二
「僕が『エロちゅアムアムIII』でみぃちゃんのファッションセンスに萎えてしまった時期があったんだけど、IVとVのストーリーみたら感動した。本当にやって欲しい。やるならII、Ⅰ、IIIの順で……」
「そのゲーム何作出てんだよ!」
「16作出てる。4作は特別編、1作はSPS本体パッケージコラボの時に付いてくる特典版で本作はⅩⅠまで出てる」
珍しく聖来が熱く語っているが、無表情なのに変わりはない。
「で、この前『チューじゃなくてチュッ!チュッ!変わり身の俺が○○と恋をする!?』っていうクソゲーやった時。最悪な展開があって」
「ふみゃ、ぅんっ、」
聖来が一生懸命話してる隣で眠っているのは友香。よっぽど疲れてるのか分からないが、良く寝ている。蚊に噛まれて泣きかけてたのが嘘のようだ。
「運営にクレーム入れようか悩んだ唯一の作品でね」
「え、あの血液型のヤツはクレーム入れようと思わなかったのか?」
「『6人美少女ウキウキパラダイスII』はⅠのシナリオが良かったので文句が言えません」
「あ……そう、」
「『チューじゃなくてチュッ!チュッ!変わり身の俺が○○と恋をする!?』はこれも選択肢なんだけど」
「うむ」
「あなたの髪型は何?って近藤明日香こんどうあすかが聞いてきた。
選択肢は5あって……
A→前髪パッツン
B→短髪
C→右分けロング
D→モヒカン
E→左分け襟足長め茶髪
この五つだったんだけど。」
「えぐいな、これまた」
「僕の髪と一致するのが二つもあった。AかBどっちを取ればいいの?」
「あ、確かに俺もB当てはまるわ」という俺の声を食うようにして聖来は続けた。
「ちなみにAを選択したら、明日香ちゃんが『パッツン男クソかな♡』って言って口を聞いてくれなくなった」
『エロちゅアムアムVII』のディスクを直しながら話を続ける。
気持ち良さげにむにゃむにゃ寝言をいう友香とは正反対にピリッとしている。
「Bを選択したら『短髪とかキモイね♡』って。だからC選んだのそしたら『ロングとか男のくせにキモッ♡』って言われたの。Dが正解なのかな?と思って選択したら『え、モヒカンとかダサ♡』ならEしかないんだけど、『茶髪とかチャラすぎ乙♡』って。」
拳をギュッと握ってプルプルさせている、やはりさっきから機嫌が悪い。
だけど相変わらず無表情で何を考えてるのか一目だけでは分からない。
「無理ゲーだったんだ。当然ネットで叩かれてたんだけど、運営は『これがチューじゃなくてチュッ!チュッ!変わり身の俺が○○と恋をする!?の面白さです。分からない人はプレイしないで下さい』と言った」
「運営クソかよ」
「そう。だけどクレーム入れなかった理由があって、シナリオ書いた人が『らんらんるんるんラブん』のIIと特装限定版を手がけてたから言えなかった。闇ヤミ先生に文句は言えないからね」
「はぁ……」
まるで何のこっちゃ分からない話を聞いていると、チャイムが鳴った。
このチャイムは18時のチャイムだ、そろそろ帰宅する時間でもある。
なので、俺は自分の小説を机の上からスクールバッグに入れて帰る準備をする。
チャイムの音で友香も目覚めた様で、ゆっくりと起き上がった。
「かゆいぃ……」
やっぱり、まだ痒いみたいだ。友香はあくびをしながら立ち上がり専用枕をギュッと抱きしめて聖来に視線を送る。
「今さらふぎりゅんだけど、この部って」
まだ覚醒してまもないから呂律が上手く回ってない。
しかし、寝起きで枕を抱きしめながらソファに座る友香は絵になっていた。言葉で言い換えるとしたら『天使』以外の何者でもないだろう。
「何のためにあるの?」
唐突に友香が聞いた。
帰る準備をしていた聖来の手が止まり三人の間に静寂が生まれる。
外から聞こえる他生徒の声やカラスの鳴き声、自転車のベルや車のエンジン音が微かに聞こえる程度。
「やっぱり私の声って誰にも聞こえないんだ、いいんだ、」
友香が自己嫌悪に陥った、いつもなら『聞こえるよ、友香。でも僕は聞きたくて聞いてるわけじゃないけど』とか言う聖来だが、まだ微動だにしない。
「ごめん、友香、まだ言わない、ごめん」
聖来がいつも通り無感情で言うと友香は残念そうに俯きながら枕を強く抱きしめた。
すると、聖来はスクールバッグを片手に部室を飛び出した。
ギャルゲーを片付けずに帰るなんて聖来らしくない。
「聖来!?」と俺は叫んだ。
聖来が走ってる姿を初めて見たから動揺もしていた。聖来でも走るんだなぁ、と。
「あぅっ……!」
スリップした様な音と悲鳴に近い小さな声が廊下から聞こえ、俺と友香は部室の扉から顔を出す。
そこには転けた姫崎聖来が居た。
俺たちに気づいたのかして一度こちらに振り返るが、そのまま廊下をかけて行った。
左足を引きずってるので心配だ。
追いかけようか悩んだ時、足音がこちらに向かっている事に気づく。聖来が走っていった方と逆側だ。
「にゃんにゃ、おかえりにゃ?にゃかにゃか良い部にゃね!」
「あ、田中先生。まあはい、帰ります。はい。」
「どうしたのにゃ?ふぁぁぁ!!かわゆいにゃん!友香にゃん!かわゆす!」
田中先生は深呼吸をして一度心を落ち着かせながら、心の叫びを訴えるようにして、
「俺の連絡先要らないか?」とイケボで言った。
田中先生とは今年五十五になる俺と友香の担任だ。始業式に色々あって語尾に『にゃん』を付ける様になった。
友香は田中先生が嫌いなのかして、足早に帰っていった。
「あ、すいません、さよなら」
「にゃにゃ!?お前だけずるい!友香ちゃんと2人っきりとかずるい!どうせやったんだろ!どうなんだぁぁぁあ!?」
まるで先生とは思えないが、なんとこの高校で20年間教師をしていると言うのだから驚きだ。
「俺も帰りますね、あ。そういや田中先生の猫耳面白いって評判ですよ、頑張ってくださいね」
俺は友香の後を追った。
田中先生は跪いて「面白いじゃなくて可愛いカッコイイ付き合いたい抱かれたいっていわれたいのぉぉぉおお!!」と叫んでいた。
危ない大人だ。
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