第一章 隠しきれない物って誰にでもあるよね!

 



 今日は金曜日。長かった授業が終わり『カニボタ部』部室の二人がけソファに座り俺は本を読んでいた。友香はまだ来てなくて俺と聖来二人だけだ。




「選択肢は『A.公園デート、B.水族館デート』じゃなくて、お家デートが欲しかった。別に水族館デートも悪くなかったけど……」




 丸渕メガネでブルーのリボンを付けた黒髪ショートカットの少女ーー姫崎聖来(ひめさきせいら)は優しそうでリア充オーラが満載、美少女と言うより美人と言った方がしっくり来る様な女の子、聖来が独り言をブツブツ言っている。




「……英二くん、少し『エロちゅアムアムVII』に集中したいので、存在感を皆無にするか消えてください」




 表情一つ動かさず言葉も単調的な聖来からは感情が全く伝わってこないので会話が成立しない事が多い。

 一つだけ言えるのは彼女が居なければこの部は無かったという事だ。



「これまた変なゲーム名だな」


「……」


「作ったヤツの顔が見てえ」


「……」


「もっと普通な事したらどうだ?」


「……」


「今日湿気凄いよなぁ、雨も降ってるし」


「……」


「この小説読むか?最後のオチ笑えるぞ」


「……」


「あ、そうそう、四時間目体育だったんだが、田中先生がネコ耳付けてさ」


「……」


「その後、昼食の時間でさ田中先生猫被ってるんじゃないかって。猫だけに」


「……」





 これが聖来せいら。自分の世界に浸ってるのか、無視をしてるのか分からないが会話が成立しない理由の一つだ。


 聖来は部室にある4Kテレビを付け、SPS本体に『エロちゅアムアムVII』と書かれたディスクをセット。そのまま操作リモコンを両手にゲームを始めた。

 青い猫耳型のヘッドホンを装着して完全にゲームの世界へ行った。



 その時だった。



 ーーガチャ。



 ブロンドロングヘアでサファイアの様に輝いた目、フランス人形みたいに可愛らしい少女ーー白石友香(しらいしゆうか)が扉を強く開けた。

 赤いTシャツに中学の時履いてた制服のスカートを着用している少女は貧相で病弱な印象がある。



「聞いて、私、蚊に刺されたの、もう死んだ方がいいかな」



 俺に噛まれた場所を見せる為だろう。友香は顔を天井に向けて喉仏を見せた。

 その首筋は真っ赤に膨れ上がって痒さが身にしみて伝わってくる、それも三ヶ所噛まれた後があった。



「簡単に死ぬなよ。確かに痒そうだが」


「痒い?そんな簡単に言わないで貰える、?やっぱり英二が死んで」


「授業は普通に過ごしてたじゃん。痒くなかったのか?」



 友香と俺は同じクラス、俺が唯一クラスで会話出来るのはコイツだけだ。

 俺が見てた限り痒そうな素振りをクラスでは見せてなかった。



「六時間目終わった時に痒いって気付いたの、悪い?」



 友香もクラスでいわゆるボッチだったり一匹狼と言われるポジションに位置している。



「別に悪くねえけど……確かにそれ痒いだろうな」



 まだ顔を上げて噛み口を見せてきてる友香ゆうかに同情せざるを得なかった。

 その友香は漸く顔を戻し視線を俺から見て右側へ持っていった。

 そこには聖来せいらが荒い息を上げながら無口でエロゲーなのかギャルゲーなのかをやっていた。



「あ、友香おかえり。待ってたわけじゃないけど元気そうで良かった」



 友香から出る病みオーラと美少女オーラ二つは存在感の塊でしか無くて、流石の聖来も気付いたみたいだ。



「嫌味?」


「違うよ、こんな湿気高いのに綺麗な髪を維持出来てるのは精神的余裕と肉体的疲労の少なさがあるのかなと、僕は思ったんだ。別に友香を観察してる訳じゃ無いから」


「何、嫌味?」



 また友香が聞く。一回目より声のトーンが低くなって、どんよりとした顔を見せた。

 その顔を見た聖来は猫耳型ヘッドホンを外して立ち上がった。



「何かあったの?話ぐらいは聞いてあげる」


「聖来に話した所で解決しないもん」


「する、してみせる。だから言って」


 妙な自信を持ちながら強引に話す。

 その聖来を見ながら、友香は涙ぐむ様にしてーー、



「蚊に刺されたのーッ!」



 普段クラスでは絶対見せないだろう、そんな声を出した。決して大きな声ではないが白石友香しらいしゆうかにしては大きい声だ。



「なるほど……見せて、あ、すごい」



 首元を見せる友香に口では動じるが身体や表情はピクリとも動かない聖来。



「蚊に刺されるって懐かしいね」


 不意に聖来が呟いた。


「お前蚊に噛まれたことないタイプのやつか?」と俺が聞くと、


「違う。確か『6人美少女ウキウキパラダイスII』の立川紗枝たちかわさえちゃんストーリー終盤の選択肢にあったの」


「選択肢?」


 コクリと頷き、話を続けた。


「主人公がキャンプで蚊に刺されるシーンがあって、紗枝ちゃんが聞いてきたの。『あなた何型?』って。」


 右手でメガネを触り全く表情は動かないが、口調が早くなってきた。


「選択肢は4つあった。

 A→AB型

 B→A型

 C→B型

 AB→O型

 この四つの中から選択するシンプルな選択肢で、僕は本編に影響が少ないと思ってしまった」



「ややこしい選択肢だな、AをA型、BをB型にすりゃいいのに」



「で、私は自分の血液型を選択してしまったの、勿論ABをね」


「ん?それはABのOの事か?それとも、AのABか?」


「ABのOだよ、当たり前でしょ?そんな事も分からないのに良く生きてるね」


「知るかよ!」


 俺がツッコミを挟むと、友香が首元を擦りながら言った。



「で、なに」



 だいぶ機嫌が悪い。それは聖来にも伝わったのだろう。またコクリと頷き話を再開した。



「ABのOを選んだら紗枝ちゃんが言った『Oなんだね。ごめん、一番蚊に噛まれやすいO型の人生理的にムリ。シネ。』って」


「なんだそのゲーム」


「僕はその日泣いた訳じゃないけど布団の中で数時間涙した。紗枝ちゃんが好きだった訳じゃない、けど50時間プレイして、やっとエンディング……って場面で『血液型がOだから』ゲームオーバーになったんだ」



 そりゃ、泣きたくもなるだろうよ。

 俺はどんな声をかけてあげれば良いんだろうか。



「で、それと私の刺された事と何か関係あるの?」


 友香が聞いた。痒いからなのか、どんどん機嫌が悪くなる。


「ある。友香は何型?」


「私はA型だけど、何?」


「A型って一番刺されにくいんだよ。O>B>AB>Aなんだ」


「へ、へぇ……でも刺されたもん」


「僕、『6人美少女ウキウキパラダイスII』をプレイして感じたんだ。血液型で性格決まるやつ何なの?って。」


 顔では判断出来ないが、聖来も怒ってないか……?気のせいだろうか。


「AB型は天才肌。ならAB型全員が何かしらの世界で一流になってるはずだよね。それは本人の努力不足って言われたら、その時点で『天才肌』では無くなるわけ」


「何が言いたいんだ?」


「天才肌って、努力するジャンルや力も踏まえて天才肌だと思うの。なら、その時点でAB型=天才肌は矛盾しない?」


「確かに、私A型だけどそんな几帳面じゃないかも」


「でしょ、O型が大雑把。これ誰が決めたの?」


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