幽霊屋敷と地蔵様

空伏空人

第1話

 当時小学生だった宇田さんが住んでいた町には、妙にお地蔵さんが多い場所があった。

「視線を動かせばお地蔵さんがあって、また視線を動かせば花束が置かれている。そんな場所でした」

 事故が結構多い場所だったらしく、いつもどこかの電柱の下には缶ジュースと花束が置かれていたという。

 なんでも、高名な霊能力者が見た瞬間「私には無理です」と言ったらしいのだが、小学生の宇田さんは霊能力者なんてバラエティー番組の味付け程度にしか考えておらず、そこまで深く気にしてはいなかった。

 ある日のことだった。宇田さんが町内の公園で遊んでいると、ヤンチャな同級生が幽霊屋敷に入ってきたんだ。と自慢げに話し始めた。

 幽霊屋敷というかボロ屋敷というか。いわゆる廃墟がこの近くにあることは、宇田さんたちも知っていた。県外にも結構噂が広まっているような有名な幽霊屋敷である。ということも。

 よく子供同士の度胸試しだったり、母親からのお叱りの言葉でよく使われていたらしい。

 そんな幽霊屋敷に入ってきた。あまつさえ写真を撮ってきたのだという同級生は一躍公園の中でヒーローのように扱われた。

 さっそく見せてもらったその写真には、同級生と廃墟の中が写りこんでいた。どうやら自分が撮ったのだという証拠を残しておきたかったらしい。

 自撮りって感じじゃあなかったので、どうやって撮ったのかと尋ねたら従兄弟いとこに撮ってもらったのだと言った。年上の従兄弟いとこで、幽霊屋敷の中を撮ったあと、真っ青な顔をして家に帰って行ってしまったらしい。

 夕日の下で、宇田さんは集まってきた友達と一緒に、その同級生の写真をじっくりと見た。

 撮られていた写真全てになんだかよく分からない白っぽい光がたくさん写りこんでいた。

 逆光の中で撮ったみたいな状態で、別段恐くはなかった。心霊現象が好きな友達が「エクトプラズムだ」と騒いだぐらいだ。でも大多数はほこりかなにかだと思った。

 それからしばらくして、ヤンチャな同級生がずいぶん暗い顔をしながら学校にやってきた。

 どうしたのだろう。と思って宇田さんは声をかけた。

 なんでも一緒に幽霊屋敷に入った従兄弟が死んでしまったらしいのだ。

 数日前に急に気が狂ったみたいに暴れだして、そのまま病気で死んでしまったのだ。

 もしかして、幽霊屋敷の祟りなのではないかと同級生はずいぶんおびえていた。

 でも、結局なんともなかった。一週間、一ヶ月、半年と時間が過ぎていくうちに、怯えるのもバカらしいと思ったのか同級生はいつもの元気を取り戻していて、私もそんな騒動があったこと自体、すっかり忘れていた。

 事件が起きたのは、その五年後ぐらいだったと思う。

 体育祭の準備が忙しくなってくる時期にそのヤンチャな同級生は夜遅くまで応援団の練習をしていた。その帰宅途中に車にはねられて死んでしまったのだ。

 轢かれた場所は、丁度あの幽霊屋敷のすぐ目の前だった。

 車の運転手も数日後、山で首つり自殺をしているところが発見された。

 自殺の理由はいまだに不明で、足元には古びたお地蔵様が地面に埋まっていたらしい。

 聞いたところによると、ここら辺では事故や自殺が多く、それを鎮めるために、自殺や事故が起きたところにお地蔵様をつくるらしかった。話を聞いた数日後には、ヤンチャな同級生の事故現場にも、お地蔵様がつくられた。

 宇田さんは一度もそこに向かったことはないという。

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幽霊屋敷と地蔵様 空伏空人 @karabushi

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