第10話 守る兵器

 #03,#04の無力化に成功したが、現場は未だ混乱している。

 トーギはバギーを走らせ、アジトへ向かったが状況は似たりよったりであった。

 どうしてこんなことに、と雨儀は呟く。

 メディアだ、と応えるトーギに雨儀は否定を含む疑問をぶつける。


「偏った情報を流すメディアはここにいないはず、人々を煽る因子はどこにも」

「違う、メディアが皆無だから状況が悪化している。行動する原因となる情報がなければ人は論理的思考ができなくなる。ウソホントもない。偏った情報だろうが、それに対して賛同するにしても、反対するにしても、明確化された核となる共通項がある、それがっ」


 トーギは雨儀の頭を押さえつける。雨儀は首で顔を前に向ける。

 視界に入った裸の男の手元が銃弾の発射火薬で閃光。

 時間誤差ラグ中々のない発砲音が続いた。複数、雨儀の耳元でも鳴る。

 トーギが、男の右手を撃ちぬいた。

 引き金から離れた男の指が再び動く前に、トーギは駆け、銃床ストックで男の頭を強打する。


「"軍"と一般人が衝突しているな」

「分かってる。でも理由は」

「目覚めたら様変わりした日本に、"解放軍"って得体の知れない連中がいるんだ。……くっそ、見落としていた」


 雨儀は、希望的予測でインカムのチャンネルを変える、"いつも"使っていたチャンネルに。

 話ができる"あっち"の人間に会うためだ。

 運良く相手側の発信を受信。考えることは同じだ。雨儀は息を吐いて連絡を入れた。




 血と悲鳴と罵声と、人の"感情"がアジトに響き渡る。転がる死体は一般人だけでなく"軍"のものもある。男も女も子供も老人も無差別に。

 走る。トーギと雨儀はただ走った。

 そして。


「真由子さん、間に合った」

「うっ雨儀ちゃん、その格好、それに」


 落ち合った場所、まだ多くの一般人が生き残っている場所で稲垣と雨儀は再開した。

 容姿が若返っていようと、孤児院での生活がある彼女らはすぐに相手が誰であるかを認知した。

 トーギは周囲に目を向ける、中年の人が多い。何かの集まりかと思ったが、次の発言で誰かを理解した。


「はっ、"解放軍"などと抜かすテロリストと繋がりがあったとはな。これは責任問題に……」


 パンッと乾いた音が反響する。

 トーギが無言で引き金を引いた。鉛球は地面にめり込み、中年の男は腰を抜かして顎を落としている。

 雨儀と稲垣は会話を続ける。トーギ止めたも中年どもを警戒しながら、耳を傾ける。


「雨儀ちゃんがいなくなってから、とにかく色々な名簿を調べたの。それで、わかったことは2つ」


 稲垣は、現在の状況を軽く聞くと今度は自分の持つ情報を開示した。

 ――戦後、生き残っていたのは地下避難所の人間だけということ。

 ――雨儀のように行方不明となったのは、機動隊員、それもパイロットに限定されていたこと。


「僕達は勝手に手を合わされていたってことか。でも、これで判明した」

「……前に言っていた仮想空間のこと」


 雨儀は、前にトーギから聞いたある仮説のことかと聞いた。


「そうだ、シェルターにいた人間は全員ある装置の中に入っていた。お前さんらがいた"時代"は、仮想空間の時間加速で"未来"を進んでいたと考えるのが妥当だ。稲垣、雨儀がいなくなってからと言ったな。それはいつからだ」

「かれこれ1は経とうと……」


 トーギと雨儀は顔を見合わせた。雨儀が"こっち"に来てからまだ経過していない。仮説の裏が取れた。

 仮想空間は、肉体を動かす必要がない。電気信号のやり取りだけで世界を構築している。脳の処理速度を最大限に活かせ、現実よりも早く時間を動かすことができる。

 雨儀は、数秒思案し口を開く。


「じゃぁ、シェルターに居た人々を仮想空間に"拉致"した組織は、技術の飛躍的進化ブレイクスルーを狙ったってこと。だから、BR-101がこの時代に」

「あぁ、だが、それじゃシェルターに元々細工をしていたことになる。十数年、誰もが現実であると疑わなかったんだ。避難していた人らを全員同時に仮想空間に持っていくことは可能なのか」

「……UHEMP」


 稲垣が呟いた言葉にトーギと雨儀は目を丸くする。

 それは都市伝説の類では、雨儀が口を開く。

 稲垣は、UHEMPの実在を"未来"で確認している、と言った。

 

「私たちはインカムを使っていたけど、直接脳波共鳴方式ってあったでしょ。UHEMPから逆輸入したとされる技術が」


 雨儀は、はっとした。

 同様の考え。トーギは、この混乱を変えるかもしれない、と口にした。


「ただ、その兵器があったとしても場所が……」

「…………だ」


 中年の男がのっそりと動いた。すかさずトーギが銃口を向ける。

 男は両手を上げたが、その態度は冗談めかしている。


「おいおい、こっちは情報をやるって言ってんだ。UHEMPの場所をな」

「どうして知っているの」

「どうしても何もな。政治家なら誰でも知ってる情報だ。何、与党のお嬢様には酷なことかも知れねがな」


 個人的批判、性差別発言、稲垣は胸に押し込んだ。

 情報を受けたトーギは、銃を下ろした。

 彼は考え出した。UHEMPを使ってこの状況を打開する方法を。


「雨儀、お前はアジトに残れ」

「なぜ」

「危険だからだ。新手が来る可能性もあるし、アジトの内も外も殺し合いが起こってる。部下どもは、もう何も言ってこないだろう」


 雨儀は、なぜ、と繰り返す。


「お前が……大切だからだ……」


 喉を絞り出す声に、雨儀は息を飲む。

 トーギは、雨儀に顔を向け、重い口を開いた。


「僕は、峰崎東儀トウギ……君の父なんだ」

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