配られたカード2
少女は笑っていた。人間壊れたらネジの飛んだ玩具のように笑い出すというのを漫画か何かで見た気がするがそんなものじゃない。その笑みは自信に満ち、余裕があり、逆にこれから起こる事態に対する期待が混ざっているように感じた。
「おいディーラー、もういいだろ。とっとと残ったカードを見せろ」
男がディーラーを急かす。すると少女は笑顔から一転、BETタイムに見せたような凛とした表情に戻り言い返した。
「あら?まさか勝ったつもりでいるの?まだめくってないカードが二枚もあるのに?」
「ふん、まだ諦めきれないか。まぁいい。カードをめくったら次はそのスカートを自分でめくってもらおうかな」
「あらいいわよ。でももし私が勝ったら……ちゃんとそこのチップは貰っていくからね?」
「好きにしろ」
男はフルハウスという鉄壁の盾があるゆえ、これから手に入るであろう女の品定めをしていた。もはや彼女の言葉なぞ敗者の最後の戯言程度にしか思っていないのだろう。
でも彼女は本気で言っていた。これから勝つつもりだ。無理だ。絶望的だ。確かに勝てる手はさっき気がついた。
ストレートフラッシュ。同じ図柄、連続した数字を揃えるとできる役。しかしテキサスホールデムにおいてこの役は確か0.03%……くらいの確率だったはずだ。3/10000、いや残りのカード二枚でスペードの7、9を引かなければいけないとなるともっと低いかも知れない。そんな低確率なのになぜそこまで自信を持てる?俺には理解できなかった。
この状況を集客に使えるだろうと見込んだカジノ側はディーラーにもう少し焦らすように指示されていたらしくまだカードはめくっていなかった。そのことに業を煮やした男が立ち上がる。
「もういい!俺の勝ちだ!とっとと終わらせて俺の女に…………!?」
瞬間、場が凍った。そこにはスペードの7も9も無かったのにだ。後に聞いた話だがディーラーと男は知り合いだったらしく今回の手札も仕組んでいたらしかった。
しかし誤算だったのはコミュニティカードには一切手を触れていないということ。そこが今回の敗因だった。
少女が手札を分かりやすく並べて言い放つ。
「どう?ジョーカーとジョーカー、私はストレートフラッシュであなたはフォーオブアカインド、私の勝ちよね?」
そう、あるはずのないジョーカー2枚が出てきたからである。
一般的にジョーカーは何でもアリ。ただし五枚目のカード、例えばファイブオフアカインドなどには利用できない。それ以外なら場に出てようが好きなだけ使える。
そんなことは誰でも知っているだろうが全員目を丸くさせていた。そう、カジノのポーカーなどにジョーカーは使わない、抜いてあるはずだからである。
「こ、これはどういうことだ……?」
「なにって、決まってるじゃない。私の勝ちよ」
「そうじゃなくて!なんでジョーカーが入ってるんだ!しかも2枚も!」
「あら?そこのディーラーさんがこそこそ手札に細工しているのに夢中で抜き忘れたのかもね?」
「あっ……!」
カジノトランプは本来使い捨て、1ゲームごとに新しいトランプを使う。イカサマを未然に防ぐためである。そのためシールが貼ってあり、中には正式な証明書、説明書、カードが順番に入っている。だからカードを切る際に、あらかじめAなどをカードの一番下にセットしておき、自分に分かりやすいように切れば手札の操作は可能なのだ。一部のカジノではそのようなイカサマがないように機械にシャッフルしてもらったりもするのだが結局はイタチごっこになってしまう上、この店は古い。昔ながらの客を大事にしているらしく以前のスタイルを変えられなかったのだろう。故に、このような事故が起きた。
「で、ディーラーさん?この勝負、どうなるの?ノーゲームなんて嫌よ?二人が勝ったことにして店側が負担するか、このおじさんから私が取るか、どっちかじゃないかしら」
「そ、それは……」
「お、おい!まさか俺を裏切る気か?!」
ディーラーと男が慌てる。これは店側の失態だ。男はイカサマの共犯者だとしても店側の責任にもなる。いや、店が強引に圧力をかければこの男一人に擦り付けることもできるな…。ただ、まぁ、言えるのは
「とりあえずもう眠いから私は帰るわ。どちらにせよ私にはチップ払われるっぽいしこれもらっていくから」
そういってテーブルの上にチョコン、と乗っかるとどこからか持ってきたカバンにチップを全て入れ始めた。
「うーん、入らない……そこのスタッフさん!このチップ逆両替!」
スタッフやオーナー、ギャラリーなどがごった返しになっている中、俺は勝負の結末を見届けられたので満足気な足取りで帰路についたのであった。
トジバクギ 清浄院夏海 @switchge003
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