人口爆発による、食糧、水不足が嘆かれる、少し未来の東京に、ある巨大な建造物が現れた。主人公、泊翔馬はその正体を探ろうと、バイクを走らせる。
突如東京に落とされる核爆弾。逃げ惑う人々。その時、正体不明の建造物は、宇宙船という正体を晒し、地球を飛び立つ。
……という、緊張感の高い幕開けなのですが、その宇宙船の中で暮らす人々の生活は、非常に穏やかで人間的。お金は意味を失くし、仕事もなくなった人々は、限られたメニューではあるが宇宙食を楽しんだり、ゲームに興じたりします。時折、変わり果ててしまった地球に思いを馳せつつ、今を生きるその様は、人とはどこに行っても、変わらないものなのだろうかと考えさせられます。そう、どこに行っても。
人類の歴史は、常に戦いの歴史であるとは言いますが、それは宇宙に飛び出そうと、変われないのか。穏やかだった生活に忍び寄る不穏な影は、主人公達を飲み込み、やがて大地へと足を下ろさせます。その先にある未来は矢張り……。繰り返しなのか。
宇宙を舞台に、手に汗握る戦闘機でのアクションもあり。人とは何なのかを考えさせられるSFです。
是非皆様も、ご一読。
作中に登場する「宇宙食」のメニューです。この五種類しかありません。カレーはカツカレーも登場します。餃子は水餃子。
作者さんの作品は、こういった小ネタ的なものに独特のセンスが発揮されており、楽しくてつい、読み込んでしまいます。
小ネタが生きてくるのは本筋がいいからで、そのストーリーテラーぶりは想像のはるか上を行きます。また、どのキャラも人間臭くて魅力的です。
突飛な展開をするようでいて、あざとくはないのです。ここが最大の魅力かも知れません。真摯に書いていたらこうなった、という感じで、とても好感が持てます。
このレビューからは内容がよくわからないと思いますが、読んで損はありませんので、気になった方は是非!
創作の楽しさと、作者さんの人間観が伝わってくる、隠れた名作です。
まるで、いきなりラストシーンかと思ってしまうような展開から広がっていくSF作品。
宇宙船内での日常。絆を深めていく仲間達との穏やかな生活の中に、どうしても見え隠れしてしまう故郷へ向ける悲しみ、行く先の不安の表現が絶妙です。
やがて不安は現実になり、人類は決して避けて通る事の出来ない重大な選択を強いられてしまう。
人類が繰り返してきた歴史、そして運命の中で掴んだ「絆」を背負った主人公は、存亡を賭けた戦いに身を投じる。
新天地へ向かいながら繰り広げられる巨大宇宙船内での生活、出会い、出来事などの中に散りばめられた多くの複線、そして「ペーパーパソコン」や「スカイ・ビーグル」と言った未来世界を彩る様々なアイテムの登場と共に、見た事の無い世界へと読者を誘ってくれます。
ラストも「人類の行く末」を描いた、テーマ性の強い納得のいく結末でした。
ここからは完全に個人的な感想になるのですが、読んでいて文章全体から「丁寧」「読みやすい」と言った言葉だけで終わらせたくないような「やわらかさ」を感じました。
例えば、私は完全シラフで読みましたが、仮に泥酔状態だったとしてもしっかり読めてしまう様な気がします。
読み進めているうちに展開が把握出来なくなりそうになった時に、意識をそっと修正してくれるような、ボウリングのノーガーターレーン(ガーターを防止する柵)のような「優しさ」が文体から溢れ出ている感じがしました。
SFというジャンルで、これが実現出来る作者様の他の作品も読んでみたくなりました。
登場人物達のキャラクター構成も好きですね!
特に達彦くん大好きです。