第5話 変更点

 雨儀はトーギの許可の元、BR-101のコックピットを探す。そう、BR-101の搭乗者パイロットである彼女がいるのだ。


「貴方、バールのようなものはある。あるなら貸して」

「はっはい。あります……こちらです」

「ありがとう、狭山サヤマ君だっけ。若いのに技術本部長とはやるねぇ」

「きょっ恐縮です。それに雨儀さんこそ若いでしょうに」


 アジトの技術本部所属の狭山が照れくさそうに言う。彼は20手前の若い男だ。

 雨儀はトーギに自己紹介した時、下の名前で呼ばれることになったので、アジトに来てもそのままでいた。わざわざ自己紹介するのも面倒だし、トーギだけが下の名前呼びとなると、曲解して勘ぐってくる輩が出てきそうだと判断したからだ。


「……やはり内部に空洞はなさそうですね」


 技術本部長だけあって、狭山は雨儀がBR-101の装甲を叩いている理由を察したらしい。


「あぁ。しかし、本来あるべき入り口がどこにもないとはな」


 そう、BR-101にあるべき搭乗者パイロット搬入口が存在しない。実際バールで叩いたところで空洞なんて分かるのか微妙なところであったのだが。

 鹵獲作戦を実行した時の影響で外部装甲に所々焦げが目立つ。元祖戦術機らしく、多くの欠陥を抱えた機体で、外部から人間で言う神経を麻痺ショートさせられる。


「開けるしかないか」

「いつでもいけますよ」


 さすが日本人。気が回るな、と雨儀は同じ日本人として誇りに思う。

 狭山を促し、操縦席コックピットがあるべき場所を開かせる。

 雨儀は一旦、BR-101から降りる。甲高い金属音と火花が飛び散る中、脚部に目を向けると違和感を覚えた。正確にいうと、"本来のBR-101"にあった設計上不要な隙間、その違和感が無くなっている。


「雨儀さん、完了しました……」


 思考を切り替え、狭山のところに向かう。雨儀は2度目の衝撃を受けることとなった。


「コックピットが――無い」


 開かれた胸部、本来あるべき空間はすべて精密機コンピュータに占められていた。人が入り込む場所がない程に。

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