第八話 速い
これは5年ほど前のお盆シーズン。
俺が運送業に転職して、最初の夏の繁忙期の話です。
その頃俺は、4トンウィング車で、南大阪一円と姫路市方面一円を担当していて、荷物は、某大手製紙工場からのダンボールを主に運んでいました。
それが月曜から金曜。
土日は、4トン冷凍車に乗り換えて、港にある大手冷凍倉庫から、鶏肉や豚肉や牛肉を、いろんなスーパーに配送していました。
繁忙期になると、休みは全くなし。
帰省の影響で肉の需要も強烈に増して、どこの運送屋も冷凍車が足りない状態が続きます。
加えて、帰省ラッシュ。
平日ただでさえ混んでる道が、3倍増しくらいになります。
おかげで時間通りになんて絶対に回れない。
土日は、車庫を朝6時にスタートして、配達がだいたい18時に終わりますが、終わって車庫に帰るのも、こんな帰省シーズンは3倍時間がかかるので、大抵、深夜になります。
そんな土曜日の深夜の帰り道でした。
連日の暑さと激務のおかげで、帰り道はいつもクタクタ。
カーラジオから流れてくる音楽だけで、身体がやっと動いてるくらい。
その日も、やっとの思いでたどり着いた鳥取県境港市の冷凍倉庫に、重い重い牛肉を4トン分降ろしたあとだったので、まるで海で泳いだあとみたいな感覚でした。
まぁ兵庫県まで遠い。笑
幸いにも、時間的にラッシュから外れていて、方向も良かったのか、わりとすいすいと帰ることが出来ました。
途中、何度かSAで休憩をとりながら渋滞情報を見てると、どうやら舞鶴自動車道から中国自動車道を経由して帰るのが一番スムースだったので、迷わず山側ルートから帰ることに決定。
鳥取を真横に突き抜ける鳥取縦貫道から、途中で地道に降りながらも、舞鶴自動車道に乗って南下しました。
時刻ははっきりと覚えてないけど、おそらく1時は回っていたと思います。
丹南篠山口インターを越えた辺りの、少し長いトンネルを抜けた時でした。
第一走行車線を走っていたら、後ろから近づくライトがひとつ見えました。
バイクだろうな。
って思って、第二車線に避けてやり、それ以上気にもせず、窓に肘をついて、自社規程巡航速度である90キロを保って走っていました。
そのうち、並んでしばらく並走していたと思います。
あんまり気にしてなかったので。
前にまた、1キロほどのトンネルが見えて来た時でした。
コンコンコン。
不意に
トラックの左側を何かが叩いたような音が。
コンコンコン。
今度は右側に。
途端に総毛立った。
「へっ?! 何よ?」
焦ってまわりを見渡して見ても、山間の暗闇だけだし、横に並走するバイクだけしかいない…。
バイク………?
メットもせずに…?
暗闇でよく分からないけど、確かにメットはかぶってない。
ってか、なんでずっと並走してんの?
そう思った途端に、バイクが寄って来ました。
おじいさん。
俺を見て、にっこりと笑ったおじいさん。
バイクじゃない。
自転車。
それも、普通にカゴが付いた、ママチャリ。
俺、90キロ出てんですけど。
あぁ。またか。
俺は、おじいさんの笑顔に軽く会釈
を返して
左手の数珠を右手に持ち変えて
もぅ迷わないで下さいねって言って
十二番をおだやかな気持ちで唱えると
トンネルに入る手前ですぅっと消えました。
消える前に、おじいさんがこっちを向いて、にっこり会釈したのが忘れられません。
それから、ノンストップで車庫に帰って、さっさと点呼すませて、ガストで爆睡して帰りました。
すっごい疲れた日でした。
後日、
現場近くの親しい住職に聞いたところ、
丹南第一トンネルと第二トンネルの間には墓地があったんだと、すっごいベタなことを聞いたので、近所の霊くらい守ってくれ‼と、強く文句を言っておきましたので、もう大丈夫じゃないかと思われます。
それでも現れる場合は、悪さはしないと思いますので、どうかにっこりと笑って、やり過ごしてあげて下さいね。笑
場所は
舞鶴自動車道下り線、丹南篠山口インター過ぎた最初のトンネルから次のトンネルの間です。
丹南第一トンネルと丹南第二トンネルって名前ですのでー。
仏、諸々の比丘《びく》に告げたまわく。─フェンリルの夜話─ finfen @finfen
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