万一は万一の確立で起こる

刻一(こくいち)

第1話 万一は万一の確立で起こる

 今から一〇年以上前の話。

 友人達と、とある遊園地に行く事になった時の話をしよう。

 当時その遊園地はそれなりに大きな規模で知られていて、絶叫マシンや、お化け屋敷やら、子供から大人まで楽しめる遊具が沢山あり、家族連れからデートまで定番のレジャースポットだった。

 そこに“あ・え・て”野郎だけで行く事にした訳だが……。


 私と、そしてもう一人。はっきり言えば絶叫マシンがダメだった。


「じゃあ何しに来た?」と、他の友人達にも言われたけど、そんなの皆と一緒に遊ぶのは楽しいからに決まっているじゃないか。

 そこに女の子でもいれば、多少の見栄ぐらい張って頑張ってもよかったが、“あ・え・て”野郎だけで来ているので、そんな必要もなかった。

 結局、私ともう一人(仮にA君とするが)は、他のメンバーが絶叫マシンに乗っている間、地上でまったりと、別の“安全な遊具”で遊んでいる事にした。

 その日はそのまま、別行動したり、皆で一緒に行動したり、一日遊び倒して夕方になり、「そろそろ帰ろうか」という話になっていた時、絶叫マシン大好き組の一人がこんな事を言い始めた。


「最後やし全員で◯◯◯◯に乗ろか」


 ◯◯◯◯とは、この遊園地で当時恐らく一番人気。この遊園地の名物。この遊園地と言えばと言われるような乗り物。

 まぁ要するに、めっちゃ怖いジェットコースターだった。

 当然ながら、私とA君は反対。お断りしますモード。

「絶対に乗らんぞ」

「いやいや、最後やし乗ろーや」

「“最後って”って何も関係ないやん!」

「乗らん!」

「チキンか!? チキンなんか?」

「おいおい、ビビってんのか? ん? ん?」

「ビビってんねん! 見て分かれや!」

「お? ビビリか? ビビリか?」

「大体、もしあんなん乗って、走行途中に壊れたどうすんねん!」

 と、私が言った言葉に彼らは大笑いしながら反論してくる。

「いやいや、ジェットコースターが壊れるわけないやろ」

「ないない。今までそんな事故、聞いたことないやろ?」

「えぇ……それは流石にビビリすぎやわ」

 そんなこんなで最後まで譲らなかった私とA君は、彼らが満足するまで地上で世間話をしながら待つ事にした。


 当然ながら、次の日には二人の“ビビリ話”が笑いのネタとして皆に広まり、からかわれたのは言うまでもない。



◆◆◆



 それから何日経っただろうか。正確には覚えていない。

 友人達の間で、私達のジェットコースターネタも下火になっていた頃、あの事故は起こった。


 ◯◯◯◯◯◯◯(遊園地名)の◯◯◯◯で事故が起こり、女性が一人死亡。


 それを見て、最初「えっ?」と言うしかなかった。

 事故が起こるかもしれない。だから乗りたくない。とは言ったけど、それでも本当に事故が起こってしまった。

 原因は整備不良による車軸の破損。脱線。車両の横転。女性は挟まれて即死。


“だから言っただろ”

“まさか本当に事故が起こるなんて”

“やっぱり乗らなくて正解だった”


 様々な想いがぐるぐる頭の中を回る。


 休み明け、学校に行った。

 休み前とは違い、「ジェットコースターが壊れたらどうする」と言った私の話を冗談ででも笑う人は一人もいなくなっていた。

 それはそうだろう。本当に起こったんだから。

 結局あの遊園地は、長い休止期間を挟んで何とか再オープンするも、また乗り物の事故を連発し、赤字続きで破産。今は別の複合施設となっている。

 今はもう、あの遊園地に行く事は出来ない。


 後に、全員で絶叫マシンに乗ろうと提案した友人とこの話をした時、「だからあの時、壊れたらどないするんや! って言っただろ」と私が言うと、彼はこう答えた。





「まあでも、お前はビビリやけどな」





ちがいない。

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万一は万一の確立で起こる 刻一(こくいち) @kokuiti

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