生きている本

 WEB小説では、現実を綴った精緻な作品には出会えないのかと思っていた。そもそも需要が違うのだから、そんな作品を求めることがお門違いなんだけれども、僕はなんとなくその希望をずっと捨てられずにいた。

 ここにあったのだ。僕の求めていた物語だった。作中の言葉を使うなら、僕にとってこの作品はまさに「生きている本」だった。
 閉鎖的で、虚無感が漂っていて、センチメンタルな若者の心情がありありと描かれていた。どこか生きづらくて、もどかしいような感覚。その感覚が生々しく作品から伝わってくる。

 私小説ということもあってか、とてつもなくリアリティがあり、それがこの物語に重厚感を生んでいる。
 主人公は試行錯誤を繰り返して、過去との決別をする。主人公はまさに、1歩を踏み出していた。そんな主人公の成長を、丁寧に描き切った本作を読めたことを誇りに思う。

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