「終わりの始まり」から飛び立っていく一筋の希望

まるで、いきなりラストシーンかと思ってしまうような展開から広がっていくSF作品。
宇宙船内での日常。絆を深めていく仲間達との穏やかな生活の中に、どうしても見え隠れしてしまう故郷へ向ける悲しみ、行く先の不安の表現が絶妙です。
やがて不安は現実になり、人類は決して避けて通る事の出来ない重大な選択を強いられてしまう。
人類が繰り返してきた歴史、そして運命の中で掴んだ「絆」を背負った主人公は、存亡を賭けた戦いに身を投じる。

新天地へ向かいながら繰り広げられる巨大宇宙船内での生活、出会い、出来事などの中に散りばめられた多くの複線、そして「ペーパーパソコン」や「スカイ・ビーグル」と言った未来世界を彩る様々なアイテムの登場と共に、見た事の無い世界へと読者を誘ってくれます。
ラストも「人類の行く末」を描いた、テーマ性の強い納得のいく結末でした。

ここからは完全に個人的な感想になるのですが、読んでいて文章全体から「丁寧」「読みやすい」と言った言葉だけで終わらせたくないような「やわらかさ」を感じました。
例えば、私は完全シラフで読みましたが、仮に泥酔状態だったとしてもしっかり読めてしまう様な気がします。
読み進めているうちに展開が把握出来なくなりそうになった時に、意識をそっと修正してくれるような、ボウリングのノーガーターレーン(ガーターを防止する柵)のような「優しさ」が文体から溢れ出ている感じがしました。
SFというジャンルで、これが実現出来る作者様の他の作品も読んでみたくなりました。
登場人物達のキャラクター構成も好きですね!
特に達彦くん大好きです。

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