後書き
後書きというか余談なのだが、帰りの車中、なるべく考えないようにしていたが、どうしても気になるので、リンゴについて色々と調べてみた。例えば宗教的なこととか。
リンゴでまず思い浮かべたのは、旧約聖書に登場するアダムとイヴだ。蛇にそそのかされて食べてしまったとされる善悪を知る果実の“知恵の実”は、リンゴだという俗説がある。
他にも、アダムがそのリンゴを口にして善悪を知ったことで、自分がいま悪いことをしていると気づき、隠すために慌てて飲み込もうとしたことで喉につかえてしまって、それ以来、男の喉は成長と共に一部分が突起するようになったといわれている。その突起を日本ではのどぼとけと呼んでいるが、英語圏では“アダムのリンゴ”というとか。
まぁ、どちらにしてもあくまでも俗説で、そもそも旧約聖書が記された当時のリンゴはまだ食用として適しておらず、実は別のもの、バナナやイチジク、アンズやダイダイだったのではないかという説もある。
リンゴにまつわる雑学は、それら以外にも色々あった。ギリシャ神話とか、ウィリアム・テルとか、ニュートンとか。他の宗教や神話でもリンゴは登場した。だがいずれも注目すべきものではなかった。しかし、そんな中でただ一つ、「これは!」というものがあった。
“花言葉”だ。
リンゴも花を咲かせるので、有るだろうと思って調べてみると、花だけでなく、実にも特定の言葉があって、それがなんと“誘惑”と“後悔”という二つの言葉だったのだ。
誘惑と後悔。
その二つの言葉は、今回の話に相応しい、テーマにもなりうるものに思えたので、私は大いに納得し、感激までしてしまった。
それが引き金となったか、いわゆるやる気スイッチが入ってしまったようで、帰宅するまでの間にこの小説のプロットを考え終え、帰るや否やすぐさま執筆に入った。
パソコンが立ち上がるまでが、なんともどかしかったことか。
そして今まさに書き終えて大変満足しているのだが、ここでふと、またあることに気づかされたのだ。
打ち合わせの際にもらった次回作のための資料が入った紙袋が無い。玄関まで行って探したが、どこにも無かった。
どうやら、どこかに忘れてきてしまったようだ。カフェか、ベンチか、それとも電車か……。
この話に集中するあまり、肝心なことが疎かになってしまったのだろうが、それにしたって、なんて失態を犯してしまったのか。
いやらしいことに、腹立たしいことに、感激までさせられたリンゴの花言葉が、いま頭を過る。
まさに誘惑、そして後悔だと……。
【完】
寝転がった少女とリンゴ 小野 大介 @rusyerufausuto1733
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