エクスターナル・ブレイン
たまかけ
前編
第1話 2082 BR-202
「まただ。脚部ユニットに損傷が」
機動自衛隊所属
角ばったゴーレムのような
未だコイツが活躍したことはないが、それは2084年の日本が平和であることを暗示していた。訓練で動かすだけで十分だ、と雨儀は思っている。
雨儀は故障箇所を確認した後、作業中にかかって来た電話に折り返す。無駄のない周波数の波は、すぐさまインカム上で音声に変換された。
「雨儀ちゃん、もしかして仕事中だった」
「お気遣いなく、真由子さん。私より国会の方が忙しいでしょうに」
話し相手は稲垣真由子。国会議員で雨儀のいた児童養護施設の代表責任者であり、雨儀にとって20年以上前に亡くなった親代わりのような存在でもあった。
「何かあったんですか」
「雨儀ちゃん元気かなと思ってね。もうそろ28歳になるでしょ、浮ついた話も聞かないし気になってね。このままだと私と同じ独身アラフォーよ」
「私は真由子さんみたいに『ひまわり』で子供たちと……」
「そんな事も言ってられないのよ。今回の国会で子育て手当が更に厚くなったじゃない。つまり少子高齢化対策で独身が生きにくくなるのよ」
少子高齢化の問題について、約40年前から始まった地球寒冷化や20年前に終結した米中戦争の影響で日本は身を切る改革しか起こせていない。戦後たった20年で日本は以前よりも強固なインフラを整備できたが、今はそれの代償を払っているような状態だ。
「まだ機動隊で、それも部隊長の雨儀ちゃんはあんまり意識することないかもだけど、就職できなかった子たちは悲惨よ。今では共働きならぬ共職探しのカップルが急増してるデータもあるし」
「……結婚かぁ」
雨儀が思い出すのは子供の頃の一幕。自分の大好きだった人に告白して見事に振られた甘じょっぱい出来事。
「施設の子たちには将来の為に、手当てのお金残してあるから、あっ、ゴメン。もう時間だ」
「大丈夫、電話ありがとう」
「ほんとごffdjん1ffなjjっ」
通話はそこで終了したが、雨儀のインカムには不思議なノイズが入り込み続けている。
ノイズは不規則ではなく、周期的に同じ信号を送っているように感じる。雨儀は興味をそそられ、工具の電源を落とてインカムを手で抑えた。
直接脳波共鳴方式が開発された今、未だに物理デバイスのインカムを使っているのは、単にこれが『ひまわり』で買ってもらった思い出の品だったからである。
雨儀はノイズの強い場所を探してあたりを歩いていき、脳内がノイズで飽和しそうにになったその時、
――プツンと蜘蛛の糸が切れるように意識が途切れた。
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