第5話 現在
結婚した翌年娘が生まれ、狭くなると考えて中古の庭付き一戸建てを郊外に購入し引っ越した。
娘が小学校に入ると同時に妻……瑠美は近所の郵便局で窓口のパートを始めた。
担当上司がセクハラすると頻繁に愚痴をこぼしている。
でも、仕事自体は嫌じゃないのか、いつもどこか楽しそうだ。
俺は家のローンを抱え、娘の将来のためにもと、借金の返済と貯金に勤しむ毎日だ。
以前と比べると通勤時間はかなり長くなったけど、まあ、静かな住宅街で娘が暮らせると思えば辛くはない。
居間にはアップライトピアノを置いた。
娘にも瑠美と同じように楽しんで欲しいと言って、娘自身がやりたいと言ってもいないし、居間が狭くなるから要らないという瑠美の反対を押し切って購入したんだ。
今も娘が練習しているけれど、俺には誰の曲を弾いているのか判らない。
がさつな俺に判る曲などほとんどない。
でも瑠美と娘が楽しんでいるならそれでいい。
娘が弾く曲にあわせて鼻歌交じりで瑠美は家事をこなしている。
その様子を見てるとやはりピアノを購入して良かったと思う。
ピアノが曲を奏で、共振が生じるたびに俺は幸せを感じられる。
多分、他の家では嫌われるのだろう。
でも、我が家で共振が嫌われることはこの先もない。
娘には判らないだろうけれど、理由は俺と瑠美が判っているからそれでいい。
―― 彼岸が近づいてきたな、今年も父さんと玲奈の墓参りに行かなきゃな。
懸命に練習する娘と洗濯物を干してる瑠美。
二人を見ながら、はっきりとした過去へと送ることができた故郷を思っていた。
ささやかなきっかけ 湯煙 @jackassbark
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