侵略!ってつけたら怒られる系蟻ヒロイン爆誕🐜ありのままのありの姫ヒアリちゃんUC

北乃ガラナ

火蟻との星屑みたいな記憶2017

1蟻 ロストバケージ『炎蟻妃槍《えんぎきそう》アルカロイド【腥炎】』

「なにがUFOだよ……」


 クラスの女子に囲まれた、クラスメイトの勝ち誇った横顔が目についた。すこしばかりイラッとしていると、そんな彼が、僕の方に近づいてきた。


「な? 歩夢ほむ、すげえだろ?」


「べつに、そんなの……」


 と、いいかけて、僕はやめた。この状況でなにか言っても、悔し紛れとしか受け取られないだろうから……。そんなことを考えていると、無反応な僕に興味をなくした彼は、女子達の輪にもどっていった。


 彼がスマホの画像投稿アプリ『インストゥーン』で、とある画像をアップロードしたのが、クラスで話題になった。


 空を飛ぶ銀色の物体。いわゆるUFOだ。


有友ありともくんも見た? あれ、すごいよねー」


「……う、うん。そうだね」かわいい女子が声をかけてきたので、最低限の反応をしておく僕。


 ありえない。どうせ、気球とかドローンだろうに……。


 冴えないクラスメイトの男子がいちやく時の人だ。


 ……なんか悔しい。


 僕もなんか面白い画像が撮れればインストにアップして、クラスの女子からチヤホヤされるのに……。



 🐜



 ――ガゴン!


 ズシーーン!!


 おおきな金属音をたてて、コンテナの扉が内側からたおれた。その音と衝撃に、なにかの事故かとおどろいて、僕は反射的に首をむける。


 グリーンのメッシュフェンスのむこう側。


 世界各地から送られてきたコンテナが色とりどりと、山とつまれた港のコンテナ埠頭。いつもとかわらぬ通学路の横で、それは起きた。いまは下校時だ。


甲戸こうべ港よ! わたしはかえってきたああああ!!」


 コンテナから、ズサッと歩み出たのは女の子。絵本とかでお姫様が着ているような赤いドレスを身につけている。コンテナだけが積まれている、この殺風景な空間には、おおよそ似つかわしくはない格好。

 歳は小学高学年の僕とおなじぐらいかな? よくみると、気の強そうなおおきな瞳もくせっ毛のある長い髪も、燃えるように赤い。そしてなによりも、抜群に可愛かった。クラスの女子達なんて、目じゃないぐらい……。


「幾多の英霊達よ……。ふたたび我ら火蟻の理想を掲げるために、蟻の夢成就のために……」


 なんか言っているけど、意味がわからない。


「ううぅうわたしは! かえってきたああああ!!」


 たっぷりの溜めからの、大絶叫。そして、よどみのない動きで決めポーズ。両手の人差し指をピンと出して腕をクロスさせている。腰を斜めにおとして、なにかを撃ち抜くような……。ズキューン! といった感じのヘンなポーズ。

 ……うん、ちっとも世界観がわからない。説明できないよ、これ。


「ふふ……。われながら、きまった……」ふうと息をはいて、満足げな表情をうかべている。

 たしかにきまっているけど、キマっているのは、ニュースなんかで見た、危険なクスリかなんかじゃないかと思う。心配だ。


 とはいえボクは、彼女の登場の強烈さに見とれてしまっていた。だいたい、コンテナの中から登場するって意味がわからない。なにをしていたのかな? いままでずっとあの中にはいっていたのかな? フツーに扉を開けて出てくればよかったんじゃないかな……。


「コラ! そこで何をしている!」


 怒声と走り寄る靴の音が響いた。みると、警備員のおじさんが駈け寄ってきている。大きな音がしたから気がついたのだろう。


 そりゃあ、そうだ。フェンスについている看板にはおもいっきり『危険・関係者いがい立ち入り禁止』と書かれているもん。


「ふふん、来たね愚昧なヒトよ……。再上陸の門出に、まずはおまえから血祭りに……」


 動ぜず不敵な笑みを浮かべている女の子。なにかぶっそうなことを言っているけど……。逃げないのかな?


「君! こんなところに入っちゃダメじゃないか!」


 迫り来るおじさん。


「わたしの名はヒアリ! 地上を統べる昆虫。そのなかで最も進化した存在。蟻。さらにその蟻の頂点に立つ火蟻の女王クイーンよ!」


 この子、ヒアリちゃんっていう名前なんだ。


「問おう! ヒトよ。あなた妻や子供はいる?」


「はぁ? いねえよそんなもん! べつにオレの勤め先がブラックだとか給料がとてもじゃないが家族を養えるレベルじゃないとか……そんなこと関係ないからな! そう、縁がないだけさ! 否! ……むしろ孤独を愛し愛されるもの! それが俺!」


 ……名もしらぬおじさん。そんな彼に幸あれと。僕はとても同情した。


「敵ながら哀れな……。ならば、容赦はしない。悲しむ者はいないわけだね! あなたが消えても、だれも悲しまないわけだねっ! だれも!」


「うっさいわ!」


「いまだ! 隙ありッ!」


 そう、いい終わらぬうちに、前方へステップ。からの跳びこみ前転。おじさんの懐にクルリと飛び込んだヒアリちゃん。ノーガード状態のおじさんに肉薄した。完全に間合いの中に捉えた。


「なッ!?」


「くらえ! アナフィラキシーショック!!」


 すばやくなにかを突き出すような動作をする。……でも、なにも手にはもってない。だからエアな突き状態。


「……って、あり? 『炎蟻妃槍えんぎきそうアルカロイド【腥炎しょうえん】』がない……。わたしとしたことが……てへ」頭をコツンとして、舌をだした。


「アナタ、ちょっと待ちなさい!」ズビシとおじさんを人差し指で差すと、スタスタとコンテナの中にもどるヒアリちゃん。


「お、おう……」あっけにとられるおじさん。


 ゴソゴソと、コンテナの中から、ものを漁っているのだろう音が聞こえる。


「ない……」


「あの……君ー?」


「ない……ない……わたしの槍がない…………まさか!?」


「そろそろいいかなー? おじさんも忙しいから……」


 しばらくたって、ででてきたヒアリちゃんの顔は青ざめている。


「ロストバケージ!? クッ、こんなときに! ロストバケージとはっ! 『炎蟻妃槍えんぎきそうアルカロイド【腥炎しょうえん】』があれば……ヒトなぞ根絶やし燃やし尽くしてやるものを……。しかたがない。哀れなヒトよ。今日のところは見逃してあげる。さっさとわたしのまえからね!」


「ハイ。捕まえた。勝手に侵入しちゃダメじゃないか。ここは立ち入り禁止だよ君……ん?」


 ガシッとヒアリちゃんの肩をつかむおじさん。そのまま、僕の存在に気がついて、フェンスごしに鋭く睨んできた。


「君。もしかして、この娘のお友達かな?」


 やさしい笑顔をうかべてはいるけど、目が笑ってないよ……。

 そのうえ、おじさんのこの台詞で、ヒアリちゃんも僕の存在に気がついたようだ。その真紅の瞳と目が合った。


「そこのヒトの少年。ちょうどいいわ。わたしの軍門にくだりなさい。まずは忠誠のあかしとして、この哀れなヒトを排除なさい。そうすればあなたをヒト自治区の長として迎えま――」


「!? し、知りません! そんな子! さよならっ!」


 巻き込まれたらたまらない。僕は、警備員のおじさんから視線をそらしてダッシュする。幸いフェンス越しなので、追ってまではこなかった。


「ぶ、無礼者! 離してっ! 離しなさい! 高貴なわたしに触れるなんて万死にあたいするんだから! アンタのような歯車となって戦うヒトには、わたしの崇高な志は理解できないんだからっ!」



 そんな声が聞こえたけど、僕は振り返らずにただただ走った。

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