俺は聖来を保健室に送った。

 聖来は「大丈夫」と言っていたのだが、膝からの出血が止まらなかったので連れていった。

 その後聖来に付き添っていると友香を探してほしいと言われ、今こうして探している訳である。


 しかし大体目星は付いていて俺はその場所に向かった。



「お、やっぱりここか」



 人気のない公園のブランコに白石友香が座っていた。朝っぱらからお疲れムードを出している少女に歩み寄る。



「どうしたんだ?みんな心配してるよ」



 俺はそんな事を言いながら友香の隣のブランコに座った。ブランコに乗るのは何年ぶりだろうか。



「量産された人間、結局みんなそう」



 そんな俺に一瞬凍りつくような衝撃が走った。

 その美声とも取れる声は普段の友香から絶対出ない様な声、声が透き通って聞き取りやすく何より憎しみや哀しみの感情が深く入っていた。



「英二もそうだった、別に期待はしてなかったんだけどね。知った時胸が苦しくなった」



 普段聖来よりは表情があるが、ほぼ無感情で無関心に近かった友香と同じ人物とは到底思えない。



「英二は言ったよね、どうした、具合悪いのか?って。」


「言ったな、心配だったからーー、」



 俺が何気なく、いやどちらかと言えば正論を言うようにして伝えようとした。俺は話している途中で言葉が出てこなくなる。

 友香は歯ぎしりをしてブランコの持ち手を強く握っていた。到底女の子がする事と思えない。



「ならさ、仮に私の右ポケットにナイフや拳銃があったとする、『自殺するね』と私が言えば貴方はどうする?」



 何を物騒なこと言ってんだ。と思いながらも正論……論破だ。ぐらいの気持ちで返事をする。



「そりゃ止めるだろ」



 その言葉を聞いて友香は笑った。高い声で笑った。しかし楽しさや面白さから来る笑みでは無い事を感じた。



「おい、急に笑ってどうしたんだ」



 俺の声を聞くと初めて俺に視点を移した。

 その目は焦点が合ってなくて目の下に真っ黒な隈があった。この隈の存在を俺は今初めて知った。






「ーーそれが量産された人間」







 視線はずっと俺の目を見ている。目を見つめると逸らしてしまう程、少し怖いと感じた。




「私は知ってる。この世界に希望が無い事を」


「希望?お前成績学年トップだろ?希望の塊じゃねえか?」


「それは生きる前提とした時に感じる希望。私が言ってるのは世界に対しての希望。」



 なんのこっちゃ分からない。まさかこいつも中二病だったりするのか?と思っていると友香が話を進める。



「なら質問を変える。貴方は私の自殺を止めた時、何をしてくれる?」



 友香ーー自殺この言葉をあまり聞きたくはない俺だが、質問に答える事が出来なかった。

 自殺を止めた後、自分に出来ることって何だろう。情けない事に答えが思い付かない。



「自殺する事が悪いって誰が決めたのか、それは世界が決めたんだ。自殺すると殺人罪になる、それは可笑しい」



「結局、何が言いたいんだか分からんぞ」



 俺の言葉を聞いて少し話し方を変えようとしたのか視線を地面に落とした。



「自殺させるのは他人、自殺を止めるのはその他人。他人が原因なのに自殺しようとすれば敵だった他人が正義者気取りで止めてくるんだ。今の世界はみんなそう。」



 歯ぎしり漸く止めブランコの持ち手から力を緩めながら、



「自殺を止めたら、その人が抱えてきた全てを受け入れれる?確かに他人が目の前で自殺を図っていたら止める、だってその人の事何も知らないから」



「なら何が正解なんだ?止めなければ良いのか?」



 友香の言っている事は半分ぐらい理解は出来た。もう半分は理解したくなかった。

 俺が出来なかった事、俺があの時助けれたはずの小さな命ーー友香の事が頭から離れない。



「正解は無い、これが正解なのかも知れないね」



 焦点が段々あって来てニコッと微笑んだ。

 落ち着きを取り戻したのか?何故今眩しいほどの微笑みを向けてくるんだろう。



「一般常識と入試や就職の為の知識しか教えない同じような学校に国民全員が通う。量産された人間が生まれ、自分達の思考が全て正しいと錯覚してしまうんだ」




 分からん事も無い気がするが、それと友香が走っていったのと何の関係があるんだ。

 そんな疑問ばかりが生まれてしまう。



「私ね。必要とされたくなかったの」



 足を浮かせながら空を見上げる友香、風が当たって髪の毛が絹のように靡く。



「……何でもない、少し疲れちゃっただけだから心配かけてごめんね」



「本当に大丈夫なのか?」という俺の声に被せて


「大丈夫っ!行きましょ」



 と普段絶対見せない満面の笑みを見せた。俺は思わず口をポカーンと開けて数秒見詰めてしまった。


 俺と友香はブランコから降りた。勿論今から『萌ゲーム発表会』に俺は行くつもりだ。勿論四人で……、



「あ、凛花探しに行かねえと」


「凛花ちゃん?」


「あぁ、今頃は友香を探してると思うぜ」


「……そう、」



 友香は嬉しいのかして俺の服を小さく摘んできた。ちょっと頬が火照っている様にも感じた。

 俺と友香は凛花を探してから学校に向かう事にした。





 ーーこれが友香なりのSOSだった。








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ヤンデレとボクっ娘がオレの恋愛を全力で妨げてくる件 ねる @catmimi

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