第12話 OverRide
「司令、UHEMPがここにあるというのは確かな情報なのですか」
「確証はなかったんだがな……」
東儀は合流した下柳たちの問に答えながら、正面の自律砲台に向け手投げ弾を食らわせる。
「この厳重な警備、ここしかあり得ないだろう」
あの議員が言っていた施設。そこには多くの稼働中の機械があった。
警備用か、侵入者撃退のための攻撃だけでなく、運搬機などの非武装も目立つ。
現在直接施設に侵入しているのは"精鋭部隊"。
目まぐるしく変わる戦況が東儀が信頼のおける者だけに伝えていた非常用チャンネルの一つを通してやり取りされる。
ムラのあるアジトの情報、しかし、共通点があった。
――アジトへ侵入した敵戦術機と同じ戦術機が戦っている。
理解できない、ありえない。東儀らがその考えに至るのは至極当然である。
これまでそんな出来事は一度もなく、"解放軍"対戦術機、この立ち位置が当たり前だったのだ。
さらに連絡は続く。
敵戦術機――#12より#16が東儀たちの元へ向かっている。
「司令、どうするんすか」
――今この施設にいるのは、たったの5人じゃないで……すっかあっ
「神崎っ」
部下を撃った移動式自律砲台を下柳が破壊する。
地面に赤い線を引き神崎は壁際に連れられた。
止血、彼は右肩を負傷していた。
この状況下ですべきこと……
「これを持っていけ」
東儀は下柳に、2.5インチのデータドライブを渡した。
困惑する下柳。
「お前なら、任せられる。これをUHEMPで流せ。それが起動すれば、すべて終わる」
――司令は何処へ。
東儀は彼に背中を見せた。ちょっくら、巨人狩りにでも参加しに行く。そう答え、走り出した。
◆ ◆ ◆ ◆
配置した地雷へと、敵機を誘導する。
しかし、
――爆発しないだと……
誘導をしていた部下がその間に何人も命を散らす。
指揮もくそったれもない状況下、東儀の言葉を何人がかみ砕いたか。
何よりも敵戦術機が――速い。
それが4機。
一機でも、下柳らがいる施設に行かせてはならない。
「司令官、撤退しましょう」
「駄目だ」
――耐えてくれ、撃破する必要はない。奴らをここに引き留めるんだ。
そう、UHEMPさえ起動すればすべてが終わる。
米中戦争時、東京郊外で使われた大規模電磁パルス兵器。その亜種でもあるのだ。
移動、攻撃、追撃、散開。
確かに施設からは遠くへ向かっている。
ただ、東儀らの足元は段々と赤く。多くの血肉が地面を覆っていた。
インカムに通達。
――#17を目視で確認。
仲間の位置。それが、
突如、目の前に現れた敵戦術機、交錯する。
位置から見るに、いや、あの機体はBR-101……
コンマ数秒の隙。
だが――東儀の心臓は鼓動を続けている。
血液が煤けた酸素を吐き出す。
#17……BR-101は、東儀らを追う戦術機へと向かった。
金属がぶつかり合う。ジャララという音が生き残っていたビル硝子を震わせる。
――轟音。
「司令っ、司令」
部下の平手で東儀は行動を開始する。
右手でインカムを抑え、下柳へ。
――コンバート、49%完了。
まだか。東儀が拳を握りしめた時、甲高い悲鳴が周囲に。
人だ。裸の"未来人"の男が、女児の手を掴んでいた。
一人ではない、一件ではない。銃で脅しをかけている者もいる。
「こっちを見ろっ」
「司令っ」
東儀は女児の目と耳を左腕で掴み、男の首をペンで刺した。
ペンを投げ捨て、自動拳銃に持ち替える。
左腕の中で子供が泣き叫ぶ。鉛玉がいくつもの脳を貫く。
――コンバート、69%完了
"未来人"の悲鳴が加速する。
背後で鳴る轟音と相まって、インカムの声は彼に届かない。
――コンバート、72%完了
彼の回路は暴走し、感情のみを出力し始める。
部下は同じく横に並ぶ。
――コンバート、76%完了
目の前の乾いた音、鉛玉の一つが東儀の左足にめり込む。
背後から流れ弾が飛ぶ。当たったのが戦術機のものでないのが幸いだった。
――コンバート、78%完了
部下を移動させるも、東儀の足はもう彼のもので無くなっていた。
幼子は部下が連れた。地面が傾いたのか、彼は仰向けに倒れてしまった。
――コンバート、84%完了
彼は理解した。
目の前には、これまでと違う形をした戦術機が目の前に迫っていた。
――コンバート、89%完了
部下が叫ぶ。でも役職で叫ばれると、まるで死ねと言われているようだ。
東儀は、6連のグレネードを真正面に向けた。
――コンバート、92%完了
だが、彼は引き金を引かなかった、いや、引けなかった。
状況判断によるものではなく、唖然としたためだ。
――コンバート、96%完了
BR-101、鹵獲した機体が彼に背を向け庇った。
飛び散る火花、散り焼けた装甲が彼の身体を焼く。
――コンバート、99%完了
――コンバート、正常終了
稲妻が走った。
目の前の世界が書き換えられる。
久しく混凝土の黒、血潮の赤だけを受けていた脳は混乱した。
色とりどりに目まぐるしく変わる世界。
数分、人々はただ目の前の世界を見続けた。
そして――
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