8
霊は何故生きている人の前に、姿を現すのだろう。
霊は何故生きている人に、なにかを伝えるのだろう。
霊は何故、答えを教えてくれないのだろう。
僕は幼馴染の祖父から、何をお願いされたのだろうか。
ただ単に、彼とこれからも仲良くいてほしいということだったのだろうか。
それとも、彼のこれから先のことを、僕に託していたのだろうか。
彼が役者になるという話を聞いていたのは、高校時代に再会した時だった。
それから少しして、中古の外車を持ち始め、レースドライバーのライセンスを取得していた。
大学に入ると、彼は怪しい行動を取り始め、コンサートのプロモーターとして、僕に近付いた。
大学生最後の年になると、ついに犯罪に手を染めてしまった。
もしかしたら、彼の祖父はこうなることを予期していたのかもしれない。
だからこそ、僕によろしくねと言ったのではないだろうか。
既に終わってしまった話だ。だから、こんな考察をしたところでどうなるわけでもない。
ただ、もしそうだとしたら。
もし僕の想像が正しいのなら。
僕は彼の祖父の願いを叶えられなかったことになる。
考え過ぎだろう。この話を聞いた人なら、皆口を揃えてそう言うだろう。
それでも僕は、考えてしまう。
もしも。その言葉から始まるまた別の結末を。
考えてしまうのだ。
結末は、彼との決別。
でも、もしも。
彼ともっと話す機会があったら。
彼の事情に立ち入っていたら。
彼の罪を糾弾していたら。
彼とはまだ普通の知り合いでいられたのだろうか。
答えはわからない。
誰も答えられないから。
死者であっても答えてくれないから。
この話は全て、本当にあったこと。
それに僕が、無理矢理に意味を持たせているに過ぎない。
でも、僕はあの時のことは、何か意味があったと思いたい。
『二十歳になる前に霊をみたら、その後の人生でもまたみえるだろう』
こんな話を昔聞いた。
ならば僕は、この後の人生で、少しばかり期待するとしよう。
また彼の祖父が現れて、僕に答えを教えてくれるまで。
僕はまた、霊に逢うことを怖いと思いつつ、ほんの少しだけ楽しみにしている。
一度逢ったのなら、二度目の再会もまた、微笑んで迎えてくれるだろうから。
そして、僕はその時こう言うだろう。
「あの時の答え合わせをさせてくれ」
≪了≫
霊は答えを教えない。 ミウ天 @miuten
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