今日はカニボタ部のビックイベントがある。

 ビックイベントと聞いたらコンサートや握手会、コミケや絵師のサイン会など思い浮かべると思うが、それとは違った。


 ビックイベント……今回は『アイスクリーム早食いコンテストッ!』だ。

 会場はここカニボタ部。一本八十円の国民的アイスーーカリカリ君ソーダ味を早く食べると言うものだ。


 何でも、『エロちゅアムアムVII』で金崎里奈が『カリカリ君を豪快に食べる男の子惚れちゃうなぁ♡』と言っていたらしく、聖来がこの企画を発案した。



 実は俺、アイスクリームの味は好きだが食べれない。何を隠そう視覚過敏なのだ。



「それじゃ、大会本部ーー姫崎会長である僕から大会宣言をします。」


 パイプ椅子から立ち、俺と友香に向けて話し始めた。


「この競技は極めてシンプル、そして誰でも出来る競技『アイスクリーム早食いコンテストッ!』です。今回の参加者は一年A組学力テスト学年一位白井友香選手。一年A組学力テスト学年十位木下英二選手、そして僕の三人です」


「学力関係ねえだろ!」


「大会運営チームの宣言を妨げないでください、英二く……選手」


 意外と本格的な大会宣言をしている中、友香は意外と真面目に聞いていた。


「なお、安全面に配慮しまして……十本先に食べた方の勝利とします」


「はぁっ!?一本だけじゃねえのかよ!」


「警告、次僕の話を割ると『らんらんるんるんラブん』のシナリオ通りの結末が英二くんを襲いますのでご容赦下さい」


「すまん、続けてくだせえ」


「はい、尚、カリカリ君三十本を購入して下さったスポンサーの方は木下英二選手です、皆様お礼しましょうね」


「なんで俺っ!?」


「2400円は後日生徒会を通して請求されると思いますので、安心してください。では寄り良い『アイスクリーム早食いコンテストッ!』にしていきましょう。僕からは以上です」



 急に2400円というバイトしてない俺にとって大金の借金が約束された。

 聖来は話し終わると部室の冷凍庫からカリカリ君の入ったコンビニ袋を取り出して机の上に置いた。


「えげつねえ量だな」


 と俺が呟くと「美味しそうね」と友香がニコッと笑った。

 聖来が机に十本ずつ分けて俺達をパイプ椅子へ誘導した。

 目の前に十本のカリカリ君、そして右側には聖来、友香の順に座っている。

 何故か二人共楽しそうに見えた。



「では、審判、大会運営、大会運営会長、スポンサー交渉者兼選手である姫崎聖来が始まりの合図をします。それまで手は膝の上に置いてください」


「わ、わかったわ、でも寒くない?」


「それな、めっちゃ寒いぞ!」


 友香の発言に俺は意見一致した。

 もう夏だと言うのに寒い、何故ならエアコンがガンガンにかかっているからだ。


「当たり前です、寒さの中で十本食べるというのがこの競技の良さです。じゃないと溶けます」


 そう聖来淡々と話した。

 確かにエアコン付けてないとカリカリ君溶けるだろうが、何もここまで強くなくてもいいだろう。


「何度なんだ?」


「十八度で強風にしてる」


「死ぬぞ!ってか腹壊すわ!冬並みに寒いんだが」


「英二くん、手は膝の上に置いてください」


「……まあ、わかった」


 鳥肌が立ってガクガク震える唇、一体何の競技なのか分からないでいると、


「スタート」


 聖来のスタート合図がして真横に座ってる聖来がカリカリ君に手をつけた。

 友香もカリカリ君の袋を破ろうとしている、これはダメだ、スタートダッシュ出来なかった……挽回だっっ!と思いながら急いでカリカリ君の袋を破る俺。


 俺はカリカリ君を口に入れる、口の中の感覚が寒すぎて麻痺してるので味が分からない。

 ジャリッ!という涼し気な音と共に俺は、



「うぁあおおおおァァあ!!」


 と叫んだ。歯が染みて痛い、とても食べれるものじゃない。


「痛い痛いぁぁ、いた、ぅぅ、むり、あいた」


 友香がカリカリ君を片手に頭を抑えて足踏みをしている。どうやら頭にキーンッと来ているようだ……可哀想に。

 一方、聖来はと言うと無表情でパクパクカリカリ君を平らげている。そろそろ一本目食べ終わりそうな勢いだ。

 俺と友香はまだ一口目なのに、速さが違いすぎる。


「うぅ〜っっ……」


 聖来が唸っている、手が悴んで頭が凍りそうになってるのが伝わってくる。

 そして口から白い湯気が出ている、まるでドライアイスに水をかけたみたいな感じだ。


 三人の手が止まった。

 俺は脳が停止しそうだ、寒すぎて固まってしまう。しかも半袖の制服だから余計にキツイ。


「あぁっぁ、う」


 友香は頭が痛すぎるせいか、ソファに一度横になり毛布を被りながら頭を抑えている。


 誰がこんな競技考えたんだ……と思いながら漸く一口目のカリカリ君を飲み込んだ。

 喉から凍てつきそうな、凍え死にそうなそんな冷たさが胃にも伝わる。

 七月始まりに『高校一年三人がカリカリ君で凍え死に』とか報道されたくねえ!


「おりゃぁぁぁぁあ!!」


 俺は二口目を気合で入れて痛みを抑えながらヤケクソに噛んで飲み込んだ。そして三口目も口の中へ入れ、飲み込んだ。

 すると、尋常じゃない程頭が痛む。この世の痛さじゃない程の頭痛だ。


 この地獄はいつ終わるのだろう……。




 ※危険ですので真似しないでください

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