そういや一週間前期末テストがあって今日テスト返しが行われた。俺は自慢ではないがテスト勉強をせず全教科合計得点が学年三位だった。


 まあ、この高校に来たのは小学校時代の幼馴染が受けていないというだけの理由だから、行こうと思えば偏差値高い高校も行けた。

 お陰でこの高校ではこう見えて特待生なのだ。



「ちーす」と言いながら俺はカニボタ部の部室に入る。



「あぁ、英二。我が……護衛よ。」


「英二くん……うぅ、」



 凛花と聖来がまるでテストで赤点を取って補習だった!ぐらいテンションが低かった。

 どうしたんだろうか?と思っていると、



「「赤点取った」」



 二人が口を揃えて言うもんだから冗談かと思った。しかし、聖来の手元にはギャルゲーが無く凛花の手元には真っ黒な中二病ノートが無く……代わりにあったのが『教科書』だったのだ!



「何があった!?風邪か!?」


「風邪ーーそれは辛い物という捉え方で見れば風邪だな」


「うん、僕も風邪だね」



 いや、そこは風邪じゃないって言えよ。

 にしても、凛花が入部してまだ一週間だが聖来との距離がかなり近い。

 まるで親子だ。勿論親は聖来。



「ってか聖来って頭良さそうなのに赤点取るんだな、中間テストとかも悪かったのか?」


「頭が良いって何?」


「うんうんっ!」と凛花。


 何を急に。と思いながら、


「勉強出来るとか、そーゆう意味だ」


「勉強が出来ると頭が良いの?なら、勉強が出来ないと頭が悪いの?」


「うんうんっ!」と凛花。


「ま、世間一般的に考えてそうだな」


「そう、僕は人間としての知能が頭の良さを左右すると考えている、例え勉強が出来ても頭が悪い人も存在する」


「うんうんっ!」と凛花。


「凛花うっせえ!ちょっと黙ってろ!」


 いつも友香や聖来にしているノリでツッコミを入れた。別に怒って言った訳では無いが、


「……ぐすっ、ぅぅ、」


 凛花は泣き出した。もう大泣きだ、どうしたら良いのか分からないが人がこんなに泣いてるのを見るのは久々だ。


「ご、ごめん凛花、その……悪かった、代わりに面白い話聞かせてやるから泣き止んでくれ」


「ほんとに……?」


「あぁ!俺の超大作……」


 俺が言おうとすると、聖来がハッとした顔をして口を揃えながら俺達は言った。


「「みずとちゃ」」


「聞くっ!静かに聞くっ!」


 好奇心旺盛な凛花は持っていたシャーペンを置いて、ちゃんと手を膝の上に起きキラキラした目で俺を見つめた。


「あぁ、すまんな聖来、俺が話す。いい所取りは許さねえからな」


「僕も話したかったけど、仕方ない。譲ってあげる」


 聖来が譲ってくれたので俺は話すことにした。


「昔々ある所に一人の若者が脱水症状になっていました。そ……」


 大体一分半ほど話した。手応えはだいぶある。何故なら二人が涙して笑い転げているからだ。



「ぅ、あっはっははーっつ、面白い!」と凛花が無邪気に笑うと、


「うっ、ふふ、ダメ、この話ツボ」と聖来が少し笑った。


「これの面白い所は、水に茶柱……ぷっ、ダメだ、耐えきれん」



 幸せだ。ありがとう二人共。

 実はこの話を二週間前ぐらいに友香に聞かせたんだが、その時『笑う要素なかったよ』と言われたのだ。

 自信を失っていた俺だったが、やっぱり確信した。俺は笑いのセンスがあるっ!



「何してるの?」


 友香が部室に帰ってきた。今日は制服ーー中学の制服を着ていた。


「友香、みずとちゃ面白くないって正直思ってたんだが、だいぶウケたぞ」


「嘘よ」という友香に被せて、

「ほんと!おもしろいの!」


 ウキウキしている凛花がそう言った。ありがとう、いい子だ本当に。みずとちゃの良さが分かるとは良いセンスだ。



「あ、そう……」



 ちょっと元気がない友香、テンションがいつも以上に低い。もしかして友香も赤点か?

 この学校は人の順位を発表しないので、本人に聞かないと順位が分からない仕様になっている。

 まあ、赤点の人は教室に居残りになるからバレるんだが。



「もしかして赤点か?」


 俺が聞くと友香は首を振って答えた。


「また一位だった」


 そう言いながら、順位が書かれている紙を俺達三人に見せた。しかし自慢しているように見えない、むしろ一位だったのが嫌だったみたいなテンションだ。


「もっと喜べよ!」


「私にとって一位は絶対条件、二位以下が二回連続続いたら……或いは一つの教科で三位以下があったら、その時点で私のスーパー特待は剥奪される」


「マジか……お前がスーパー特待生だったんだな。」


 少し悔しいが純粋に凄いと思った。

 確かに思い返せば、カニボタ部で聖来がギャルゲーして俺が小説読んでる時いつも勉強してたな。


「友香ちゃん、教えてください、おねがいします」


 凛花がまるで幼稚園児が卒園式の時に言うお別れの言葉みたいに、小学校一年生が帰りの会で『先生さようなら』と口を揃えながら言うみたいに、幼い言い方をした。


「いいよ」


「わぁ〜っ!嬉しい!」


 この子は高校一年の時どう生活していたんだろう。中学や小学校時代何をしていたんだろう。少し気になる俺だった。


 それからは俺が聖来に勉強を教え、友香が一学年上である凛花の勉強を見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る