この夏、唯一の“ソルティ・アクション”だ!
- ★★★ Excellent!!!
今年の夏も暑いですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか? カクヨム異聞選集を読みながら背筋も凍るようなひんやりとしたひとときを楽しんでいらっしゃる方も多いと思います。いやー、怖いですね。作者様たちのリアル体験は私のような臆病者をビビらせるには充分なクオリティで“俺、霊感持ってなくてよかったぁ〜”と本気で思わせるハイレベル。エアコンきいた部屋でアイスクリーム食いながら読んでたらマジで寒くなりますよ。ひええーっ! くわばらくわばらなまんだぶ……
そんな怖い怖い異聞選集の中に“笑える作品”が混じっていることをご存知ですか? 今日、紹介するのは『幽霊が同居しようとしてきたので、全力で阻止した。』。作者は太陽てら氏。
“これコメディではない、ホラーだ。”
というのが本作のキャッチコピー。氏いわく“これは夜読んでも全く怖くもかゆくもないホラー”とのこと。そうですか、私のような邪道ホイホイですか。こりゃあ読まずにはいられない、ってことで頁をめくった次第でございます、はい。
本作は前後半の二話構成。実は前半のほうは結構ホラーのテンプレに従って書かれてたりします。イケてるリア充どもが肝試しに出かける様子は、その手の映画の冒頭を彷彿とさせるものです。ウソつきな先輩たちがチャラいのもありがちですが、私が非常に気になったのは以下の一文……
>“店長を除いた”他のバイトメンバーの仲が良すぎて
希望どおりにシフトをいれてくれる良い人なのに、なぜかハブられている店長……冷えきった現実の人間関係こそ創作を超えた究極のリアル・ホラーなのかもしれません。さすがシビアな人物描写に定評があるてら氏。のっけから血も涙もへったくれもありませんでした!
その後、いろいろあって幽霊を“お持ち帰り”しちゃった主人公。困った彼女は“とある人”に電話で相談します。ネタバレになるので誰にかけたかは触れません。ただ「もしもし、私だ」には笑いました。まさか電話ではいつもこんな感じなのか、てらさん? いや、違うよね。小説上の脚色だよね?
幽霊と戦う理由……実は○○○に行きたいがために、という切実なものでもあったようです。いっそ××××でしようとも思ったみたいですが、そこを我慢するところに絶対譲れない女性の矜持を感じました。臆病男子の私なら漏らしちゃうかもしれません。食事中の方、スミマセンm(_ _)m
ちなみにこの戦闘?シーンは一挙手一投足がやけに細かく書かれています。さすがアクション描写に定評があるてら氏。コメディ……ゲフンゲフン、ホラーであっても妥協点は見当たらないぜ! 氏は全身全“霊”をかけてここを書いたに違いありません。持ち前の高度で華麗な物理表現能力をフル活用した結果、ムダに現実的で迫真の出来となっております。リアルなバトルとは肉体芸を駆使したコントに見た目が通ずるもの。嘘だと思ったそこのあなた。外国人の柔道を見てごらんなさい。みんな勝ち狙いのへっぴり腰でしょ? 真剣勝負の観点から“逆イナバウアー”は正解だったのです。
なんでもかんでも塩をつけて食べる、というエセグルメな風潮に異を唱えたくなった方、ここはぐっとこらえていただきたい。タグにあるとおり“伯方の塩”がポイントとなります。自力で幽霊を“料理”しようとするあたり、自炊女子の面目躍如といったところでしょうか? てらさん、料理上手なんですね! 感動の?ラストは、これまたムダに爽やかで、達成感にあふれています。夏の太陽が眩しいぜ! 塩をかぶるな(笑)
突然真面目な話になりますが、ラスト付近のほんの数行に悲哀を感じさせるところが人情派の“てら流”なのかもしれません。
“なかなか楽しい時間を過ごすことができた”、“不思議と怖いとは感じなかった”、“実は寂しくて本当に私と同居しようだなんて考えていたのかもな”
てらさん、さっき血も涙もない、なんて言ってごめんなさい! 幽霊に同情できるあんたはとってもいい人だよ! きっと店長が悪人だったんだ! シフト入れてくれたのはこき使うのが目的だったんだよな、きっと……!
でも結局、伯方の塩は投げるんだけどな!
最後の一文は、ちょっぴり本格ホラーっぽいかな? 本作の舞台となっている奈良県にお住まいの方ならば件の場所に心当たりがあるのでしょうか? そうだとしても決して近づいてはいけませんよ。“ヤツ”をお持ち帰りしたくはないでしょ?
ということで“全力で”笑わせにくる本作。これを読んで夏バテ解消……することはないと思いますが、熱帯夜を吹き飛ばすエネルギーを得る……こともないと思いますが、読後のあなたの笑顔だけは保証できます! ん? やっぱ、これコメディじゃねぇか(笑)