美しく艶めかしい女と、切なく哀しい少女の二律背反。

本作を紹介するにあたり、まず目を見張るのはその戦闘描写である。

疾さと立体感を兼ね備えた戦闘シーンは、脳裏にまざまざとその映像が浮かび上がる。登場人物たちの窮地が、あるいは傷を抉る痛みが、まるで読み手である私の身に起きたのではと錯覚するほどに。

"SFアクション・エンターテインメント"と云う名に恥じぬだけの戦闘描写が、何よりも読み手を惹き付けて離さない。

そして次に、心情描写である。

特に、主人公である特殊工作員キッカの、内面を書き出す表現力は圧巻だ。強さの裏に潜む自己矛盾。女の醜さと、孤独な少女を内包した一人の主人公の姿が、とても魅力的に描かれている。

戦う"今"だけではなく、戦うまでの"今"が描かれている事。
そして、”今まで"もずっと戦ってきたのだという、キッカの輪郭がしっかりと描かれている事。想像の域は出ずとも、それらはきっと作者の豊富な人生経験に裏打ちされているように思う。

"SFアクション・エンターテインメント"と云う枠には収まらぬ人間ドラマを、この作品に見る。

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