第244話「白楽天 舞夢訳」について  (完)

白楽天は、唐代後半期の中国では、抜群の人気を誇った流行詩人でした。

白楽天自身が、親友元稹に語っていることですが、

「元和十年、左遷されて長安から江南に向かう道中において、駅舎、寺院、学校、舟の中のあちこちに自分の詩が書きつけられている」

「宴席では、妓女たちに、あのお方が『秦中吟』、『長恨歌』の作者ですとささやかれる」

「長恨歌が暗唱できると語る妓女もいる」

などと言う状態。

また、白楽天ほど日本で知られた中国の詩人はないと思います。

日本に持ち込まれたのは平安期でしたが、その後、菅原道真、清少納言、紫式部、藤原定家、他書ききれないほどの人に多大な影響を与え、特に源氏物語においては白楽天の長恨歌や琵琶行がないと、源氏物語そもそもの成立が考えられません。


さて、筆者が「白楽天 舞夢訳」を始めようと思ったのは、「源氏物語」を読んでいた時のこと。

源氏物語の最重要テーマの源流である「長恨歌」を、読もうと思い立ち、様々な漢学者の訳で読んでみました。

しかし、どの訳においても、誠に失礼ではありますが、学者ならではの正確性はともかく、「日本語としてどうなのか」というものが多く、納得ができなかったのです。

そこで、少々意訳になったとしても、基本は「なるべくわかりやすく」「学者の厳密な訳を参考に、白楽天の真意はこうであろう」ということを考え、訳を行ってきました。


訳をしたのは、青年期から最晩年期まで、ほぼ彼の人生をたどるようでしたが、訳をしながら彼の気持がグッと心に迫ることもあり、思わず笑ってしまうこともあり、かなり面白く有益な時間を過ごすことができました。

「その表現でいいの?日本とか日本語では」とか、訳をしている最中に白楽天先生から苦言を言われたような気がして、必死に書き直したこともあります。

また、そもそも漢字だけの漢文と、日本語のように「てにはを:助詞」を使用しないと文が成り立たない言語としての差異に、戸惑ったこともしばしば。

どうしても、助詞は当然として、何らかの表現を付け加えないと、文意が通っていかないのです。

ということで、時には大変なこともありました(笑)


最後に、「白楽天 舞夢訳」をご愛読していただいた皆様には、心から感謝申し上げます。

また、白楽天先生にも、当然感謝、今夜は長恨歌を読みながら、「酒飲みませんか」と、声をかけて見ることにいたします。



                                  (完)



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白楽天 舞夢訳 舞夢 @maimu

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