To my followers.2

「うおぉぉっ!! 食らえ、仮面の乙女達マスクド・メイデン!!」


 ウサギさんのアドバイスに従って、心に浮かんだ必殺技をそのまま叫ぶと、ホッケーマスクを被った……いやダメ、これ以上は言っちゃダメっ、ていうか、これ本当に《黒騎士》のスキルだよね!? 黒騎士なら豊満なお姫様に好かれたりとかするんじゃないの? 私の知ってる黒騎士そうだよ!? 少なくともあの巨大グループを召喚できるスキルではなかったと思うよ!!?


「書き手が違うんだから当たり前でしょ、《黒騎士》の名前に甘えちゃダメっ! 書き手の知識だと黒騎士なんてラスワ、」

「わーい、わーい! その唐突に大樹を切ったり戻したりしてるその動作知ってる、わーい、わーい!!」


 ねぇ、いきなりメタ持ってこないで? 実は私たちが思うよりもそういうの受け付けない人多いんだよ!? しかも思い切り大半の人たちには伝わりにくい言葉使おうとしたよね!?

「ねぇそこの騎士っぽい人、いきなりメタぶっ込んでた人、たぶんこのなんか頭が5個くらいある蛇と縁あるよね、もうなんとかしてよ、たぶん私のスキル使うと©️コピーライト的なのに引っ掛かるからさ、ちょっと、」

「7枚プレイ! 直接召喚!  エレメ、」

「わぁぁ水の元素さぁぁん!! コントロール軸をあらかた潰して回ってた極悪コンビ、ここに来て復活かぁぁぁ!!??」


 私よりヤベぇ、©️貫かないでそんなに! もう突っ込みすぎて喉が痛いっ、私の喉そんなに丈夫じゃないんだよ!? ていうかせめて文字スキル使いなさいよぉぉ!!?

「シャ●バの話ですか?」

「うおぉ妖精っぽくなった妖精の男ぉ! アグロ軸ならこの蛇に分があるってところなのかなぁ!!? ていうか書き手のイメージ安直過ぎない!?」

「それよかサークルのお題決める投票、もうちょいわかりやすくした方がよかったんじゃないですかね」


 メタぁぁぁぁっっ!

 そこは投票の選択肢が最大4つだって仕様を恨んで!? ん、いや、これ誰の台詞!? 私は“投票”とか知らないよ、ねぇ! 私までメタに走ったらツッコミ不在じゃないのよ、落ち着いて、落ち着いて……!

 ふぅぅぅ~~~、落ち着け、素数を数えて落ち着くんだ……!! いくぞ、スキル!


蒼夢幻想ブルー・ファンタズム!!」

 おっ、なんか強そうなスキル!? 心に浮かんだままだから何が起こるのかわからないけど、たぶんこの蛇も、

「おばあちゃん、敬老の日だからおま」

教育的配慮チェストぉぉぉぉぉっ!!」


 ダメですダメー! これ未成年も見るの、いきなり来ちゃらめぇぇぇっ!! ドールマスター来たけど、ドールの効果はありがたいけどさぁ!

 とりあえず、召喚したドールの力でどうにかヒュドラの毒霧を抑える。すごい、これは吸引力の変わらないただひとつのドールなの?

 といっても、あくまで上がったのは防御面、スキル発動で大幅なバフのかかったヒュドラ相手に、どうする、どうする……!?


 考えあぐねていると、なんとヒュドラに頭から丸呑みにされました。


 え、え、え?

 ヤバイヤバイ、毒が体内にあるのも怖いし、胃酸で溶ける! 早く出ないと、やばいよやばいよぉ! しかし抵抗虚しく、なすすべなくヒュドラの食道を潜り抜けると……そこは、しんしんと雪の降り積もる夜道だった。


 いったい、いつからここにいただろう?

 海で大蛇と遭遇したような記憶もあるが、あれは夢? 確かに、人は炊飯の一時で蝶の一生を夢見ると言われているから、何ら不思議なものではない。とはいえ、立ったまま意識がなくなるなど、あり得るのだろうか?

 さて、私は何をしようとしていただろう? 寝惚けたように定まらない頭を絞ると、そうだ、今日は喫茶店『Pastel Color』へ行こうと思っていたのだった。

 パステル色に病んだ世界というコンセプトで営まれるこの喫茶店は、その理念に従って奇妙なオブジェが、しかしとても美しい配置で置かれており、その不一致が少しずつ客を非現実の世界に引き込んでいく、そんな喫茶店だった。人の幸せも不幸せも、きっとこの喫茶店に集約して、新たな物語を紡いでいくのだろう。

 小気味良い音をたてる雪を踏みしめながら喫茶店のドアを開けると、時代を感じるドアベルの音が早速私を濃密な『異界』に引きずり込む。そこに時折訪れる青年の朗読を聞くのが、私の数少ない楽しみだった。


「ルシヒイの民――」

 今日の朗読は、何やら呪文めいた文言もんごんから始まった。聞き慣れないはずなのにどこか耳に心地いいのは、ひょっとしたら彼の低く優しい、包み込むような声のせいなのかも知れない。

「――こうしてルシヒイの民は、終焉の洪水も何のその、白銀の甲冑をまとった死神と薔薇の女王を引き合わせ、ひとつの歴史を作ったのです……」

 時は流れ、彼の落ち着いた声で読まれるにはなかなか突飛な内容の本が、とうとう閉じられる。一般的に流布される「歴史」とは少し違っているようにも思えたが、そこはそれ、解釈は人それぞれ自由ということなのだろう。でなければ100年後に放送されるアニメの動画など流れはすまい。


 心地よい時間に微睡みつつ、私は喫茶店を後にする。とても充実した時間を過ごせた、こういうものを幸せと呼ぶに違いない。道中でまんじ模様の柄があしらわれた着物を着た、猫のような耳の生えた何者かを見たような気もしたが、なに、このような静かな夜にはそういうものもいるだろう。笑いながら、いつの間にか隣に現れていた怨念の集合体のようなモノと、更に反対側の隣に透けている仮面の紳士と連れ立って、月も遊ぶような白い夜道をただ歩いた。


 積もった雪に月明かりがとても美しい、夢のような夜だった。

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遊月のお題箱 遊月奈喩多 @vAN1-SHing

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