ヤンデレとボクっ娘がオレの恋愛を全力で妨げてくる件

ねる

プロローグ

 






「私が最初に吹かせるから、覚悟して」



 そう言うのは、同じ『カニボタ部』部員の白石友香(しらいしゆうか)



「先手やるよ、オレの力作は残しておかねえとな」



 友香ゆうかは部室のソファーから立ち上がり、ホワイトボードの前に移動する。

 その際に小さく息を吐いた。



「や、やる……けど」



 無愛想な口調で俺にそう告げる。普段よりも増して肌が色白に感じれた。


「緊張するなよ、二人だけだろ」

「わかってる」


 俺も友香が何をするのか、いや……それ以前に何が出来るのかが想像出来ないので、案外楽しみにしていた。すると、



「け、けろっ……けろっ……うぅ、」



 うさぎ飛びをし始め、ケロケロ鳴き始めた。

 何がしたいのか分からないので、考えていると、



「もう一生やらない 何でスベってる空気流れるの?」


「え、今のネタか?それは笑えない」


「くぅぅっ……つ、次、英二えいじ」


 頬を赤らめながら、冷たい視線で俺を見つめる。どこか目が潤んでいるように見えた。


「こう見えてもな、オレはお笑いにはうるさいんだ 色んな本を読んで習得した良作の数々がある」


「何回も聞いた、早くして」


「お笑いはモノボケやモノマネと言ったジャンルもあるが、やはり『トーク力』だ」


 俺は誇らしげに語ると、自信作から発表する事にした。



「では、聞いてくれ これが本物のお笑いだ 『みずとちゃ』これは可笑しいぞ、面白すぎてな」


「期待する」


 可愛げがある声には感情があまり入っていない友香、しかし関心している様子でソファーに座りながら俺を見つめた。



「昔々ある所に一人の若者が脱水症状になっていました。それを見かけたお爺さんは『こりゃ……こりゃあ、大変じゃのう』と笑みを浮かべながら飲みかけのコップを渡しました すると、『水を飲むぐらいなら死んでやる』と若者……」


 よし、良いぞ、声のトーンはなかなかセンスがある。練習した甲斐があった。

 だが、ダメだ、俺が吹いてしまいそうで、声が震えてしまってる。少し呼吸を整えねば。


 俺は溜息を付き、続けた。


「お爺さんは『何故飲まんのじゃ?』と聞くと『お前の飲みかけ飲むなら飲まん』という名言を残して若者は倒れました その時、水の入ったコップに茶柱が……ふ、ぷっ……立ちました 終わり」



 二秒ほどの静寂があって、俺はウケていない事に気付いた。



「何で笑わない?」


「え?笑う要素無かったよ」


 蔑むように俺を見てくるのは良してくれ。


「ある!まず、この設定だけど、実は江戸時代でさ、若者は武士って設定なんだ それからーー」


「わ、わかる訳ない」


「ちょっ……なら、次は『畑からやってきた赤ボールペン君』だ」


「飽きた、ちょっと寝る」


「お、おい、せめて聞いてくれ、昨日の夜ちょっと徹夜して練習してたんだから」


「鬱陶しい」


 胸に突き刺さる様な言葉に俺は気付かされた。スベッたという事実に。


 その言葉を残した後、持参して部室においている友香専用枕をソファの端に設置すると、友香は睡眠体制に入った。その時、



 ガチャッ。



「僕は待っててって頼んでないけど、お礼はしてあげる、ありがとう」


 扉をノック無しで入って来たのは『カニボタ部』部長の姫崎聖来(ひめさきせいら)



「あ、ごめん、もう俺たち発表し終わってさ、お互い病んだというか……出来ることなら察して欲しい」


「私は病んでないけど、英二は病んでるみたい」


 いや、俺と同じだけの打撃を友香も受けているはずだが、まるで『私は英二から大爆笑されて拍手が止まらなかった』と言わんばかりのドヤ顔を決めている。



「聖来見せて」


「友香に言われなくてもやる」



 普段、超絶リア充オーラを放っている聖来だが、部活以外では無口だ。

 そんな彼女が持ってきたお笑いネタは興味が湧いた。

 聖来は眼鏡を外して机の上に優しく置き、俺たち二人を優しい眼差しで見つめた。



「ちゃんと聞くんだよ 僕の超大作、全米が震撼して笑い転げる作品の一つ」



 咳払いをして、喉のコンディションを整えた。少し背伸びをして気合いを入れた後、立ち上がった。


「そんな作品なら楽しみだな」


「私の為にネタを見せるんじゃないとしても、聞いてあげる」


「それでは……僕の超大作……」



 どうやら友香も興味あるようで、横になっていた身体を起こして聖来に身体を向けた。

 俺も聖来に注目する。



「みずとちゃ」



「「それは止めてくれ」」



 俺と友香は珍しくハモった。







 これは『家族のように日常を送るボク達の部』通称『カニボタ部』の部活だ。


 活動内容は、ゲーム、読書、アニメ鑑賞、テスト勉強、食事、睡眠、修羅場を発見したら解決に導く、恋愛相談に乗る(多分、俺を含め三人は恋愛未経験)など。

 これだけでは何をしたい部なのか分からないと思う、俺も理解出来ていない。


 だけど、部名そのままの通り、家族の様な関係を築き、まるで我が家のような安らぎを与え、より良い学校生活を送る部なのだ、と聖来は話していた。




 どうして、ネタを見せあったのかと言うと、唐突に友香が言い放った言葉が原因だった。



「英二って、面白くない」


「何だ急に、面白くないとは何だ」


「英二って、面白くない」


「二度も言うな、なら友香は何か面白い事出来るのか?」


「できる、英二よりは」


「なら、勝負しよう、明日ネタを見せあって吹いた方の負けってのはどうだ?」


「それ乗った」



 俺たち二人は決闘を約束した。



「僕も誘ってほしいって思わない」


「なんだ、聖来もやりたいのか?」


「い、良い、僕は……センスがありすぎるから」


「なら聖来もやろう、どうせ暇なんでしょ」と友香。


「誘われたのであれば、受けない手はない」



 確かに俺達は多分だが暇な集団だ。

 この二人の事はあまり良く知っていないが、暇なんだろう。

 すると、小さな声で聖来が言った。



「誘ってくれてありがとう、ゆうか……」



「何か言わなかった?私にはどうでもいい話だけど」



「何でもない、ばか」



「うぅ……私、お笑いのセンスは負けない」



「別に友香を敵と判断した覚えはないけど、明日たのし……じゃなくて、木端微塵にしてあげる」




 ……こうして俺たちは翌日、全力でスベりあったのである。












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