリ君にやられたって何だよ。
「とにかく、エアコンありがとう!」
「えっ……?う、うるさい!」
何故か怒られた。その中二病の顔はマグマのように赤くなっていた。熱でもあるのだろうか?
「暑いのか?」
「熱くないもん!黙れ!」
「ってか二年生かよ!?」
俺は制服のリボンに初めて気が付いた。
女子のリボンは、一年が赤、二年が青、三年が緑で中二病は青色のリボンをしていた。
「あぁ、それなりの敬意を払え!と言いたいが、入部させてもらいたい」
「本当?」
聖来が復活して中二病に食いついた。
友香も毛布から身体を出してゆったり座っている。
「あぁ、この西条凛花せいじょうりんか改めダークプリシア・エルネッタンを副部長にしてくれ」
「了解しました、入部届けを……」
「えっへん!もう書いてきたのだ。偉いだろ!」
「よしよし、えらいえらい」
聖来が西条凛花の頭をポンポンしている。どっちが先輩なのか分からない光景だ。
それにしても、こんな部に良く入部しようと考えたものだ。
「なんで僕の部に入ろうと思ったの?」
「うぅ、あのね、楽しそうだったの、だからね、お友達になって欲しいなって」
「そっか、これからよろしくね、凛花ちゃん」
「あ、ありがと。」
何だろうか、見れば見るほど幼く見えてしまう。別に見た目が幼女とかでは無いんだが……精神年齢が低いのだろうか?
「ナデナデしてくれないの?」
「あ、そうだね、凛花ちゃんはいい子だもんね」
聖来が再び頭を撫でる。
凛花はニコッと満面の笑みを見せる。心の底から喜んでるのを感じた。
「わた……我を副部長にしろ」
「凛花ちゃん、人にお願いする時は偉そうにしちゃダメだよ?」
「うぅ、わ、我はダークプリシア・エルネッタンッ!あの冥界の女神ヘル様から御加護を受けているんだ。見ろ!この左眼を!」
凛花は左眼を初めて開けた。
その目は赤いーー真っ赤なカラコンを付けていた。
「かっこいいね」
「うんっ!えへへ、わたしね!人間の領域を越えてるの」
「流石凛花ちゃんだね」
聖来から母性を感じたのは多分初めてだ。
「うぅ、ぎゅ〜っ!」
そう言いながら凛花りんかは聖来を抱きしめた。もう懐いてしまっている。
「ふふ、凛花ちゃん副部長さんだもんね、楽しもうね」
「うんっ!」
そして、あの聖来が微かに口角を上げた。
それには友香も驚いたようで、目をクリッとさせている。
こうして、新しい部員ーー西条凛花先輩が入部した。
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