へんてこなお面

小野 大介

本文

 とある神社のお祭りに、へんてこなお面を売る屋台があった。


「なぁなぁ、おじちゃん」

「ん? おお、いらっしゃい。どれにするね?」

「あのさぁ、これってなんのお面なん?」

「どれだい? あ……へぇー、ボウズ、こいつが見えるのかい。こりゃあ驚いた」

「なんで?」

「いや、こいつは普通、ボウズのようなもんには見えないからなぁ」

「なんで?」

「なんでって、それは……まぁ、しゃーないか。ボウズ、いいか、ボウズにだけ特別に教えてやる。でも、他の人に言っちゃあダメだぞ、ここだけの秘密だ」

「うん、わかった」

「約束だぞ。……いいか、こいつはな、妖怪のためのお面なんだ」

「妖怪?」

「そう、妖怪だ」

「うっそだー。妖怪なんていないって母ちゃん言ってたよ」

「嘘じゃねぇよ、妖怪はちゃんといるんだぜ、お得意様だ」

「オトクイサマってなに?」

「え? あー、大切なお客さん、かな」

「ふーん」

「本当だぞ、妖怪はちゃんといる。だからこのお面を置いてるんだ」

「どうして?」

「妖怪が人間のフリをするためさ」

「どうして?」

「質問の多い奴だな……どうしてかっつーとな、ボウズみたいにお祭りを楽しむためさ。ほれ、考えてみろ、妖怪のまんまじゃ目立ってしょうがないだろ。他の皆がびっくりしちまう。そしたらお祭りを楽しめないし、屋台で買い物もできない。ボウズだってお祭りに来たら、わたあめとか焼きそばとかベビーカステラとか食べたいだろ? 金魚すくいとか射的とかしたいだろ? でも妖怪のまんまじゃそれができないのさ。だから人間のフリをする。このお面はそのためのものなんだよ」

「ふーん」

「ふーんって、それだけ? けっこう喋ったのに……」

「なぁなぁ、おじちゃん」

「お兄ちゃんな。なんだ? まだなんか聞きたいことあんのか?」

「そのお面っていくらすんの? これで買える?」

「えっ、いや、ボウズはいらないだろ。ってか、妖怪じゃねぇもんには売れないよ。それにこれ、けっこう高いんだぞ」

「えー、いいじゃんかー、ケチー」

「ケチって、口の悪い奴だな」

「ねぇねぇ、お願い!」

「ダメだって、これは妖怪以外に売っちゃいけない決まりになってんの。だからダメ」

「ぶーぶー! なんでダメなのさー!」

「詳しいことは知らんけど、ダメなもんはダメ! ほら、お兄ちゃんはお仕事で忙しいんだから、行った行った」

「うー、かぶるだけでもダメ? かぶってみたいー!」

「ううっ、そんな目で見るなよ……わかったよ、かぶるだけだぞ、ちゃんと返せよ」

「やった!」

「現金なやっちゃなぁ、まったくぅ。ってか、人間がかぶったってなんの意味も無いのに……あれ?」

「んー?」

「おまえ、もうかぶってるじゃねぇか」

「え?」

「ほら、これ……よっと」

「えっ!?」

「はぁー、こいつはまた見事な! 先代のものかな? ……いや、これは先々代のもんだな。うん、そうだ、そうに違いねぇ。ハハッ、すげぇなこりゃあ。こんな見事なもん初めて見たぜ。かぶってることにぜんぜん気づかんかった。さすが、天才と呼ばれた先々代だわ。こりゃあきっと、人間の顔の皮を生きたまま剥いで作ってるなぁ。そうじゃなきゃ、ここまでの変身は――って、おい! ボウズ! どこ行くんだよ!? あっ、お面! お面忘れてるって! ちょっと! あー、行っちゃったよー。えー、これどうしよう……あっ、ちゃんと名前書いてあんじゃん。あー、あそこの子かぁ。なんだ、近所じゃん。しゃーない、後で届けるか……ちゅーか、人間じゃないってこと、ちゃんと教えてやりゃあいいのになぁ、可哀想に……」

「失礼、お面を売っていただけるかな?」

「あ、いらっしゃい! どれにします? 子供に大人に老人、男に女と、色々ございますよ!」


【完】

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へんてこなお面 小野 大介 @rusyerufausuto1733

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